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カテゴリ:現代詩
なんでもない朝
あなたは ぼくの目の前で じっと 話し出すのを 待っている 穏やかに そして愛情を持って 待っている ぼくが 話し出すのを 朝の広場で 人々は 洗面台の前に 立っている そうして 自分と向き合っている 中国の太極拳を見ているようだ それぞれ 自分と向き合っている ぼくの洗面台の向こうには ぼくの姿じゃなく あなたがいる 鏡の代わりに あなたがぼくを見つめてくれる やさしく すべてを受け容れて あなたがぼくを 見つめてくれる 朝の広場で さて 人々は 犬を飼っている 最近の犬は 出不精だ 朝 なるべく外の世界を 犬に教えたい そんな気持ちで 犬を背負って 外に出る 犬は 飼い主の背中から 伸び上がるように 世間を見て 行きたい方向を 手のような足で 指し示す 黒っぽい犬 薄茶の犬 さすがに レトリバーのような 大型犬はいないけれど 最近 犬も出不精になったんだ なんでもない朝 いろいろなことが 少しずつ 変化している ぼくは 広場にいて 鏡のない洗面台に向かって 髭を剃る あなたが じっと ぼくを見つめて 剃り終わったぼくを 決して見捨てない ぼくが剃刀を ていねいに仕舞うまで ずっとぼくの前で 待っていてくれる ぼくが話し終えるまで じっと 待っていてくれる 犬が 飼い主の背中の上で 世間を見ている 手のような前足を あちらこちらへ 指し示し 飼い主を 翻弄している 人々が 中国の太極拳のように 朝の広場に集まって 思い思いの自分の姿を 思い思いの洗面台で 髭を剃ったり 顔を洗ったり している 犬が 飼い主の背中で 浮かれている ぼくは あなたに見つめられ 豊穣な朝を過ごしている そんな なんでもない朝 ぼくは 気づいたんだ 変なことはない これが人生の 意味なんだって 気づいたんだ お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2005/06/03 06:28:55 AM
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