ある女の話サキ:2-19
「カトサキちゃん、彼氏と同棲してるってホント?」 商品の不良がみつかって大がかりな処理対応がされることになった。 急な日帰り出張を朝一で言われて、バイヤーのキジタツさんの車に4人で乗り、あちこち回って、 帰り、同じ方向の私だけになった時の、いきなりの質問だった。 相変わらずの直球で参る。 けど、会社に入ってからの長年の付き合い。 オトナで一人で行動してるこの人は他に広めることも無いってわかってきてたので、 質問にキチンと答えようか、ちょっと迷う。 「バンドマンの彼にふられて、寮出て、今度は違うヤツと同棲してるとか聞いてるぞ~」 「どこで、そういう話になってるんですか?」 私は半分、そんな噂になってそうだと納得しつつ、 現実とは違うことに憤りを感じながら返事をした。 「電車で女子社員が言ってるのが聞こえて来た。 アレだね、公共乗り物の中に噂の知り合いが乗ってるって、女は考えないのかね?」 私は溜息をついた。 「寮は確かに出ましたけど、ふられたからじゃ無いし、 寮だと、あること無いこと言われるんで。 少し高くなるけど、住宅手当を選んだんです。 バンドマンの彼って言うのと未だに付き合ってます。同棲は、してません。」 「は~、なるほどねぇ~。女は怖いね~。」 他にも何か怖いことでも言ってたのか? 私は、少し会社の何もかもが嫌になる。 「一般職で企画の部署に行ったから、やっかまれてるんじゃないの?カトサキちゃん。」 「・・・そうなんですかね?」 運が良いのか、私の上司は一般職、総合職、分けずに企画をどんどん採用するタイプだった。 私の発想を気に入ったのか何なのか、たまたま提出した現場での報告書が気に入ったらしく、 私は、今の上司の直属の部署で働けるようになった。 現場にも出るけど、その部署にいれば総合職になれる可能性は高いらしい。 仕事が面白いと感じた私は、 同僚との付き合いより仕事を優先させたので孤立してるかもしれない。 明らかに女子の皆様とは距離ができてる気がしていた。 「まあ、でも、カトサキちゃんはガンバってると思うよ。 もっとツンとしてるかと思ってたけど、ちゃんと頭も下げるし、 仕事を途中で放り出して帰ることも無いし。 群れてることもないし。 けど、アレだ。 女って言うか、人間って言うのは、自分と違うと感じたら、 攻撃したり、無視したり、よそよそしくなるのは普通だから。」 「普通、、、ですか。」 「そ。普通だと思って、気にしないのが一番。一番。」 キジタツは自分の言葉に納得したように、うんうんって感じで頷いた。 長年の顔馴染みとは言え、そんなに二人で過ごす間柄でも無いし、 この緊張する空間で、少し緊張してるのかも? 会話をどうするか気遣ってくれてるのかもしれない。 ・・・直球だけど。 考えてみたら、こうして私が働いてる姿をシンちゃんは知らない。 だから、私の状況だとか、そうしたことを話してもイマイチ通じない。 昔、同じバイト先だった頃は、いろいろなことをお互い報告しても、 「あ!あの話か!」「ふーん、あの人がね?」って、すぐに分かり合えた。 今は何を報告しても「ふーん、そうなんだ?」「ありえないだろ」って感じで、 社会人経験の浅いシンちゃんは、わかってくれないことが多くて、 まだ時々青臭いな~って思うような理想論に聴こえることも言ってたりして、 私が話したことが、自分だったら、さももっと上手くやれるようなことを言うから腹立たしい。 それにシンちゃんの職場は男が多いみたいで、私が男性と同じような状況で働くことが想像できないらしい。 だから、何だかめんどくさくなってきて、私は あまり会社の悩みを言わなくなった。 シンちゃんが研修出張で会えない時期が淋しくなって、 会社の人たちの目も煩わしくて寮から出たけど、 シンちゃんに「疲れた~」が増えて、 バンドができなくなった分、うちに来ることが増えたけど何をするワケでも無くて、 シンちゃんの荷物が増えて、 私はシンちゃんの分まで家事が増えて、 気を使ったシンちゃんが家賃や食費も少し負担してくれるようになった。 こういうのが毎日続くと、そのうち結婚なのかな~ 「それにしても疲れたな~。肉体的にもだけど、精神的にも。。 まあ、今回の仕事は、誰がやってもしょうが無いっていうか、 いつか起こるだろうな、、、って俺は思ってたな。」 「やっぱり、日程に無理がありましたよね。。 みんな言ってましたもん。」 私は我に返ってキジタツの言葉に深く頷く。 一緒に処理してないと出てこない言葉だ。 そこには理想も何も無くて、 ただ、疲れを共有できる人との会話。 そんな何気無く、わかってくれる人がいることが何だか嬉しかったりする。 シンちゃんの言う、男と女がどうこうじゃ無くて、人間としての会話だよ。 シンちゃんだったら、何て言うかな、この仕事は。。。 私は、ここにいないシンちゃんのことを思う。 けど、わかってくれない気がして、 そんなシンちゃんに失望したくなくて、 私は多分話さないだろう。 雨が降ってきた。 少しの降りだったのに、どんどん酷くなっていく。 「傘は、、、」 「あ!折り畳みもってきてます。どうもありがとうございました。」 「この辺りでイイのか?」 「はい。道わかります?帰れます?」 「何とか、、、大丈夫だろう。オツカレ!」 「はい。ありがとうございます。お疲れ様でした」 車から降りた途端に夕飯の心配が頭をよぎる。 部屋で待ってるとかメール来てたけど、食べて来てって書いたけど、 ちゃんとご飯食べたかなシンちゃん。。 帰ったら、またご飯作ることになるとか、もう疲れたから勘弁だよ~ 私はコンビニに寄れば良かったと後悔しながら部屋の鍵を開けた。 シンちゃんは来ていなかった。 前の話を読むサキ1:目次