カテゴリ:ある女の話:アヤカ
今日の日記( 「となりの芝生」と大人になること)
「ある女の話:アヤカ1」 私は絵を描くのが好きだ。 あまり上手くない方かもしれないけど、 描いていると時間が経つのを忘れる。 近所にある絵画教室に通っていた私は、 そこで黙々と絵を描く男の子と知り合いだった。 彼は私の友達の弟の友達だった。 絵画教室にいる時は知らんぷりしてるけど、 友達の家でダベってる彼の姿を私は知っている。 彼は一つ年下の5年生。 名前はタカダくんと言った。 私の友達エリコは、私と同じで絵を描くのが好きだ。 でも、マンガのようなイラストを描くの専門で、 特に絵画教室に行ってるワケじゃないけど、 とにかくそういった絵が上手い。 二人でよく、マンガのキャラクターをマネして紙に描いた。 彼女が話を書いて、私が絵を描いたり、 その逆をしたりして遊ぶことが多かった。 「アヤの話って、男の子がカッコいいよね。」 エリが褒めてくれる。 「エリの話はついシンクロしちゃうんだけど。 あのオチは いつもどうやって考えてんの?」 お互いに影響しあっていた。 エリは物語も上手だった。 そのせいなのか、 彼女がいると、私の思う話が次々と浮かんでくる。 タカダくんは襖を閉めると弟部屋になるところで、 弟くんたちと寝転がってマンガ本を読んでいた。 テレビゲームをしてる子もいる。 順番が来るまでマンガを読んでたり、 私達のとこに来て、時々しゃべったりする。 「これ、似てるね。」 タカダくんは私の絵を見てそう言った。 「俺も描きたい。 ヨッちゃん、鉛筆と紙貸してよ。」 エリがタカダくんに貸してあげる。 するとヨッちゃんと呼ばれるエリの弟も描くことにしたらしい。 他友達2名はテレビゲームに熱中していた。 タカダくんは私たちなんかよりよっぽど上手に絵を描いた。 「俺、将来、何か絵描くような仕事したいんだ。」 私が褒めるとタカダくんはそう言って笑った。 時々みんなで、エリの家の目の前にある公園で、 草野球をして過ごした。 エリの家は公団で、同じ団地内にたくさん子供がいる。 共稼ぎの家が多い。 近所の私はそれに混ぜてもらっている。 普段、学校では彼らはよそよそしい。 だけど、エリの家では違った。 男女関係無く遊べた。 そんなことして過ごせるのは、 私にとってラッキーなことだった。 私は何も考えず、 野球やサッカーみたいな体を動かして遊ぶことが好きだった。 クラスの女の子たちと遊ぶと、 後からああ言った、こう言ったとうるさい。 でも、男兄弟に囲まれてるからか、 そういう遊びをして過ごしているせいか、 エリはそういったところがなかった。 時々私は男に生まれたかったと思うことがある。 数年経ち、 エリは公団から離れたところの戸建てに引越した。 団地のみんなもそうしてバラバラになっていった。 私とエリは高校から学校が違ってしまったけど、 共通の趣味を持っていることでずっと繋がっていた。 お互い、何か絵や話を作っては時々遊びに行って見せ合った。 その時、弟くんとまだツルんでいたらしいタカダくんも、 やっぱりエリの家に来ていた。 その日、 私が帰る時に、ちょうどタカダくんも帰ることにしたらしい。 「アヤちゃんて、家ってこっち方面なの?」 タカダくんが聞いてきた。 「うん、あっちの方…」 私は家の方を指差して、目印のコンビニの近くだと行った。 「タカダくんは、着実に夢に向かってるみたいだね。」 私と同じ方面に家があるらしいタカダくんは、 私と並んで自転車に乗っていた。 タカダくんは、デザイン系の高専に入ったと聞いた。 そこで6年間、専門の勉強をできるらしい。 私は内心それが羨ましかった。 私は普通女子高に通っていた。 「ねえ、話づらいからチャリ降りてっていい?」 タカダくんが言った。 私もこんなこと今までなかったし、 またこんな機会があるかわからなかったので、 自転車から降りた。 「アヤちゃんは、俺の学校向きだと思ったけどな。」 「うん、行きたかったけどね、 親に反対されちゃった。 美術なんてお金になんないからダメだって。 でも教室は通ってていいって言うから。」 「ふうん。そっか。」 お互い小学校の頃から知ってるからか、 あんまり違和感無くしゃべれた。 アヤちゃんって呼ぶ人は学校では数人しかいない。 それが何だか親しみを感じた。 それにお互い高校生になったってこともあるのかもしれない。 自分の空気を持ってると言うか、雰囲気のあるタカダくんは、 大人っぽくなった気がした。 そのうちモテるかもしれないな…なんて私は姉気分で思った。 「俺、アヤちゃんの絵、イイと思うけどな。」 「そっかな?ありがとう。 でも、食べていけるような才能とかって言うと、 無いような気もするんだ。」 タカダくんは黙って何か考えているようだった。 「タカダくんには何か有る気がする。 デッサン力もすごくあるし、描きたいモノがしっかりしてるって言うか…。 それに私、タカダくんの絵好きだし。 元気が出るんだよね。 タカダくんの世界みたいなの感じるよ。 それにデザインっぽいのも上手じゃない?」 「やめてよ。 俺、自分のこと言われると、照れる…。」 タカダくんは照れ臭そうに笑った。 つられて私も笑った。 「今度学祭あるけど来る?」 「え?ホント?行きたい!」 「んじゃ、ヨッちゃんに言っておくよ。」 結局彼は、私の家の前まで来てしまった。 「ここがアヤちゃんの家?」 「うんそう。 裏のプレハブが私の部屋。」 「ふうん。」 タカダくんは、それじゃって帰って行った。 友達でも弟でも無い不思議な関係。 それがタカダくんだった。 続きはまた明日 目次 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[ある女の話:アヤカ] カテゴリの最新記事
|
|