070041 ランダム
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・1章

高く昇る太陽。
それはまるで血のように赤く。
燃え滾るような光線は、戦いを催促するよう。
では、お望みどおり。
若き血しぶき、ご覧にいれよう・・・



新入生は大広間に集められている。どうやら、目の前にある機械とカプセルの使用用途に興味津々のようだ。
ぶっちゃけた話、そこまで期待してもらっても困る。
はたから見ればカプセルの中に横たわり、スクリーン上で戦っているようにしか見えないのだから。
まぁ、簡単にいっちまえばアクション映画みたいなもんだな。
・・・それが面白いかどうかは個人の趣味だが・・・

ここで属性の話をしておこう。前述のように、人個人には属性なるものが存在する。
おおまかに分けると、炎、風、氷、雷、光、闇、全・・・それに、世界に1人いるかどうかの理だ。
前者6つは見ての通りそのままだが、全というのは、光と闇を除く4属性に通じている・・・ということだ。ただし術威力は特化・・・要は炎など、単一属性のものよりは少し劣る。
理というのは、この世の全ての理を使えるということ・・・つまるところ無敵だ。
どんな術にだって特化でき、最強のステータスを誇る・・・まさに万能といったところか。
ただし、その存在すら疑問視されている節があるが・・・
ちなみに、その属性の術しか使えないというわけではなく、あくまでその属性に適している程度だ。
だから光属性の俺が闇魔術を使うことだって可能だ・・・可能ではあるが、威力は闇属性のそれにはるかに落ちる。

・・・なにはともあれ、学長の長い挨拶(余談ではあるが、彼は20代後半らしい)も終わり、ついに俺らの出番がやってきた。優秀な生徒といったが、その実はくじ引きだ。
で、選ばれた優秀(というよりは幸運)な生徒が俺とアランというわけだった。
別に今日の友が明日の敵・・・なんてのはよくある話なご時勢であるが、少し悲しくもある。
そりゃそうだろう?

戦いの合図は、お互いに頷きあうだけだった。
まぁそりゃそうだ。これから殺し合いをするといったって、模擬戦闘なんて日常茶飯事だからな。

俺とアランは、新入生の好奇の視線にさらされつつカプセルに入った。
扉が閉まり、微弱な機械音とともに全身をスキャンされていく。そして俺は、数値となってヴァーチャルルームに・・・端的に言えば飛ばされた。
奴は先に入っていたようだ。
笑を含ませながら、奴は軽く俺に向かって頷いた。
「・・・行くぞ。」
そういって頷いて、俺らはお互いに相手に向かって踏み込んだ。
間合いは6歩といったところか。それを3歩でつめ、両手の剣で水平になぎ払う―!
「・・・っつ・・・!」
微妙な苦痛に顔をひきつらせながら、アランは後ろに飛びのき、
「くらえ、―Eis!」
なおも追ってくる俺に向かって、氷の弾丸を放ってきた・・・!
「甘い、luce!」
それを、前に展開した光の盾で防ぎ、さらに間合いをつめ、右袈裟で切り捨てる!
奴は剣でそれを弾き、その勢いで回転して大上段で斬ってきた―!
双剣で大上段を受け止め、初めて両者に膠着状態が生まれる。
「・・・ふ、チェックメイトだ!」
アランはそう叫び、ここぞとばかりに力を込める。力では奴に勝てない・・・ならば・・・
「それはこっちの台詞だ、Fortificando!」
俺の肉体自身を強化し、奴の剣を弾き返すまでだ―!
「くっ、肉体強化か・・・」
アランはそういって剣を引き・・・
「終わりだっ――!」
俺はその隙をついて、下から上、左袈裟、右袈裟、上から下へと連撃をかました―!

かくして、模範戦闘は俺の勝ちに終わった。
後に残ったものは、新入生の歓声と、後味の悪いなんともいえない感じ・・・そう、友人を切り捨てたという不快感だった・・・。


夜の中庭を歩く。
何かの目的も無く、あてもなく。ただ、彷徨うのみ。
夜の空は高く、どこまでも黒だ。
「よう、夜の散歩かい?」
声がした方角、自分の正面を見ると、そこにはダンがいた。
「洒落ちゃいないけどな、そんなところだ。」
するとダンは妙に生真面目な顔になって、
「もう20近いだろ?そろそろ彼女の一つも作らにゃまずいぜ?」
なんて事を言った。それを軽く流しつつ、
「とりあえず座るか。」
俺達は中央の噴水が正面に見えるベンチに腰掛けた。
…。
…。
妙に重い沈黙が続き、そろそろ口を開こうとしたその時、
「皮肉なもんだな…」
とダンが言った。
「あぁ?何がだよ?」
「俺達はこうして仲良く座ってるが、ここを卒業したら軍人だろ?」
「まぁそうだな…で?」
「鈍いヤツだな…いいか、軍人ってのには敵味方あるわけだ。」
「そりゃあそうだろ。俺達はどちらかにつかなきゃならないだろうな。」
「楽観的だなおい。俺達が、いまこうして話してる俺とお前が、敵味方で殺しあうなんてこともあるわけだろ?」
「…ああ、覚悟の上さ。」
「…すげえな、俺は怖い。俺は模範戦闘でさえできやしないさ。甘すぎるんだ…」
(俺だって好きでやってる訳じゃない。運命ならば従うまでなんだ…)
言おうとしたが、言えなかった。
寒さで唇がかじかんだこともある。が、それ以上に空気が、心が重かった。
本心でないことは確かだ。俺だって仲間を傷つけたりはしたくない。
楽観的といえばそうなのかもしれない。現実から逃げているのも事実だ。
だが、あと少し、人生においてほんの短い時間だけでも、こいつらと仲間でいたいんだ…

今度も、沈黙を破ったのはダンだった。
「だから俺は、ここを使う仕事をすることにするよ。」
今度は少し、笑いを含ませて、ダンは頭を指差しながら言った。
「はっは、頭を使う仕事はお前にゃ無理だ!」
だから俺も、無理矢理笑った。

少々の沈黙、そして、今度は俺から沈黙を破った。
「戦争があるとしたら…その時はみんなで一緒に戦えるといいな。」
噴水から吹き上げる、ろ過された美しさ、人工の輝きをもつ水をみつめながら俺は言った。
「ああ…ないほうがいいけどな。」
ダンは月を見上げながら、そういった。神秘的だが柔な輝き。汚そうと思えばすぐにでも汚れてしまう美しさ。
やがて、ダンは、
「徹夜する気はないからな、俺は寝る…おやすみな。」
と、大欠伸をしながら寝床に帰っていった。その目線は夜空と平行に、まっすぐ正面だけを見つめて…。

5分ぐらい経っただろうか。流石に寒くなってきて、俺は寝ることにした。
「寝るか…」
そういいつつ、噴水の向こうを何気なく見ると、
そこには。
長い漆黒の髪の少女がいた…。
数秒見惚れた後、後れてきた不審感より声を掛けようとしたその瞬間、少女は髪を翻し走り去っていった。
「…?変なの…。」
俺は開きかけた口を閉じ、寝床へ向かって歩き出した。
向こうに待つ明日へ。
そして、二度と戻れない今に別れを告げて。


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