カテゴリ:ある女の話:アヤカ
今日の日記(新ドラマ「傍聴マニア09」と週末ドラマ感想さらっと☆ )
「ある女の話:アヤカ68」 会社最後の日、 社員証を返すと、なんだかしみじみしてしまった。 前日、 会った時に何か約束すれば良かったのに、 もう最後だと認めたくなかったのかもしれない。 そのまま、 赤木くんといつものように別れていた。 会う度に思っていた。 このまま帰るべきなのかどうか。 裏切ったままの結婚生活を、 このまま続けていいのかどうか。 赤木くんがいなかったら、私はここで空っぽでした。 今までどうもありがとう。 システム管理の人に言われていたので、 私のアドレスは、もう無くなると思う。 最後のメールを送る。 メールを全て消す。 送別会が始まると、 いつもの飲み会のような気がするのに、 もう二度とこんなことは無いんだな…って思った。 赤木くんと飲むことも、 こうして遠くから彼を見ることも。 赤木くんがお酒を注ぎに来てくれて、 隣に座った時に、小声で耳打ちされた。 「明日会おう。会える?」 心臓が止まりそうになった。 顔から熱くなって全身に回る。 「赤木、オマエどさくさに紛れて、何、内緒話してんだよ!」 男性社員が騒ぎ出したので、 頭が真っ白になる。 「愛の告白しようとしてんですから、邪魔しないで下さいよ!」 赤木くんの言葉に、 顔が真っ赤になってるだろうと思った。 でも、私はお酒がすぐに顔に出るから、 そのせいだと思われてるといいけど… 「じゃあ、オレも混ぜろよ!」 男性社員が私を囲んでしまったので、 赤木くんは押し退けられてしまった。 今までのお礼や、 どさくさで握手されたり慌しいことになってしまったけど、 頭の中でさっき赤木くんが言った言葉が、 頭の中をグルグルと回っている。 やだ… どうしよう。 頭を切り替えないと…。 なのに酔いも手伝って、 頭が赤木くんの言葉でいっぱいになっている。 それでも、 本当にしんみりとお礼の言葉を伝えられると、 心の中にようやくジンワリと届いて、 本当にこの会社で最後まで働けて良かったと思った。 お開きになると、 私と同じ方面の人たちに誘われて、 流れのままにタクシーに乗ることになってしまった。 みんなでタクシーの中でしみじみと、 ありがとうね、とか、 もう来ないなんて実感が沸かないね、とか、 いっしょに仕事ができて本当に良かった、とか、 そんな話をしてると、 アッと言う間に家の近くに着いて、 私は大きな花束と共に降ろされてしまった。 手を振って見送る。 みんなも手を振る。 何だか実感が本当に沸かない。 もうあの場所に行くことは無いんだ。 暗い部屋の中に入って電気をつけると、 沢山のダンボールが私を現実に引き戻す。 業者が来て荷物を送ったら、 掃除を済ませて、 不動産屋に最後の手続きをして、 家の後処理を済ませたら、 帰ることになってる。 受話器を取る。 番号を押す。 もう多分、本当にコレが最後だ。 そう思うと、 もうためらうことも無い。 コール音がして、 赤木くんの声が聞こえた。 「明日、会おう。」 「うん。 迎えに行く。」 アレが赤木くんとキチンと会えた最後の日だったんだな。 私は思い返す。 この手に抱き締めたぬくもりも、彼の体も、 まだ昨日のことのように覚えている。 もしも、あの時、 私が故郷に帰らないで、何もかもを捨てていたら… もしも、あの時、 あの場所に戻れたら、 彼の言葉に嫌だと言っていたら、 何か変わっていただろうか? 時間の流れにもしもは無いよね。 戻れることは無い。 このまま進むしか無い。 それがこんなに悲しいことなんて、 知らなかったし、思ってもみなかった。 ねえ、もう私の声は聞こえないの? 今あなたはどんな夢を見てる? 貴女はそこで幸せでいて オレの分まで幸せになっていて欲しい あのメールを信じていい? あの別れた時の言葉を思い出す。 夢を思い出す。 これで良かったんだと。 あなたは私の中で生きてるって思っていいよね? この苦しみが終わったら、 あなたはようやく自由になれるのね。 私はそう思っていたよ。 もう確認もできないのに、 聞けないあなたの言葉を、 時々とても聞きたくなるのよ。 続きはまた明日 前の話を読む 目次 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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