カテゴリ:ある女の話:アヤカ
今日の日記(映画「グラン・トリノ」感想と子供の台風の過ごし方☆)
「ある女の話:アヤカ52」 ようやく故郷に帰れることが決まった。 それと同時に家を建てることも話を進めることになった。 ローンも組むことになり、 ヒロトは故郷にいる設計師の友達と相談して、 自分の意見も取り入れた家にしたくてワクワクしていた。 いわゆる注文住宅にすることになったのだ。 なので、私たちの生活は一気にマイホーム計画の話題ばかりに。 ちょうど良かったと思う。 そうじゃないと、気持ちがどうしても赤木くんに傾きそうになる。 彼から、突然心の中を打ち明けるようなメールが来たりするからだ。 昨日はお疲れ様です! 仕事手伝ってもらって助かりました。 ホントは、ずっと俺、気持ち落ちちゃってて…。 昨日、つい話そうかと思ったけど、 何だかやっぱり口に出すと、ますますダメなヤツになりそうで。 俺、実は退院してからずっと彼女のこと探してました。 でも、どうしても見つからなくて…。 友達のツテをたどったけどダメで、 だけど、その友達から連絡がようやく来て、 彼女、結婚してました。 俺と別れて、結構すぐだったらしい…。 バカですね、俺。 聞いてからずいぶん経っちゃったけど、 未だに後悔してます。 それで、結構ムチャクチャやってました。 でも、このままじゃいけないですよね。 友達にも怒られちゃいました。 同情されてるみたいなのが嫌でずっと連絡取ってなかったんだけど、 そいつだけが唯一本心話せるやつで、 ケンカして。 そいつ、怒ったことなんか無いのに、 俺のこと本気で怒ってましたよ。 ちょっと目が覚めました。 あ~、今日はちょっと愚痴入ったメールだな。 すみません。 何だかやっぱりタカダさんに聞いてもらいたくなりました。 赤木くん担当の仕事データをいっしょに作っていた時、 会議室で、たまたま二人きりだった。 彼は近くでこんなことを考えてたんだな。 赤木くんが、 こんなに自分のこと曝け出してくれるなんて、 正直思ってなかった。 コレは友達だからなんだよね? そう思ってるからだよね? 時々勘違いしそうになる。 私のこと好きなんじゃないか?って。 だから無難な返事を出す努力をする。 そうじゃないと自分が何だか、 この人のことをどんどん好きになっちゃう気がするからだ。 あまり、私に自分の本音を曝け出したりしないで欲しい。 どうしていいのかわからなくなる。 彼が他の人に言ってない本心を、 聞けば聞く程辛くなってくる。 受け止めてしまいたくなってしまう。 友達としてだけじゃなくて。 バカだな。 彼がこうして自分を曝け出してるのは、 私が結婚してるからであって、 変に女としての警戒心が無いってだけなのに。 赤木くんから、 そのメールが来て、 彼が以前のようにだんだん戻ってきたような気がした。 変な噂も聞かなくなってきた。 良かった。 赤木くんはもう大丈夫だよね。 彼女はできてないみたいだけど、 彼の中に元彼女がいながら、 新しい笑顔を作ってる。 そんな気がした。 そんな彼の姿を見るのが好き。 私の視界の中で、 何気無い話をメールでして、 同じ日常を過ごしてくれた。 この日常が無かったら、 何も描けなくなった私は、 きっと空っぽだっただろう。 でも、私ももう大丈夫。 私は故郷に帰る。 もう赤木くんに二度と会うことも無いだろう。 心が揺れることも無い。 そして、友達としての楽しい思い出だけを、 持って帰るんだ。 契約更新ができないことを、 私は係長に伝えた。 係長は、 「もしかして、私が厳しかったから?」 って、心配な顔をして言った。 いや、そんなこと無いんです。 夫が仕事で故郷に帰ることになってしまって。 と説明した。 係長は、 今月いっぱいになるんですね…って、 ちょっと淋しそうに言った。 でも、ちょっと元気を出すかのように、 送別会を最後の日にしましょう、 って言った。 え?社員でも無いのに、悪いですよ。 って言ったら、 タカダさんは社員と変わりなく働いてくれていたから、と。 今までありがとうございました。と、 深々とお辞儀をしてくれた。 私も何だか申し訳なくて、 同じようにお辞儀を返した。 ああ、私はとうとうこの会社を辞めるんだな。 ヒロトは今週は故郷の会社へ行っている。 日曜には戻って来ることになっているけど、 しばらくは、行ったり来たりするらしい。 交通費が効率悪いと思うけど、 それが仕事ってものなのかな? 私は赤木くんにメールを打った。 良かったら、仕事が終わってから、 以前連れていってくれたお店で、会えませんか? 多分、今日係長に話したことで、 アッと言う間に私が辞めることは広まるだろう。 引継ぎもすぐに。 ここはそういう会社だ。 だからメールでも良かったんだけど、 自分の口から最後に辞めることを赤木くんに伝えたかった。 ううん、それは口実かもしれない。 最後に赤木くんと二人で飲みたかった。 そうでも無いと、 もう二人で飲むことなんて無いだろう。 ウエノさんじゃないけど、 私も赤木くんとの思い出が一つ欲しくなった。 私は昼休みに仲良くしてくれた女子社員の面々や、 新しく仲間に加わった派遣の女の子にも、 辞めることを伝えた。 みんな残念がってくれて、 カンダさんなんて、涙目にまでなってくれていた。 カンダさんだけには、以前から、 故郷にいずれは戻ることを話してあった。 送別会しようね~! とか、 いっぱいお茶しようよ! って、みんなと約束する。 部署に戻ると赤木くんから返事が来ていた。 いいですよ。 でも、今日残業をしないとマズイんです。 そっか。 でもコレは軽く無理って言ってるのかな? 断りのメールなのか、よくわからないけど、 今日は私は遅くなっても大丈夫だし、 強引にでも、誘ってみようと思った。 このままメールだけでさよならなんて、 ちょっと淋し過ぎる。 さて、どうしようかな。 ずっと待ってるって言えば来る? 来なければ来ないで、 友達として、あきらめもつく? そう言えば、マノくんが私をその手で呼び出したっけ。 人間、やりたいことがあれば、 多少強引なことでもするもんだ。 マノくんはホントに私のこと好きだったんだな。 つまらないことを今更思う。 今となっては、ありがたい、優しい思い出。 じゃあ悪いのでごめんなさい…なんて、 私は引き下がらないことにした。 いっそ当たって砕けちゃえ! その方がいいや。 思い残しは、しない方がいい。 大丈夫です。 突然、ごめんなさい。 お店で待ってます。 すぐに返事が来て、 9時頃には行けると思うことと、 赤木くんの携帯番号が書いてあった。 嘘! 携帯番号まで? 私は何となく嬉しくなった。 長距離電話なんてかけないだろうけど、 きっとこの街でのイイ思い出として残る。 お守りみたいなものになりそうな、 そんな予感がした。 続きはまた明日 前の話を読む 目次 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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