2010/04/14(水)02:15
思い出だけに生きる愛 SF短編「ノスタル爺」
「ノスタルジー」という単語を
辞書で調べてみました。
nostalgie(フランス語)
(過去・故郷などへの)郷愁。懐古。
つまり、ふるさとを懐かしむことですね。
時々、耳にすることも、あるかと思います。
その「ノスタルジー」をテーマにした
藤子・F・不二雄先生の
Sukoshi Fushigi(スコシフシギ)な
SF短編「ノスタル爺」を紹介したいと思います。
< ストーリー >
浦島太吉は、墓参りをしていた。
亡くなった、元恋人であり、妻であった
里子のことを思い出していた。
当時、太吉は学生であり
日本が戦争を迎えようとしていた時代であった。
まだ、自由な恋愛が、許されていない頃であったが
里子とは、幼なじみで、いいなずけでもあったため
二人は、小さな頃から、いつも一緒だった。
■ 親からいいつけられた、結婚が行われる。
しかし、太吉は自分は戦争で死ぬかもしれない
と思っていたので、もし自分が戦死したら
いい人を見つけてほしいと、里子に伝えていた。
「まってます。いつまでも」
「きっと帰ってね」
それが、里子の最後の言葉だった。
そして、結婚後間もなく
二人は永遠の別れを迎えてしまう…
太吉は孤島で30年行き続けていたが
彼は戦死したと伝えられていた。
そして、彼が帰ってきたときには
もう、里子は亡くなっていた。
彼女にとっては、太吉だけが生きがいであり
人生の全てであった。再婚もしていなかった。
30年ぶりに故郷に戻ってきた太吉は
里子の墓参りの後、村を一人歩いた。
太吉には、ある予感があった。
その予感は形となり
やがて膨れ上がった。
■ 太吉は、走った。理由はない。もう、そうするしかなかった。
■ 目の前にあったのは、昔の故郷だった。
夢かそれとも気が狂ったのか…
■ 太吉が、子供の頃に過ごした村だった。
■ そこには、子供の頃の里子が生きていた!!
しかし、自分はタイムスリップしましたなどと、説明できない。
何をいっても信じてもらえるはずもなく、変人扱いされてしまう。
村でも大きな一族である浦島家では
彼のような者に、村にいてほしくなかった。
なんとしても、追い出したかった。
■ 出て行かねば、土蔵に閉じ込めるという…
■ 太吉は、一生土蔵に閉じ込められることを、選ぶのであった…
浦島太吉は、土蔵の外から聞こえる
里子の声を、聞くことを生きがいとし
そこで、一生を終えるのであった。
初めて読んだ時は、「なんとも悲しいストーリーだな」と
わりと淡々とした気持ちだったのですが
私は、まだ物語を理解するには幼すぎました…
何度か、読み返してみると、「悲しい」などという
そんな生易しいものではなく
狂気と紙一重の愛かもしれないと思うようになりました。
私は、これが最高の愛だとは思いませんが、これほどまでの
思いを抱く愛は、現代にあるのでしょうか。
きっと、戦争に巻き込まれ、孤島に30年も取り残され
何の思い出も残らなかった、太吉のような男でないと
生まれてこない感情なのかもしれません。
皆さんは愛だけで、土蔵で一生を送れますか…
P.S. F先生の特番「こだわり人物伝」が14日夜10時25分に
NHK教育にて放送があります。今回はF先生の奥様が登場されます