カテゴリ:ある女の話:アヤカ
今日の日記(「ギネ」感想と新宿ブラリ散策☆)
「ある女の話:アヤカ72」 何もしたくないけど、 とりあえず夕食を作り始めた。 手を動かしてる方がいい。 いつもの日常でしていることを、とにかくしないと…。 それでもどこか放心していた。 野菜を切ってるはずなのに、 コレは何を切っていたんだっけ? あれ? 何を作ろうとしてた? たまたま今は仕事をしていなかった。 こっちでの派遣契約が終わったばかり。 最近ロクな仕事依頼も無いし、 年齢のせいなのか減った。 次の仕事は派遣にしようか、パートにしようか、 子供もいないんだし、社員になってしまおうか…。 迷っていた時期だった。 そんな時期だったことに、 本当は不安を覚えていた。 まさかこんなことで、 その空白の時間が役に立つなんて…。 時間ならある。 今なら行ける。 どうしよう… どうしたらいい? 鍋をかき混ぜながら考える。 会いに行きたい。 今すぐ行きたい。 そうじゃないと、逝ってしまう。 あの人が逝ってしまうんだ…。 私は決意した。 帰って来たヒロトが、夕食を見て喜ぶ。 いつものように夕食を食べ始めるヒロトの姿を眺める。 「何?どしたの?」 私はずいぶんじっくりヒロトの様子を眺めていたらしい。 自分の箸が止まっていた。 「あの… あのね、 昔の会社の後輩の子が… 癌になっちゃって、もうダメなんだって。 それで、お見舞いに行きたいの。 行っていい? どうしても行きたいの。」 ヒロトはちょっと固まっていた。 私が言ったことを考えてるみたいだ。 「うん。 いいよ、行って。 そうか…癌… 何歳?」 「28…だと思う。29かな? それ位。」 ヒロトは溜息をついた。 「俺より3つ下かよ…。 早いな…」 「うん、早い…」 無言で夕飯の続きを食べる。 お互い何か考えてると思う。 死について。 それとも、たかが後輩のために、 結構な交通費をかけて見舞いに行くことを疑問に思ってるのかもしれない。 死んでしまうとしても、 なぜ、そうまで行きたいのか…。 でも、ヒロトは何も聞かなかった。 それがとてもありがたかった。 私も何も言わなかった。 テレビのバラエティの声だけが、 空しく笑っている。 「ごめんね。」 私はつい呟いていた。 「何が?」 「留守しちゃうこと。」 「いいよ。 ついでだから、向こうでゆっくり誰かと会ってくれば… って、そんな気分でも無いか。」 私は軽く笑った。 まだ現実感が湧かない。 でも何かが麻痺してる。 冷静な私が私を自動操縦している。 心の中は、じっとしてなんてしていられないのに、 体は動かない夢を見ているようだ…。 変に胸騒ぎだけが治まらない。 心がここにいない。 眠っても眠ろうとしても、 意識が戻ってきてしまう。 何度も寝返りを打って、 どうしてこんなことになったのか考える。 心があの頃に戻って行く。 ダメだ… 何で… そのうち目覚ましが鳴った。 顔を洗うとひどい顔をしていた。 「ねえ…」 後ろにヒロトが立っていてビックリした。 「帰ってくるよね?」 寝起きのぼーっとした顔で聞いてくる。 「うん。 明日の夜には帰ってこれると思うよ。」 私は平静を装って言う。 心臓がドキドキ言っていた。 なぜこんなこと聞くんだろう? ヒロトはノンビリした動作で、 コクコク頷きながら着替えに行ってしまった。 朝は元々オナカがすかないけど、 今日は一層食欲がわかない。 ココアを飲む。 「それしか食べないの? 大丈夫かよ…」 「うん、何か食欲出なくて。 オナカすいてから何か買って食べる。」 無理に食べれば良かったかもしれない。 ただでさえ不自然なのに。 心配かけたことを後悔した。 ヒロトは食べ終わると側に寄ってきて、私の頭を撫でた。 「気をつけて行ってきな。 何だか、こんなに離れるの久々だから心配になっちゃってさ。」 そう言えばそうだね、って私も大袈裟なんだからって感じで笑う。 抱きしめるヒロトの体。 心臓の音がした。 呼吸の音。 生きてる。 ヒロトはいつも、 私の心が浮いてると、 こうやって抑えてくれていた。 勘がいいのかもしれない。 そう思うことが度々あった。 唯一抑えられなかったのは、 赤木くんとの時だけだ。 でも… この時ヒロトは何か感じてたのかもしれない。 ある種の予感みたいなものを。 続きはまた明日 前の話を読む 目次 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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