カテゴリ:ある女の話:アヤカ
今日の日記(「不毛地帯」感想と夫の怪しい?動向☆ )
「ある女の話:アヤカ73」 電車に乗っている間、 何だかボンヤリしてしまった。 夜眠れなかった眠気が襲ってきて、 あやうく乗り過ごすところだった。 言われた病院に着き、 ナースステーションで病室を訪ねて、 名前を記入した。 入口でネームプレートを確認して、 位置を確認して入る。 カーテンが閉められていた。 「すみません…」 声をかけると、カーテンが開き、 お母さんらしき人が現れた。 まだ若い感じのする、 キレイな人だった。 何となく赤木くんと似ている。 「あ…あの、 赤木くんのお見舞いに来ました。 タカダって言います…。」 私はすぐにお見舞いの封筒を出した。 赤木くんの母親はそれを丁寧に受け取った。 「ありがとう。 わざわざすみません。 シンヤのお友達…? どうぞ、ここ座ってね…。」 私は元会社の同僚だと答えて、座る前に赤木くんの方を見た。 聞いていた通り、チューブに繋がれていた。 ぐっすりと眠っているようだ。 「私ちょっと用事済ませてくるから、 はずしちゃっていいよね? ゆっくり会ってってね。 本当にどうもありがとう…。」 顔から疲れが滲み出ていた。 普段はもっと美しい人なのかもしれない。 ハキハキした感じも赤木くんとよく似ている。 私は小さく返事をして頷いた。 赤木くんの母親はコートを着てバッグを持って、 カーテンを引いて去って行った。 覗きこんでみると、 酸素マスクをされた赤木くんの顔は痩せこけていた。 足が上に吊ってあって、 その足は異様にムクんで太くなっていた。 こんな姿、見られたくないかもしれない… それでも布団から出ていた手を握った。 ねえ、来たよ。 最後に何度も握った手。 触れた体。 あの時のままの温かさなのに、動かない。 痛そう。 苦しそう。 あの夢は、 もしかしたら赤木くんの夢だったのかな? 家に帰りたかったの? 私はかがんで、 自分の頬を赤木くんの手に当ててみた。 そっと赤木くんの手に唇を当ててみる。 ねえ、 まだ私のこと好き? ちゃんと幸せになるから。 あなたに言われたこと守るからね。 涙が出そうになった。 でも、こらえる。 泣くと赤木くんが心配してしまう。 ねえ、神様… もう赤木くんを連れて行っちゃうの? どうして私じゃなくて彼なの? 彼はもっと幸せになっていい人なのに。 ステキな人なのよ。 女の子がつい自分のものにしたくなっちゃうような… なのに、いつも淋しそうにしてて。 だから連れて行っちゃうの? だったらお願いだから、 どうか苦しまないように連れていってあげて下さい。 お願いだから… 私は赤木くんの胸に軽く頭を乗せてみた。 このままいっしょに眠れたらいいのになぁ… その時、手がピクリと動いた。 私は顔を上げて赤木くんの顔を見た。 まだグッスリと眠っていた。 起きそうも無いと思った。 キリが無くなりそうなので、 もう行った方がいいかもしれないと思った。 そろそろ夕方になるし、 仕事が終わった人や家族たちが来るだろう…。 このまま二人でいた思い出だけもらって帰ろうと思った。 ベッドサイドに私が渡した本が置いてあった。 中を見たら、私が送った年賀状が挟んであった。 また涙が溢れそうになったので、 いよいよ病室を出ることにした。 もう一度手を握って顔を見た。 大好き。 大好きよ。 あなたは私の中にいるからね。 私の中に、 あなたはずっといるからね。 これからも…。 赤木くんの母親が戻る気配がしなかったので、 私はそのままナースステーションで時間を記入して病院を出た。 涙が止まらない。 すれ違う人がチラリと私を見るのがわかった。 カンちゃんの家に寄って、 どこかに泊まろうと思っていたけど、 やっぱり家に帰ろうと思った。 どんなに遅くなっても帰った方がいい。 そうじゃないと、帰るのが辛くなってしまいそうだ。 それに、 きっとずっと泣いてしまう。 後ろ髪をひっぱられてしまう。 明日も、その次の日も、 ずっとずっとここに来たくなってしまう。 カンちゃんにお詫びのメールを出した。 お見舞いしてきた、と。 やらなければいけないことがあるから帰る、と。 また必ず来るのでごめんね…と。 朝から結局何も食べて無いことに気付いて、 駅近くの喫茶店で軽く食べることにした。 さっきの赤木くんの姿が頭の中を支配している。 あの時と同じだ。 帰るか迷っていた時と。 あの時にもしも赤木くんと電話が繋がっていたら、 こんな未来じゃなかったんだろうか? 何だか食欲がわかない。 私は少しだけサンドウィッチをつまんで、胃薬を飲んだ。 ううん、もう考えてもこの現実を変えることはできない。 時を止められないように。 それが無性に悔しい…。 赤木くんの声が聞きたかったな…。 そんなことをポツンと思った。 私は思い立って、 自分の携帯から赤木くんの携帯の電話番号を押してみた。 コール音が鳴ったのでドキドキする。 電源が切られていない。 そして留守電に切り替わった。 「はい赤木です。ただ今電話に出ることができません。 御用の方はメッセージをどうぞ…」 懐かしい赤木くんの声が聞こえてきた。 一度でいいから俺のものになって欲しいって言われて、 初めて携帯に電話した時に聞いた声。 緊張してすぐに切ったっけ…。 涙が溢れてきた。 私はメッセージは特に吹き込まないで電話を切った。 自分の番号は教えてなかった。 赤木くんの声を聞いたら、 絶対に心が揺れると思ったから…。 帰ろう。 帰るしか私にはできないから。 地元の駅に着いたのは最終で夜中だった。 私はホッとした。 今まで見てきたことが全て夢だったような気がして…。 でも何だろう… さっきから何か温かい空気が私を包んでいるような気がしていた。 頭がボンヤリしてしまう。 もう一度赤木くんの携帯に電話をしてみた。 やっぱり留守電。 そして彼の声。 もう二度と出ることが無い…。 どうしてこの世界に私は残るんだろう… 足元がグニャリと揺れた気がした。 私は涙を拭いて、 ヒロトの短縮番号を押した。 お願い、一人にしないで…。 横断歩道の信号が青に変わった。 コール音。 金曜だし私もいないから飲みに行ったんだろうか? 鳴らしながら歩道を渡る。 留守メッセージに切り替わる音。 右側から車が来たのがわかった。 運転手が楽しそうに笑っていた。 携帯電話を持っていた。 ああ… いいなぁ、電話の相手がちゃんと出てくれて… 私はボンヤリそんなことを思った。 車の白いライトが私を照らした。 そのまま私の方へ近づいて… え?! ブレーキの音、 おい!ぶつかったぞっ! 大丈夫か?!あんた! 救急車! 警察は?! はい! すいません!人が車にはねられました! ここ?え?住所なんてわからないよ… 住所って! 誰かわかりますかっ?! ええと… 沢山の声が聞こえる。 アヤカ! アヤカ! アヤちゃん! 目をゆっくり開けたら、 知らない人の顔が何人か私を上から覗き込んでいた。 その中にヒロトの顔が見えた。 何だろう?何が起こった? 私は白い光に飲み込まれて行く。 続きはまた明日 前の話を読む 目次 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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