「息子と私の夏休み」「息子と私の夏休み」小学二年生になる息子は、まっすぐに足を伸ばして眠っていた。 ジンベエの紐が解けて、 ポコリと覗いたオナカが妙に可愛いと思った。 ママぁーと甘ったるい声を出して、 起きたことを知らせると、 オンブをして居間まで連れてってと言う。 もう27キロもあるのに、 こうして欲しいって言うのも今だけなんだよな。 そんなことを思って息子を甘やかして腰の上に乗せる。 兄を持つ私は、 男の子の手が離れるのは早いと知っている。 大きくなっていく体に、 現実の足音を感じる。 朝食のホットドックを見ると、 コレじゃなくてコーンフレークが良かったと軽く文句を言った。 私も作ってから失敗したと思ったけど、 スンナリ食べてくれたので、まあいいかと思った。 夫が会社へ行き、二人で家に残る。 学校のプールが始まるまでに宿題を済ませると、 持ってるカードや折り紙、 木で作った刀などを部屋にゴチャゴチャと出していて、 私はそれを片付けろと何度も言う。 私が本気で怒ってることがわかると、 息子は慌しく片付け出した。 二人で見る朝のテレビは、 熱血教師と不良の生徒が甲子園を目指す物語。 息子はフンフンとその主題歌を口ずさんで見る。 その様子を見るのが好きだ。 おまえもいつか、 こんなステキな人間ドラマを現実で体感するのかな? こんなに信頼できる人たちと出会えるといいね。 そんなことを願ってしまう。 もう私には戻らない時間だと思うから、 そう願うのか。 プールに行って、帰ってきた息子は、 友達と約束できなかったわりにガッカリしていなかった。 私と図書館へ行きたいと言う。 冷たいジャガイモのスープが飲みたいと言うので、 私が作ってる間に先に行かせると、 図書館で大人しく猫のロボットのマンガを読んでいた。 私を見ると安心したような表情を見せるので、 もっと早く来てあげれば良かったと思う。 私が本を読んでいると、 自分のカードを使って気に入った本を借りていた。 閉館時間まで図書館で涼んで、 帰り道を二人で歩きながら、 どんな本を借りたのか息子に聞いてみた。 息子は懸命に本に出てくる豚の話をするけれど、 イマイチ内容は把握できなかった。 いつかこんなふうに話してくれることもなくなるだろうか。 そう思うと、 今しか過ごせないこの時間が、 妙に貴重なものに思えた。 私はスゴイね、って息子の頭を撫でた。 たまにはママと過ごせて嬉しい? そんなことを聞いてみると、 息子は満足そうに頷いて、 最近嫌がっていたのに、 手を繋いでくれた。 私より小さい、 柔らかくて紅葉みたいな手。 5年後の夏休みはどうなっているだろう。 10年後の夏休みはどうなっているだろう。 隣に彼はいる? いてもこの小さな息子では なくなっているのだろう。 ふとそう思って、 見上げればそこにある、 夕焼けの空を見た。 風は、まだぬるい。 ジャンル別一覧
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