カテゴリ:ある女の話:アヤカ
今日の日記( 「小公女セイラ」「サムライ・ハイスクール」「チャレンジド」感想☆)
「ある女の話:アヤカ最終」 アヤカの私物を片付けるべきか悩んでいた。 俺は… アヤカのことを何もわかっていなかったのかもしれない。 あの日、 彼女が握っていた携帯電話。 履歴を見たら、 俺の番号だった。 俺が電話に出ていればこんなことにならなかったんじゃ… そう思う。 あの日、 以前のように帰ってくる気がして、 駅で最終まで待っていた。 でも、改札から出てくるのを見逃したらしい。 誰かが車に轢かれたって人だかりで、 俺はその轢かれた女がアヤカだと確認した。 嘘だ。 こんなの嘘だろ? 今夜が峠だと言われて病院に泊まった日、 彼女が幸せそうな笑顔を眠りながら見せた。 ヒロト… 大好きよ ねえ、見て… すごいよ いつまでも歌って… そして心拍が停止。 もう二度と戻って来ない。 いきなりのことに呆然としながら、 親族のみんなで葬式を済ませた。 泣きたいのに泣けない。 何が起こったのか、 目の前でアヤカの体が焼かれたのに、 コレがアヤカだなんて信じられないんだ。 携帯を解約しようと思って、 あることに気付き、 俺は自分の前にかけられた履歴へ電話してみた。 女性が出た。 「お友達の方? 申し訳ありません。 シンヤは亡くなりました。 土曜の明け方の2時頃です。 苦しまずに逝けました…」 夜中の2時… アヤカが逝ってしまったのと同時に… 俺は年賀状を探す。 アカギシンヤ… 元気ですか?俺は元気です。 これだけのやりとり。 彼はアヤカを好きだったのだろうか? だから連れて行ってしまったのだろうか? アヤカも…? アヤカの引き出しの中から便箋に入ってない手紙をみつけた。 俺の手紙だった。 出さなかった、俺からユキエさんへの手紙…。 コレをみつけてしまって、 彼女はどんな気持ちになったのだろう? それでも毎日変わらずにいたじゃないか? 他の男を好きになったから、 急に淋しそうな、 変な色気を持つようになったのか? それは何となく感じていたけど、 俺はそれでも良かった。 怖かったんだ。 確認することが。 歪んでるかもしれないけど、 それでも彼女は俺の気持ちを惹きつけたから。 嘘をつくならついてもいいんだ。 俺の気持ちに気付いてたんだろうか? だから許してくれたんだろうか? 俺だって許せたのに。 俺だって、他のヤツになんか渡したくなかったのに。 あの日、変な夢を見た。 アヤカがどこかに行ってしまう夢。 起きてからアヤカがいてホッとした。 悪い夢で行かないで欲しいなんて、 子供みたいで言えなかった。 言えば良かった。 言えば…。 でももう遅い。 彼女はもういない。 そして彼女だけじゃなく、 彼女の中にいた俺達の子供も、 いっしょに逝ってしまった。 残された俺はどうしたらいい? 引越してから彼女が描いた絵を眺める。 引き出しからテープとMDがいっしょに出てきた。 聴いてみてわかった。 彼女はこの声に魅せられてしまったって。 コレはこの曲を描いたものだって。 俺は嬉しかったんだ。 どんな理由でもアヤカが絵をまた描き始めてくれたこと…。 神様、頼むから返してくれ。 アヤカを返してくれよ…。 帰る場所の無くなった俺は、 二人のために立てたはずの家に、 独り残っている。 涙はもう出ない。 :::::: 目が覚めると、 どこかの天井のようだった。 白い… 周りを見回したら、 ヒロトが脇にいて、イスで眠っているのが見えた。 「ヒロト…」 目をうっすら開けたヒロトが、 慌てたように私の顔を見て、手を握る。 「アヤカ…?! 良かった!目、覚めたんだ?!」 ナースコールらしいボタンを押すと、 しばらくして看護士さんがやってきた。 ヒロトと話をしていて、 先生と後でどうとか、 もう大丈夫とか何とか。 私は何だかよくわからなくて、 ボンヤリとされるがままになっていた。 病院? 腕に点滴がされていた。 私はその水滴が落ちるのをジッと眺めた。 ヒロトが私の手を握った。 「もう目が覚めないんじゃないかと思った…。」 ああ… そっか。 車がぶつかってきたんだっけ…。 今はいつ? 「アヤちゃんに知らせたいことがあるんだけど…」 「うん…?」 「アヤちゃん妊娠してるって。」 「え…?」 「ホント。 何でもないのが奇跡じゃないかって、みんなで言ってた。」 ああ… そうなんだ? 私はここにいて… この世界にいてってことなんだ。 一瞬、 さっき見てきたことが蘇った。 目に涙が溢れてきて、 頬を伝って落ちてく。 「赤ちゃんいるんだ… 私のオナカの中に?」 「うん。そうだよ。 俺達の子供。 良かった…ホントに。」 ヒロトの目から涙がこぼれた。 「俺さ、あの日変な夢見て…。 でもそれで行かないで欲しいなんて、 子供みたいで言えなくて…。 でも、こんなことになるなら止めておけば良かったって、俺…。」 この人が泣くところなんて初めて見た。 強い人だと思っていた。 いつでも独りでいられるって。 でも、そんなこと無い。 やっぱり無かったんだ…。 だから鮭になりたいって言ってたのね。 ねえ、大丈夫よ。 もうずっと側にいるから。 私は天井を見た。 白い 白 「赤木くんは…」 つい口から出ていた。 ヒロトがどうなったか知ってるワケないと思ったのに、 でも意外な返事が来た。 「亡くなったって。 アヤカが事故に遭った翌日… いや、その次の日になるのかな。 苦しまないで、安らかな最後だったらしいよ。 逝ったのは夜中の2時だったって。」 「そう…」 苦しまなかったんだ…。 良かった。 楽しそうに歌ってたもんね…。 「助けてくれたのかもな…」 ヒロトがボソリと呟いた。 なぜそう思うの? そう思ったけど聞かなかった。 私はヒロトの顔を眺めた。 ヒロトは淋しそうに、優しそうに、私を見て笑顔を作った。 私が聞きたいことがわかるみたいに。 でも続きの言葉はなかった。 「赤ちゃん… 会えるよね。」 私が呟いた。 ヒロトが私の目を見て頷く。 握った手に力をこめられたのがわかった。 私はヒロトの手を引いて引き寄せて、 髪を撫でる。 ヒロト ヒロト… 大切な人。 失うかもしれない人。 でもその日がやってこなければいいって、 私は思う。 点滴の滴が絶え間なく落ちて、 私の中に入っていく。 目に見える液体が無くなっていく。 ポトン ポトン 青い 青い海は、 人が賑わってる。 私が思い浮かべた海と赤木くんが言ってた海が、 まるで合わさったみたいだな…。 私は海から手を振るヒロトに手を振った。 私は焼きたく無いけど、海に入る。 焼き痕がなかなか消えないようになった。 でもいいや。 あ~、いい天気だな。 何てキレイな海なんだろう。 ほら、見て。 今度はこの絵を描きたいな…。 また絵を描いてる。 昔みたいに。 ただ、ひたすら好きで描いてた頃に戻って。 大好きな人たちに囲まれて描いてる。 あなたのお陰だよ。 あなたの最期の歌を聴いたから、 そんな気持ちで描けるようになったの。 私が見る物を表現できたらいいな…って思う。 私が見てる物、 今あなたも私の目を通して見てる? 私はあなたの音を絵で描くよ。 私の心の中にある風景を、 あなたにも見せたい。 あなたの曲が、 あなたの心の風景を映したように…。 あなたなら私の絵にどんな曲を浮かべる? 会えて良かったよ。 本当に良かった。 あなたはまだ私の中で生きてる。 私の幸せを願っていてくれる。 そう思ってもいい? ふいに、 浮き輪に浮かんだ小さい手が、 私の手を取って、 ヒロトの手と繋げた。 その上からギュッと小さな手が握られる。 「いっしょ~!」 キラキラとした目がニコニコしながら私の顔を見る。 ヒロトが笑う。 私は抱きつきたくなって、 泣きたくなりながら笑う。 繋いだ手に力をこめる。 ずっと離れないように… これは当然あるものじゃない。 いつ無くなってもおかしくない。 存在してる。 ささやかな幸せ。 生きてる。 私は生きてる。 光る 青い海が、 どこまでも どこまでも続いていた。 <end> ![]() 前の話を読む 目次 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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