カテゴリ:ある女の話:アヤカ
今日の日記
(映画「ドラゴンボール EVOLUTION」「スピード・レーサー」感想とビックリ年齢!) 「ある女の話:アヤカ56」 金曜の朝になって、 何だか不安になった。 忘れてるんじゃないよね?…って。 この前の店に夜行けばいいのかな? どうしようかな、携帯に連絡していいんだよね? 行くことにしたくせに、 やめるべきなのか、また迷いが出る。 昼休み頃を見計らって電話をかけてみた。 でも、繋がったら何だか緊張してきちゃって、 すぐに切った。 もしかしたら、出られない状況かもしれないし。 夕方頃またかけてみようかな…。 いや、やっぱりやめようか…。 自分の連絡先を教えてなかったことを少し後悔した。 軽く昼ご飯を済ませると、 電話が鳴った。 「はい、タカダですけど。」 「あ、俺です。赤木です。」 嘘っ! 「あ、ビックリした~!」 「こっちこそビックリしましたよ!」 赤木くんが笑い声で言う。 ホッとした。 「ゴメンね、今日は有休消化しちゃったの。 派遣でも、何年も勤めるとあるんですよ。 でね、どこに行けばいいんだろう?って、 聞いておこうかと思ったけど、やっぱり夕方まで待ってようかな~って、 電話かけたものの、すぐ切っちゃったの。 履歴残っちゃったんだね。 仕事中、スミマセン。」 「いや、今は大丈夫ですよ。昼休みなんです。 じゃあ、せっかくだから、 こっちの近くまで来てもらおうかな。 実は、そうしてもらおうかと思ってたんで。 早目になって良かったですよ。」 赤木くんに待ち合わせ場所と時間を指定された。 場所を聞いて驚いてしまう。 人が集まる華やかな街だったから。 電車では一本で行けるけど、 彼はちゃんといろいろ考えてくれていたらしい。 やっぱり断らなくて良かった。 コレは私もキチンとしてった方がいいかも。 向こうにとってはただの食事なんだろうけど、 4つ下の彼の隣にいるのに、 ちょっと気後れしないようにしたい。 この前の洗面所での、化粧のハゲたミジメな自分を思い出した。 最後くらい、キレイに装ってみようかな。 以前、会社の帰りに気に入って買ったワンピースでいいかな? 前の会社の子たちと飲み会で着てって褒められた。 かと言って、あんまり気合い入れるのも変よね? う~ん、難しい。どうしよう。 こんなの久しぶり過ぎてわかんない。 でも、行くとなると、何だかちゃんとした思い出にしたくなった。 化粧をする。 いつもより、少し丁寧に。 軽く香水をつけた。 普通に女友達と食事に行くのだって、 ウキウキしてオシャレするんだもん。 コレだってその延長。 そう自分に言い聞かせる。 でも、これじゃあ、まるでデートだよね。 だって、ドキドキする。 女友達と会う時はこんなにドキドキしない。 今日だけ。 今日だけだから。 私は電車に乗った。 家にいると落ち着かなくて。 待ち合わせの時間まで着いた街でブラブラとウィンドーショッピングをして、 早目に喫茶店に入った。 コーヒーを頼んで、 席に運んで、 小説に目を落とした。 サスペンスものなのに、 内容が頭に入ってこない。 こんなことは初めてだった。 落ち着かないと…。 コーヒーを飲む。 ソワソワして、どうにも落ち着かない。 バッグからコンパクトを出して鏡を見る。 変じゃない? 濃くない? おかしくない? 閉じてまた 小説を読む。 溜息が出る。 本から目を上げると、 入口の方に赤木くんが来ていた。 ホッとした。 手を振ったら、 目が合って、 近づいてくる。 顔がちょっと驚いてるような気がした。 気のせい? 照れてるみたいな…。 「どうしたの?私何か変?!」 浮いてるのかな? 気合い入り過ぎたとか? でも、友達は褒めてくれたけど… 「あ、いや…、違いますよ!ちょっと普段と違ったんで…。」 そう言った赤木くんは、 ちょっと照れ臭そうに、嬉しそうに笑った。 私も照れ臭くなって誤魔化すように笑って言った。 「こんなこともう無いだろうから、おめかししちゃいました~!」 「すっごくイイですよ!惚れちゃいますね!」 赤木くんが、私の照れに気付いたのか、 調子を合わせてくれて、 褒めてくれたのが何だか嬉しい。 顔から火が出るってこんな感じかも? お世辞でも、 オシャレしてきて良かったと思った。 赤木くんが連れて行ってくれたのは、 イタリア料理を出すレストランだった。 少し薄暗い感じで、イタリアのレストランってこんな感じかな~?って。 客もくつろいでいて、 つい飲みすぎてしまいそうな陽気さがあった。 料理も美味しい。 ココは、友達が彼女といい思い出を作った店らしいんですよ。 って、赤木くんが言った。 あ~、なるほどね。 デート?告白かな?プロポーズとか? そんな話をしてると、 赤木くんもいつかこんなところでプロポーズするんだろうな、 なんて思った。 それでつい、いいな~なんて思ってしまう。 私もちゃんとしたプロポーズしてもらえば良かったかな。 なんて。 考えてみれば、ちゃんとプロポーズしたのは私の方じゃない? ま、いいんだけどさ。 赤木くんがマイホーム計画は順調に行ってますか? って聞く。 私はおじいちゃんの話を赤木くんにしてあったので、 うん、順調よ。って返事をする。 でもその会話が故郷に帰ることを連想させて、 何だか淋しくなった。 ああ、そうだよな。 あの時は赤木くんが、 私を気遣うようなメールをくれたっけ。 タカダさんのおじいさん、 幸せって聞かれて嬉しかったんですね。 あの時はすごく嬉しかった。 いきなりのおじいちゃんの死で、 仕事が手につかないところだったけど、 私が言った何気無いことが、 おじいちゃんを幸せな気持ちにしたかもしれないって。 赤木くんのお陰で何とかこなせた。 そんなことも思い出した。 いろんな思い出がせつない。 この人がいなかったら、 私、どうなってたんだろ? かなりつまらない毎日をこの街で送ってたんじゃないだろうか? ついチーズの味に合ってるのが美味しいこともあって、 ワインがいつもよりスルスル飲めた。 でも悪酔いしそうで水も少しいっしょに飲む。 それでも心臓がドキドキ言い始めていた。 酔ってるのかもしれない。 「私ね、女子校だったの。 だから、会社で赤木くんと、毎日メールで話せたり、 ちょっと飲みに連れてってもらえたりして、 ホントに嬉しかったよ。 共学気分が味わえたって言うか、 男友達ができたって言うか。」 変なこと言い始めてるな… と思うけど、止まらない。 赤木くんは男友達。 最初のうちは本当にそう思っていた。 でも今は、 そんなこと半分位しか思ってない。 私は嘘つきだ。 でも、赤木くんは私のこと友達だと思ってるでしょ? 私の滑らかになった舌は続ける。 「変だよね、共学に行ってた時は、そういうのできなかったのに。 社会人になってから、 そういう付き合いができる人ができたのって、 何だかすごく嬉しかったんだよ。」 コレは本音。 だけどこの気持ちが微妙すぎる。 友達としてなのか、男としてなのか… めんどうだからカテゴライズするのをやめた方がいい。 きっと意味なんて無い。 「赤木くんは、女友達とかいるんでしょ?」 「うん…、まぁ…、いますね。」 曖昧に頷いた赤木くんの返事に、 ちょっと胸が痛む。 私には赤木くんだけがそういう存在なのに、 赤木くんにとっては大勢の中の一人なんだ? 「じゃあ、私もその中の一人に入れて下さいね~!」 何だか悲しくなって、 ほぼヤケになって言ってみたけど、 その返事を赤木くんは笑って誤魔化した。 何よ~。 ちゃんと頷いてくれなくちゃ。 ああ、そっか。 こうして女の子たちは赤木くんにハマって行くのね。 道理でみんな泣き出すワケだ。 でもいいや。 私は泣くことは無い。 だって、私はただの友達だもん。 もともと友達以外にはなれないし。 何考えてるんだろう、私…って。 はしゃいでしまっていた自分が嫌になってしまう。 進むことは無い彼との現実の距離が、 妙に痛かった。 続きはまた明日 前の話を読む 目次 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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