カテゴリ:ある女の話:アヤカ
今日の日記( 「東京DOGS」感想と旅行オマケ話☆)
「ある女の話:アヤカ70」 業者がやってきた。 髪が金に近いオニーチャンは上の方が黒くなってきていて、 プリンみたいになっていた。 それと力のありそうなお父さんっぽい人と、 もう一人のオジサンはベテランな感じで、 ハキハキしてるのに、腰も低目で感じが良かった。 家具は組み立て式だったし、 大体取り外してあった。 ホントに仮住まいみたいな家だった。 なのに、気付くと沢山の物に埋もれていたんだと思った。 私はこの際だからと思い切り処分していた。 もう着ない服。 使ってない化粧品。 買ってハズレだと思っていた本は古本屋さんに売った。 でも荷物をまとめてる間ずっと思っていた。 このまま戻るのって、 何もなかったように戻るのって、 そんなことしていいのかな?って。 多分今だって、赤木くんに会えば、 心が引き戻される。 そんな状態でヒロトのところに帰っていいのかな… オニーチャンとオジサンがどんどん荷物を運んでいく。 ダンボールがどんどん無くなっていく。 「コレちゃんと傷つけないように、 こう布をちゃんと貼ってさ。」 オジサンがオニーチャンに指示を出す。 オニーチャンがダンボールをヨッと持ち上げた時、 下の方がちゃんと封がされてなかったのか、 よっぽど重たかったのか、 底から中の物がバラバラと落ちた。 「すいません!」 オニーチャンが慌てて拾おうとするその中に、 スケッチブックと何冊かのノートや手紙が落ちてた。 「あ、私やります! 他の運んじゃって下さい!」 「ホントすみませんでした!」 見かけと違って礼儀正しく謝ったオニーチャンは、 他の荷物を持って去って行った。 私はダンボールの底をガムテープで止める。 あれ? もしかするとコレは私がパッキングしたものじゃないかもしれない。 そう思う。 ダンボールに落ちた物を入れ直す。 ヒロトの物だと思った。 つい、開いてしまったスケッチブックを見た。 そこには昔、 私に送ってくれた絵と似たようなスケッチが描かれていた。 桜の絵。 近所の風景。 そうだよ… ちゃんと恋してたんだよ。 この頃、ヒロトにちゃんと恋してた。 あの感覚はどこに行ってしまったんだろう? 他に好きな人ができたって、 別れることの方が、 ヒロトにとって幸せなのかもしれない。 ヒロトなら新しい誰かと幸せになれる。 こんなことはヒロトに失礼だ。 嫌いになったワケじゃないけど、 ヒロトのこと、今だって大事だけど…。 他の人に心が残ってるまま、 結婚生活を続けていていいんだろうか…。 見ていた絵がぼんやり雲って見える。 ヤバい。 また泣きそうだ。 つい他のスケッチブックも見る。 学生の頃に描いた絵なのかもしれない。 静物画。 りんご。 ポット。 裸体の女性… 淋しそうにどこか見てる。 眠ってる。 後姿。 何枚もある。 誰? 強い、強烈で一度見たら忘れられないような、 引き込まれそうな絵が数枚あった。 底の方へ引きずられていきそうな…。 怖い… 手が震えてた。 心臓が音を立ててるのがわかった。 簡単に見て、閉じてダンボールに入れて、 他のスケッチブックも見る。 このスケッチブックは… 私。 寝てるところ。 横顔 遠くから見た後姿。 時々よく見かける猫や子供たちが遊んでる絵が描いてあった。 一体いつ描いてたんだろう? この頃は髪が長いから多分新婚の頃。 パラパラとめくる。 コレは多分最近。 多分うたた寝してた時の。 もう無くなってしまった、 みんなで野球をした原っぱ。 団地。 探検をした野原。 温かい、優しい目線が伝わってくる。 帰りたい。 帰りたい。 どこかへ ねえ、 こんな目で私を見てるの? さっきの絵と違う。 同じ人間が描いたって、 すぐにはわからないような…。 じゃあ、さっきのは何? あれは… ちらばった紙を拾う。 多分私と文通してた頃の手紙だった。 その中に、 封筒に入って無い便箋をみつけた。 ユキエさん… 「あの~、すいませーん、 コレは壊れ物ですよね?」 オジサンに呼ばれて我に返り、 慌ててその手紙をポケットにしまった。 「あ!そうです! 詰め過ぎですか?」 「いや、大丈夫ですよ~。」 オジサンたちが手際良く片付けて行く。 私はダンボールの中の物を全部慌てて詰め込んで、 ガムテープで封をした。 今見た物は、向こうでもう一度確認しよう。 荷物がどいたところに掃除機をかけていく。 ホコリがずいぶん溜まっていた。 「じゃあ、荷物は明後日の午前中届けるってことで大丈夫ですか?」 オジサンが笑顔で言った。 私はお礼を言って認印を押す。 「一人でやるなんて大変だったでしょ? もうひとガンバリだね。 ガンバって!」 オジサンが年上っぽい励ましをくれる。 「すいません、本当に終わって助かりました。 ありがとうございました。」 オジサンは笑顔で頷いた。 「ありがとうございました~!」 業者のトラックが出て行ってしまうと、 部屋の中がガランと広くなった。 残ってる物は確認したから無いはず。 もうここに戻って来ることは無い。 ここでの生活、 全てが終わったんだ。 部屋の中を見回して、 確認を済ませて、 不動産屋さんへ慌てて向かう。 今日間に合わないと明日は営業していないって話だった。 スペアキーも含めて、鍵を渡して、 書類にサインと印を押した。 ようやく肩の荷を降ろして外に出ると、 外は真っ暗だった。 疲れた…。 大きく息を吐く。 駅前の繁華街は、 飲んでる人や、楽しそうなカップル、 若い人たちが笑っていて、 とても賑やかだった。 荷物が重く感じて、 私の心みたいで、 疲れが倍増してる気がした。 私は迷っていた。 ヒロトに電話をする。 留守電になっていた。 ピーッ アヤカです。 今全部終わったよ。 今日は終電ギリギリになりそうだし、 夜中になりそうだから、 こっちのビジネスホテルに泊まります。 電話を切る。 今すぐ帰ってもいいかもしれないけど、 でも、 考える時間が欲しくなった。 それから、 どうしようか迷って… 迷って、赤木くんの携帯番号を押した。 電波ノ届カナイトコロニオラレルカ電源ガ入ッテオリマセン… 機械的な音声が聞こえる。 溜息をついた。 私は喫茶店に入って考える。 ここまで終わっても、 私はまだどうしていいのかわからない。 これでいいんだろうか…。 本当にいいんだろうか… 読もうかどうか迷っていた。 さっきのスケッチブックを思い出して、 パーカーのポケットをまさぐった。 あの手紙。 私はコーヒーを飲みながら、 広げてみた。 心臓がドキドキしてる。 見慣れたヒロトの字が並んでいるのがわかった。 何度も読みながらコーヒーを飲み終わる。 荷物を持って、 駅へ走った。 帰ろう。 帰らなきゃ。 私、 帰らなきゃ。 ユキエさん こんな手紙を今更書いたりしてすみません。 先週、ユキエさんが家族で幸せそうに駅前を歩いていたのをみかけました。 それで、俺は、やっぱりあれで良かったんだと思いました。 逃げた俺が何言ってるんだと思うかもしれませんね。 でも、旦那さんと腕を組んで、子供と手を繋いで、 楽しそうに笑っているユキエさんを見たら、 本当にそう思ったんです。 俺は今結婚してます。 自分でもこんなことになると思ってなかったんだけど、 結婚した相手は俺の初恋の人です。 俺はマイペースってよく言われるけど、 そんな俺のことも昔からありのまま認めてくれて、 いっしょにいると穏やかで、 自分が自分でいられます。 ユキエさんといっしょにいた時の、 強い激しい感情は無いけど、 その分ユキエさんのこと、沢山傷つけちゃったけど、 俺は本当にあなたのこと、とても好きでした。 今だって、 会ったらこんなに心が捉まれるなんて、 思いもしなかった。 あなたはよく、 俺が何考えてるのかわからないって泣いてましたよね。 俺だって、 自分のことよくわからないんです。 今でもそうやって生きてます。 でも、俺は今とても幸せです。 幸せ過ぎて、怖くなります。 彼女を強引に自分のものにしてしまった気がするから、 彼女じゃなければ、俺はユキエさんのことずっと引きずってたと思う。 皮肉なものだと思います。 あなたと会ってなければ、 俺は多分彼女と結婚して無いと思うんです。 いい関係で、遠くから見てただけで。 だから怖いです。 いつか神様がやってきて、 幸せな時間はもう終わりだよって、 彼女を俺の元からいきなり取りあげてしまうんじゃないか?って、 時々思うから。 俺がユキエさんのこと、旦那さんから取り上げようとしたように。 逃げた俺がこんなこと言ったらいけないのかもしれないけど、 俺は本当にユキエさんの笑顔を遠くから見れて良かったです。 あなたが幸せそうで、本当に良かった。 自分が幸せだから、あなたにも幸せでいて欲しいなんて、 俺は本当に勝手でダメな人間です。 だけど、 あなたの幸せを心から願っています。 ヒロト 続きはまた明日 前の話を読む 目次 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
[ある女の話:アヤカ] カテゴリの最新記事
|
|