「タイムマシーン」「タイムマシーン」今日の彼女の髪はショートになっていた。 私と同じ会社にいた頃の、 一番彼女に似合うと思っていた髪形だった。 「この髪型がすっごく似合うよね。」 「そう?子供の頃からいつもこれだよ。」 彼女が笑う。 変わらない笑顔だ。 だけど、 毎回会う度に大きくなる私達の子どもが、 年月の流れをあらわしている。 見た目だって、 もう決して学生と聞かれることは無いだろう。 お互いの近況をレストランで話し、 彼女の家に向かった。 子供たちはもう、 親がいなくても安心して遊んでくれている。 彼女は娘。 私は息子。 男女関係なく遊べる時間は、 あとどれくらいなんだろう? 持ってきた小さい人生ゲームは、 息子が有利に進めたらしい。 彼女の娘はクールに、 「面白い?」と聞かれて「つまんない」と答えた。 違うもんで遊びなよ、と、 結局体を使ったテレビゲームに落ち着く。 彼らを見ながら私たちの話題は、 共通の趣味である読書や映画に移る。 「感受性が薄いって言われたことあるよ。 実際そんな気がする。」 私が言う。 「感受性?そう?」 彼女が尋ねる。 「ピアノレッスンって観たことある? 最後のシーンでピアノを捨てるシーンあるでしょ? ほら、紐に手だか足を出して。」 彼女が私を見て頷く。 「女って欲深いんだな~って思った。って言ったら、 同じ部署の男の先輩にそう言われた。」 彼女は笑いながら言う。 「感じ方なんて人それぞれでいいよねえ?」 大真面目な顔を作って、私から目を逸らさない。 コレが彼女だと思う。 「そりゃ、そうだよねえ?」 「そんなこと言ったら、タイタニックの感動したところってあるじゃない? あれ、私どこだと思う?」 「何よ?どこよ?」 私がワクワクしながら聞く。 「楽団が最期まで演奏し続けるところ。」 彼女が顔をクシャクシャにして笑い、 私も笑い過ぎて涙が出てくる。 「確かにアレは素晴らしい。」 「でしょ?ディカプリオたちじゃなくたっていいのよ。 何だっていいの。」 ああ、相変わらずだ。 と私は思う。 きっと今は箸が転がっても可笑しいだろう。 つまらないことでも、 何だか可笑しいんだ。 場所が社員食堂から彼女の家のコタツに移り、 話の内容が職場からPTAのことに移ったとしても、 私たちは相変わらずだ。 お互いの中に、 変わらない自分たちがいるのがわかる。 タイムマシーンに乗って、 あの頃の自分に戻って、 あの頃と変わらない、 つまらない何かを語り合っている。 時間が来たので家に帰る。 まるでまた来週会えるかのように、あっさりと。 今夜のテレビ映画は「タイタニック」だった。 観ていて思う。 私が感動したのはどんなシーンだっけ? 当時の記憶が蘇る。 このシーンもあのシーンも覚えている。 私もいつか、 愛する人との思い出を、 老婆になって思い出すのだろうか? 次に友達に会った時に話したいことがある。 私の感動シーンもディカプリオじゃなかったんだよ、って。 あの頃ならきっと、 週明けに彼女の反応が見たくて、 少しワクワクしていた。 今はそう思ったとしても、 彼女に話すことは無いんだ。 それが離れるってことなんだろうな。 でも、次に会った時は、 涙が出る位笑えるような、 また違う話をするんだろうな。 いっしょにタイムマシーンに乗ってね。 ジャンル別一覧
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