じぃ~ん2
立錐の余地もないとはこのことか。4月24日、時計は19時を既に回っていた。もうすぐ運命のキックオフ。凍えるような夜空の下、我々はひたすら空席を探した。女子サッカー、アテネ五輪アジア予選準決勝。国立は、一部を残して真っ青に染まっていた。この試合に勝てば、2大会ぶりの五輪出場が決まる。しかし、相手はアジア最強と目される、北朝鮮だ。強靭なフィジカル、そして最近では戦術にも力を入れている。何より、日本は北朝鮮に対して7連敗中である。国民の関心も微妙だろう……。甘かった。ナメてたね。入場ゲートで物々しいボディチェックを済ませ、青い応援ボードを受け取る。カテゴリー2のチケットを握り締め、歩く、歩く、歩く。だが、どこも人がイッパイだ。それもそのはず。この日、スタジアムにはなんと3万人もの人間が集まっていたらしい。しかも、入場制限してやがる。場内には、スペースを探す流浪の民たちが溢れていた。そんな状況の中、ようやく席を見つけ出す。カテゴリー2と3の境目。その向こう側には、北朝鮮のサポーターが陣を取っていた。落ち着いたところで、手元の応援ボードをよく見てみると、そこには女子代表の集合写真が写っている。“将軍”澤穂希(FW)。“人妻ボランチ”宮本ともみ(MF)。“ミス武者修行”山郷のぞみ(GK)。“日本のロベカル”山本絵美(MF)。“エースストライカー”大谷未央(FW)。“愛称はハワイ”川上直子(DF)。“好きなタイプはツッコミ上手”荒川恵理子(FW)。……などなど。どうでもいいが、変なエフェクトがかかっているせいで、澤の顔が歴史上の人物みたいになってしまっている。「ワシが澤穂希じゃきに!」まあ、いいや。19時20分、キックオフ。長くて短い90分が始まった。序盤から、日本が攻勢を仕掛ける。劣勢が予想されていただけに、立ち上がりを狙ったのか?どの選手も、やたらとハイペースで走り回っていた。両サイドからの鋭いクロスと荒川のドリブルが、北朝鮮ゴールへと再三迫る。そして、前半11分。川上からのクロスを北朝鮮がクリアミスしたところに、荒川が飛び込んで先制!まさかの一撃に、場内は大狂乱。日本にとっては、何とも理想的な展開である。さらには、前半終了間際。左サイドをドリブルで切り込んでいった荒川の折り返しを今度は北朝鮮DFがオウンゴール!北朝鮮がボールを支配し始めていた時間だっただけに、この追加点は本当に大きかった。……アレ、これは行けちゃうんじゃないか?後半に入って、北朝鮮が反撃に打って出るも、心の中にはまだ余裕があった。センタリングに対する山郷の対処は洗練されていたし、ミドルシュートだって枠を捉えてはいなかった。また、無尽蔵のスタミナで献身的なプレーを見せていた澤、それと中盤の底で次々と危機の芽を摘み取っていた宮本の働きも大きかった。そして三度、試合が動いた。後半19分。コーナーキックを宮本が頭で折り返して、エースの大谷がゲット! オオオ、熱すぎる追加点。さあ、これで黙っていないのが北朝鮮だ。後半30分を過ぎた辺りから、何度も日本ゴールを脅かす。守備の苦手な両サイドが、完全にやられてしまっていた。特に相手の7番は止め難き存在だったのだが……。結局は、山郷のファインセーブや下小鶴綾や磯崎浩美のナイスクリアなどあって完封!終了のホイッスルが鳴った瞬間、ベンチから控えの選手たちが飛び出す。ジョホールバル以来だ、こんな感情……。じぃ~ん。実はここ最近、仕事の都合で女子代表にはかなり情が移っていたのだ。だから、この試合はA代表以上に燃えてしまった。場内の人々も、えらく感動したのだろう。ボルテージはこの上なく高かった。コイツら、普段は全く女子の試合なんて見てないんだろうなァ。だって、みんな青い服は着ているが、背中には「中村」だの「小野」だの「名波」だのって書いてあったもの。実際、我々の後ろの方で応援していたヤツらなんか、男子目線でプレーを分析していたし。……まあ、人のことは言えないケド。それにしても、ちょっと気になったのは、ウイニング・ランの時に、代表の面々が北朝鮮のサポーターが陣取るスタンドを避けるように走り去っていったこと。向こうは拍手してくれていたのに、あれって失礼なのでは?あと、嬉しいのはわかるのだが、あの寒い中、監督にシャンパン・ファイトのごとく水をぶっかけるというのは如何なものだろう。ああいうのは、決勝に勝ってからやればいい。風邪、ひいちまったら大変だろう?……。千葉マリンから国立へ。この日はスポーツ観戦のダブルヘッダーを敢行したわけだが、非常に贅沢な思いをさせてもらった。何せ、東北に住んでいた頃は、プロ野球を見るだけでも大変だったのだ。それを1日に2種目なんて……。来月は、野球とバレーのダブルヘッダーとかやってみようかなァ。あァ、そうそう。最後にオリックスの対戦チェックを。24試合目 Bw 5-9 L25試合目 Bw 1-10 L26試合目 Bw 14-7 Lまたしても負け越してはしまったが、最後に松坂をめった打ちにしてやったし、まあ、良しとしよう。