カテゴリ:教育、子育て、自転車旅行
岐阜県、北方町
第七回 未来につなぐ心の糧 入選作 「不登校を自転車で越えて」 急な上り坂。曲がりくねった林道。「大丈夫かあ?」と叫ぶ私に、「大丈夫!」と応える娘。 上り坂は続き、ペダルをこげなくなり、体よりも大きく感じられる自転車を押してくる娘。暫く停まって待っていると、漸く追いついてくる… 小学校四年生の娘は、いじめをうけて不登校になってから一年が過ぎていた… 富山県・氷見から自転車で走り始めて四日目。連日の炎天下。疲れもたまっているだろう。水分を補給し、少し休み、再び走り始めると、すぐにまた遅れてしまう娘。「大丈夫!」の声も小さくなっていく。声も出せなくなると“リンリンリ~ン”“リンリンリ~ン”ベルを鳴らしあった。私達は能登半島の北西端、猿山岬灯台を目指していた。 キツい上り坂の続く、人影の見えない道のり。前を走る私の背中が見えなくなると、心細くもなるだろう。 「下って楽な道を走らせようかな」という思いが、何度も私の頭の中を過った。しかし、その思いを打ち消したのは、真っ黒に日焼けしてそれでも頬を真っ赤にして歯を食いしばって自転車を押して坂道を上ってくる娘の姿だった。「引き返してはいけない」と私は思った… 漸く辿り着いた猿山岬灯台は柵に囲まれていて、外壁を触ることもできなかった。丈高く繁った草々が視界を遮り、海も見えなかった。それでも、遥か下から聞こえてくる波の音に包まれ、灯台を見上げる娘の頭をなでて私の視界は涙で滲んだ… 翌年は青森の尻屋、大間、龍飛崎まで、翌々年は和歌山の潮岬まで父娘で走った。旅先で出会ったたくさんの人たちに励まされた。 娘は小学校は不登校のまま卒業したが、中学校には毎日登校し、自転車旅行も続けている。 これから訪れる坂道も、娘は“ゆっくりと、しっかりと”越えていってくれるだろう。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
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