テーマ:野球のトリビア(237)
カテゴリ:野球
カットボールが大流行している。
打者の手元でキュッと横にズレるこの球、 投球数を抑えるためにはかなり有効で、 肘への負担も小さく、コントロールも付けやすい。 投手の分業制が確立している海の向こうでは、 重宝されている球種である。 日本では上原や憲伸、松坂らが使い始めたことで 脚光を浴びるようになったのだが、お陰で最近は、 この球の第一人者であるマリアーノ・リベラの記事や映像を 随分と目にするようになった。 今年のキャンプ、フリー打撃で松井をキリキリ舞いさせた彼は、 翌日「魔球を操る者」として日本中のメディアに取り上げられた。 しかし、待て。どうにも頭の中に“?”マークが浮かぶ。 ――カットボールは「魔球」と呼ぶべき球なのだろうか? そこで、今回は記者の誰もが使いたくなってしまう、 このキャッチーな表現について徹底検証! ある事例から、真の魔球を明らかにする。 その事例とは? そう、消える魔球である。 ♪ 思いこんだら 試練の道を 行くが男のど根性 真っ赤に燃える 王者のしるし 巨人の星を つかむまで 血の汗流せ 涙をふくな 行け行け飛雄馬 どんと行け~ 老若男女、全ての日本人がその胸に刻み込んでいるという、 歴史上最もポピュラーな魔球がこれだ。 出鱈目の限りを尽くしたメカニズム。星飛雄馬という男は、 まさに究極のフィクションを生み出すファンタジスタだった。 まあ、しょせんは虚構の産物……とタカを括るなかれ。 実は、この球にこそ「魔球」の定義となる要素が隠されているのだ。 その正体とは? 打者のド肝を抜く変化とメカニズム? もちろん、そうだ。しかし、何よりも重要な要素は別の所にある。 すなわち――。 魔球の使い手は、打たれようものなら、すぐさま二軍落ち、 あるいは戦力外通告を受けなくてはならない。 彼らは、いわば諸刃の剣を持つ戦士なのである。 必殺の球が攻略されてしまえば、明日はない。 この流れ星のような儚さこそが、 「魔球」という単語に神秘性を与えているのだろう。 一方、これを打ち崩さんとする打者もまた、美しい。 彼らには、断固たる決意と覚悟、それに稲妻のような閃きがある。 その点、カットボールはどうか。 これといって、致命的なリスクを背負うこともないし、 攻略法もシンプルだ。憲伸のライバル、由伸はこう明かしている。 「真っ直ぐと思って振っちゃいますね~」 か、軽いでしょう……? では、フィクションなくして「魔球」は有り得ないのか。 いや、思いつく限りひとつだけあるのだ。 常軌を逸する変化はもちろん、打たれようものなら、 すぐさま戦力外を通告されるような、儚さを秘めた球が。 それこそが、ナックル。 気まぐれな夢遊病患者のごとき、不可思議な軌道を描く。 フィル・ニークロ、ティム・ウェイクフィールド、 トム・キャンディオッティ、ホイト・ウィルヘルム……。 彼らこそが、正真正銘「魔球を操りし者たち」なのだ。 と、捻りのない結論へと辿り着いてしまったが、 世の中、仕方のないことは沢山あるものだ。 武藤敬司がスペース・ローリング・エルボーを打ってきたなら、 甘んじてフェイスクラッシャーも食らうべきなのである。 いつの世も「お約束」は大事にしなければ。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2006.07.21 04:12:14
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