カテゴリ:ある女の話:アヤカ
今日の日記(「華麗なるスパイ」の感想と息子誕生日の夕食♪)
「ある女の話:アヤカ26」 涙が出てきて、 隣の人に気付かれないようにハンカチで拭ってたら、 メールが入った。 オレモスキダヨ 心の中にあった淋しい気持ちが、少し紛れた。 顔が笑いそうになる。 窓側で良かった。 窓に顔を向ける。 ハートマークだけ送る。 それ以外の言葉は送らない。 淋しい。 帰りたくない。 戻りたい。 ずっと側にいたい。 あふれてくる想いを文にしたら、 それが膨れ上がって戻れなくなると思った。 タカダくんが側にいなくても、 心の中にいてくれる。 そう思いながら毎日を送りたい。 もらったメールの幸せ気分のまま帰りたい。 私は荷物の中から本を出した。 会社の友達が面白いって言ってた小説。 面白かったら、タカダくんにも教えてあげるんだ。 会社の生活が始まる。 お茶休憩の時間に、 私はパートのスズキさんに聞いてみた。 「スズキさんって、どうして結婚したんですか?」 「え~、うち? うちは、よくある話だよ~。 デキちゃった結婚ってやつ。」 「ああ~。なるほど。」 「うん~。 あの時は慌てたね。 そんなに付き合って間もなかったし。」 「どれ位ですか?」 「半年かな~。」 「それは迷いそうですね。」 「うん。でも一番盛り上がってた頃だったしね。 どんな人かもちゃんとわからないで結婚しちゃった。 お陰で結婚してから文句多かったね。 何にもしてくれないの。 結婚してからわかったからさぁ~。」 そうなんだ~?って私は夢中で頷く。 「でも、カッコ良かったのよ、当時は。 わかった時も、 オマエのためなら何だってして食わせてくから! オレと家族になってくれ! とか言っちゃってね。 何でもしてくれるなら、 脱いだものくらい洗濯機に入れてよ~とか、 たまには皿洗ってよ~とかって、 今は思うけど~!」 私はスズキさんのあっけらかんとした物言いについ笑う。 当時はって、なんですか~! って二人でゲラゲラ笑う。 でも、何だかんだ言って幸せそうなのよね。 「どうしたの? 結婚するの?」 あ~。 私はどこまで打ち明けようか迷う。 「彼が結婚しない?って。」 「プロポーズかぁ~。」 「う~ん、近いような、本気なんだか。」 「どれ位付き合ってるの?」 「子供の頃から知ってたけど、 最近付き合うようになって。」 でも遠距離恋愛だって話をしたら、 スズキさんは、あ~、それじゃあねぇ~って。 「ツライわね~。 身近にイイ子いたらそっちに行っちゃうかもしれないもんね。」 「あ~、ですよね。」 「いや、アヤちゃんもよ。」 「う~ん、そうなっちゃうのかなぁ~。」 「そうよ~、遠くの身内より近くの他人でしょ~。 でもまあ縁よね、縁。 結婚するなら遠かろうが近かろうが、結婚するわよ。 就職といっしょ~。 自分だけの思いじゃどうにもならないってね。 でもまあ、女の方が生活変わること多いから、 それだけは覚悟した方がいいわよ~。 結婚してみないとわからないこと多いしねぇ~。」 はーいって頷いてたら、そろそろ仕事に戻るかぁ~って。 スズキさんは、 そのうち会社帰りにゆっくりお茶してこうよって席を立った。 ふーん、そっか。 何か実感こもってる。 既婚者からは学ぶこと多いかも。 洗濯に、皿洗いね。 現実だわ。 私はタカダくんといっしょに過ごした時間を思い返す。 言えばやってくれそう。 言わなきゃやらなそう。 一人で暮らしてるから、家事のめんどくささはわかりそう。 生活の不慣れや不自由はきっと慣れる。 多分慣れると思う。 パソコンのキーボードを打ちながら思う。 私はこの仕事を別にやめてもいいかな。 この仕事にそんなに未練が無い。 向こうで探してもいいし。 家族になる…かあ。 あまり実感が湧かないな。 タカダくんのことは確かに身内みたいな気持ちはあるけど。 ただ、 この街から離れるのが不安。 タカダくんしか知ってる人がいない世界に行くのが不安。 でも、 タカダくんがいればいいかな…って思う。 タカダくんが来ない絵画教室、 何だか私にとって自然じゃない。 何かが物足りない。 タカダくんがいなくなってから、 ずっと、ずっと思ってた。 自然な世界に行きたい。 タカダくんがいる場所が、 私にとって自然な場所な気がする。 タカダくんもそう思う? アナタが戻りたいのは、 私のところってそういうこと? もう決めてたかもしれない。 タカダくんのそばにいようって。 今持ってるもの、 全部置いてっていいから。 続きはまた明日 前の話を読む 目次 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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