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豪州ちゃんぽん

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売れない小説家気取りで

            Something like that..............嘘と後悔のあいだで


オーストラリアに来て7年、ブリスベンに住んで3年になる。
やっと永住権を取って落ち着きたいと思いつつ、借りたユニットが売れてばたばたと新しいところに移るはめになった。
新しいユニットは3ベッド2バス、家賃は週で550ドル、日本なら家賃20万円ほどになる。
もちろんやって行けないので、シェアメイトを募集した。
運良く前からの引き継ぎで日本人ワーカーのダイと、中国人留学生のスタンリーが決まって、我が家は4人家族になった。

相方は日本人シェフでアラフォーの頑固オヤジ、ロッキーとあだ名されている(笑)
私もロッキーも体育会系で我が家は絶対禁煙。
幸運にもスタンリーもスポーツマンタイプだ。永住権を視野に入れた学生上がりのコックで、現在はビザの申請の準備段階に入っている真面目でなかなかのハンサムボーイ。
オタクの部類にはいるダイはもの静かで、シェアハウスは至って快適だった。

ある日、早朝シフトのスタンリーが出かける前に話しかけて来た。
聞けば仕事場で気になる子がいる、と。彼はロッキーの働くレストランでバイトをしている。
日本人と中国人カップルも悪くない、ほとんど刺激のないここの暮らしで久々に春めいた話をウキウキと聞いた。
仕事には厳しいロッキーにはまだ内緒にしてほしい、と彼は言った。
オーストラリアの外国人留学生たちは、2年のスクールを終業後900時間の経験実働を経て、さらに1年のリーガル就業の証明を取らなければ行けない。彼はその期間中だった。

スタンリーから彼女のことをきいて数日後、英語クラスから帰って家に居ると彼が私服で帰宅した。
彼がいうには、彼女の両親が遊びに来ると言うことでスタンリーはかなり尽力している様子だった。
空港に迎えに行き、観光案内をし、出来る限り彼女と両親のアテンドをしている。彼は某有名ホテルでもパートで仕事をしているので、ホテルの予約もしてあげたらしい。
いきなり両親の登場かとちょっとびっくりしたが、これで彼の恋は真面目な本レールに乗るのだろう。
ただ、彼の話では両親は彼女をオーストラリアに住まわせる気はない、結婚もまだまだだと念を押されたと苦笑していたけれど。


スタンリーはことあるごとに彼女の話をするようになった。
職場では公にしていないらしく、共有の話題を持ちたかったのだろう。ちょっと仲のいい友人がいきなり両親に紹介されて、恋のレールの上をばく進しだしたように見えた。
ただ、彼女は常に『友人』と言うポジションを取り続けているらしかった。ワーホリで来豪し、大方は帰国を控えた若い日本人女性が取るスタンスではある。それはそれで、情熱をかき立てるのだろうとおもしろおかしく聞いていた。

両親が帰国して、彼と彼女はかなり親密になったのであろう、週が開けた金曜日の夜、バイトの帰りに彼女をうちにつれて来た。日本人ワーキングホリデーメーカーのかわいらしい22歳、マリアといった。
何でも職場ではロッキーが厳しくて怖いらしい(笑)
日本の典型的な若者で、つきあっているような状況は上司には秘密にしてほしい、と。
私は主人には(出来る限り)内緒にしておくね、と約束をした。
奇しくも地元が同じだと言うことが判明して、親子程歳の離れた若い娘と話が盛り上がった。
それが元で次の週の火曜日、通っていた移民英語クラスが昼までなので、うちでランチでもしようと言う事になり、なぜか3人でスタンリーの作ったフライドライスを食べた。
その後、恋愛心理テストで盛り上げて、二人は幸せの絶頂に見えた。
この後、彼女は新しいシェアハウスに引っ越すんだと、スタンリーが車で送って行った。
お姐さんは全く大きなお世話様、だった。


突然の突風が吹いたのが水曜の夜だった。
バイト先に彼女を迎えに行こうとしたスタンリーは、今夜は新しい家のハウスメイトが迎えに来るから、とお役御免になって早々と家にいた。その後いくらメールをしても返事が返ってこない、といらいらしていた様子で。
そんなこともあるだろう、新しい家で歓迎パーティでもやってるんじゃない?と流しておいた。
その時、私の顔を見てダイが慌てて部屋に駆け込んだような気がしていたのだけど。。。

その夜、寝苦しくて水を飲みに起きた私は、眠れない、と言うスタンリーの話を夜中の3時まで聞くはめになった。
マリアはきわめて気ままな子で、ロングヘアの魅惑的な彼女はいろんな人からの誘いも多いらしい。聖母と同じ名前からは想像もつかない程。
これまでに2回、正式にガールフレンドになってほしいと申し入れたらしいが、時間が必要、といなされているとのこと。その時点で私はすでに可能性は低いとちょっと残念になった。
それは、先日彼女が遊びにきた時にかわした会話でわかってはいたけれど。
1年間のアバンチュールのつもりで海外に出る若者は多い、彼女が牧師の娘だと言うことを聞いていたので、勝手に素行がよいと思い込もうとしたが、どうやら私の勘もまんざら悪くはなかったようだ。
シェアで住みだして1ヶ月、ワインをラッパ飲みし、タバコをくわえた彼を初めてみた。
若すぎるからね。あの子の背中には羽がはえてるよ、と忠告したつもりだった。
30歳手前で真面目に人生のパートナーを捜している彼、結婚する前に出来るだけいろいろと経験したいと言っていた彼女。
この時点でスタンリーと彼女の思いには激しい温度差があった。修正は不可能に思えた。
彼女にとって彼は取り巻きの一人に過ぎない、が、英語で説明するのが面倒だった。
突然彼は私の手を握り、早口でまくしたてた。

If you could back to 27 or 28, you could not choose Rocky! right? I think you also had the best one, right?

なんだ?マジで酔ってるのかな?とスタンリーの顔を覗き込むと、きりっとつり上がったまなざしに一瞬残酷な光が見えた。こんな闇の一面があったんだな、ともう一度正視し直す。

Oh, OK.... I might so, it sound great...

手を引こうとすると、彼はさらに強く引きよせて、
Is it right? I know, I know, you also have the secret, Tell me!! Did you reglet before?

以前から彼はプレイボーイは嫌いだと執拗に言い続けていた。
私からいわせると、嫌いだと言っていることはほぼその人のコンプレックスの裏返しだ。
こうやって手を握って見つめれば、遠くない昔、たいていの若い娘ならば言いなりになって来たのだろう。
残念ながら、ナンパ目的で飲んでる訳でもない私には通用しないし、こんなことに飲まれて慌てる程やわではない。
今は善人をめざして自分を造り上げようとしていたと言うことなのだろう。が、今現在、彼の顔は苦悩に満ちている。
彼はなぜか私の若い頃の古傷を引っ張りだそうとした、、、それで自分のギルティを中和したいのか?と冷静に対応してみた。それでもしつこいまでに後悔の念を引き出そうとする。
ちょっとだけ、本当の古傷のさわりを話してみようか?という気持ちも起こった。
あなたの恋煩いなんか恥ずかしくなるくらいのストーリーだってあるんだ、と、私の中の悪魔を呼び起こしそうになった。
握られた手を見つめて、は?と我に返った。

Yes,off curse! I had many many experiences. If you got one, you must be suffer. You are very similar my old worst boyfriend!! Do you wanna hear that? You must be reglet!!

と切り返した。
彼は半分なきながら(おいおい?)とうとうと昔の懺悔をしたが、私はグラスのワインを飲み干してやっとその場を抜けた。つきあってばかりも居られない。ベッドに倒れ込むように爆睡した。
彼はその後、キッチンで吐き倒れていたようだった。


木曜日の朝は、4時間くらいの睡眠でなぜか早朝に目が覚めた。
夕べの残骸を処理した所にダイが起きて来た。
「お、おはよう。早いね?」
「いや、なんか、、、ちょっと、、、眠れなくて」
「あなたも?みんな眠れないんだぁ?」と冗談を言ったつもりが、ダイの苦しげな表示が気になった。
「なにかあった?」
ダイは苦悩に悶絶しながら驚くべき事実を話しだした、夕べ、マリアは彼の友人のリッチーと一緒だったと言う。リッチーは在豪日本人のアラサーの実業家、シティのハイライズに住んでいる。
夕べ、スタンリーがメールの返事がないと言っていた時に部屋に引っ込んだダイは、友人からの電話で彼女と話したと言う。その時に「あれ、スタンリーからメールだ」とのたもうた、と。

何だか嫌な気分だった。
昨夜は言うには簡単だが、スタンリーはかなりのあれ具合で見るもあわれな恋煩いだったのだ。
ダイは友人とはかなり近しくて、以前一緒にロッキーの勤めるレストランに食事に行き、友人リッチーがマリアを気に入って、デートに誘っていたのは聞いていた。
プレイボーイを自称するリッチーには、そう言っても日本に遠距離交際中の彼女がいると言う。
ダイは普通に良い人で、その彼女のこともリッチーのことも心配していた。
「うーん、ちょっと見守ってみようよ。大人だしね」といいつつ、イライラして来るのを覚えた。

その夜、英語クラスの山のようなホームワークをやっていると、ばつが悪そうにスタンリーが帰って来た。
彼とは英会話である。いつももどかしいながら頑張って話しかけるようにしている。

Are you OK?
Yes,I met her this afternoon and my feeling became so good. I trust her and I will do my best.

へえ?あれだけ荒れといて、ここまで簡単に復活するのか?と思いながら、辞めといた方が巳のためだけどね、と、ちょっと意地悪な考えも浮かんだが、その夜は思い切り彼の決意をまた夜中まで聞かされることになったのだった。


金曜日は英語クラスがなく、ロッキーも仕事で夜はぼんやりとテレビを見ていた。
何だか頭がふらふらするのは、火曜日から毎晩スタンリーの話につきあわされているから寝不足だ。
まあ、彼は個人的にはかわいいし気に入ってる、きっとマリアとはうまく行かないだろうけど、話くらい聞いてあげるのもいいかな、なんて思っているとダイが帰宅した。
ダイはシャワーを浴びるとリビングに出て来た。
「なに?」
「リッチーに、バカなことするなって言ったんですよ。飯に誘って。彼のアシスタントもちょっと気になってたらしくて、リッチーがめろめろらしいから。」
「あら、感心だね。友達思い?」
「僕、リッチーの彼女しってるし、あの子きらいなんです。僕の隣りの部屋でスタンリーがのたうち回ってるのに、のうのうと電話して来て、あ、メール来た!なんて。悪魔ですよ。」
「。。。。。。そうだよね。それはちょっと許せないなぁ。哀しくてスタンリーにはいえないよね。ていうか、それで話は漏れないと踏んでるんだ。。。?」
「とんでもないですよ!僕は友人とハウスメイトの板挟み、彼女もしってるし、、、あ’===」
ダイはホントに善い人なんだと思った。
でも歳も上でお金も仕事も思うようにいっている彼の友人が、ああそうですか?ということを聞くとは思えなかった。
「効果ありそう?」
「一応、彼女の行動を鵜呑みにはしない、と言ってました。まだ手もだしてないって」
「あっそ?しかし、あんな若い娘にあしらわれちゃってるよねプレイボーイが?ミイラ取りがミイラにならなきゃいいけどね。」
皮肉っぽくいってみたが、なぜか、このリッチーな友人が絶対引っ込んではいないだろうと半ば確信していた。
それからしばらくしてロッキーが帰宅した。
丁度同じくらいにスタンリーが帰って来てコンピューターの前で、仕事がらみの話をしていると、ダイが部屋からでてきて、久々に4人でそろって20分程談笑した。
ああ、やっと平和になったな、と一人で胸をなで下ろした。水曜日の修羅場はロッキーには報告してなかったし。
このまま、また平和にシェアライフが続けばいいと心から思った。


土曜日は全員帰りが遅く、ロッキーは仕事が終わってから昔のスタッフと飲むと言って出かけた。
ダイも珍しくデートだと言って出かけていたし、私は早々に部屋に引き上げた。
が、午前2時頃、喉が渇いて水を飲みにリビングにでたところで、スタンリーが部屋から飛び出して来た。手に携帯を握りしめている。

She send me message, and she suddenly changed her mind!

聞くと、明日一緒に早朝のバイトのシフトに入っているのでシェアハウスまで迎えに行くことになっていたが、こんな夜中に断って来たと言うのだ。
水曜日程は取り乱してはいなかったが、ジェラシーの炎に焦がされているのが手に取るようにわかる。
何がそこまで彼を駆り立てるのかはわからないけど、あまり考えすぎないように、だから先日もいったはずだ、彼女はあなたにはあわないと思う、と。これで2回目だ。
実は今朝も迎えに行くと約束していたはずなのに、家を出る時間に連絡があって、シティにいるから迎えにこなくていい、と断られたと言う。彼女はスッピンで寝不足にみえた、と。

ああ、リッチーと一緒にいたんだろうな、と簡単に想像出来た。彼のユニットはシティの真ん中にあったし、ダイの話からしてもすでに彼の家に出入りしているのは間違いない。
このまま別れた方がいいのにな、、、と勝手に想像しながら、ふと、いやまてよ?彼女はスタンリーとは友人だと言っていたんだし、スタンリーが追っかけなければ済む話なのではないか?と妙に冷静に判断するに至った。
ダイの話は現実で、それからすると彼女はリッチーを選んだことになる。リッチーに本命の彼女がいようがいまいが私には関係の無いことだし、若者の自由恋愛に定義をするのも馬鹿げている。

スタンリーはタオイズムー道教系の宗教を信じるようになった、といいながら、ゆっくりと祈れば真実がみえてくるんだ、と、また話しだした。
彼女はきっと嘘をついているんだ、と彼女の行動を時間をおって冷静に考えると、彼女はバッドガールだ。こんなことならば自分は彼女とは終わりだ、プレイガールは好きじゃない、と、また始まった。
わかってないのは君一人、どうしたいのだ?と上の空できいていると、
リッチーのユニットをしってる?と来た、一瞬、ぎくりとしたが、なぜ?と聞くと、彼女はよくシティにいると言うし、彼とあっているんじゃないか?と。
だから言ってるだろう!と突っ込みたいのを抑えつつ、もう寝なさい、彼女のことは忘れた方がいい、と言ってみる、が、聞く耳は持たない、既に自分はギブアップしたと言いつつ、彼女が傷つく前にすくってあげたい、なんて言いだす。
既に私の中では「言っても無駄」だということが判明していて、いいたいことを言わせて、また午前3時頃に就寝した。


日曜日、めろめろに睡眠不足になった身体で、幸か不幸かフードコートの仕事に呼び出された。
外回りの掃除の仕事なので、身体的にかなりハードなモップ掛けをおえると、肩や腰がぎくしゃくした。
スタンリーは土日の夜はホテルのレストランの仕事で遅くなる。
最近は全く持って不本意ながら、ダイからリッチーとマリアのことを訪ねてしまうようになっていた。
リッチーはなぜかダイに洗いざらい「こと」の経緯を話している様子だった。ボーイズトークもそんなものなのだろう。私なら彼氏との全ては友人に打ち明けはしないけれど。
今夜は、マリアがリッチーの所にシェアではいるかもしれないと言うことを聞いた。「私のこと好き?だったら。。。」と持ち出されて,NOと言えなかったらしい。
こうなれば話は早いかな?スタンリーはあきらめざるを得ない事実を突きつけられることになるのだけど。
ダイとキッチンで話していると、ロッキーが帰宅した。疲れているときはきわめて不機嫌な顔を隠さない彼だが、今夜は帰って来るなり、
「ダイ、お前の友達はなんなんだ?今日一人でランチ食べにきたぞ」
え?と一瞬ひるむ私とダイに、
「うちのハウスメイトとマリアのことわかってて来たんだろう?嫌がらせなのか?ついでにブレッキーのメニューをマリアに頼んできたぞ、厚かましい!断っといたから!」
「。。。。。。。。ご主人、しってたの?スタンリーのこと?」
「俺だってそこまでバカじゃないんだぞ。毎晩こそこそ話してて、行動見ればわかるだろう!あいつは仕事場でも色目使ってるから、最初から危ないと思ってたんだ。これ以上変になるようなら俺が辞めさせる!」
いやいや~?そんなことまでしなくても、と相方をなだめた。私はかなり気の強い女手はあるけれど、人にとどめを刺すのはよしとしないのである。それも若い女の子のすることじゃないか~?だまされる男の方が悪いんだよ、と、一人ごちてみる。
「一人で来たんですか?!済みません、あいつ、けっこう厚かましいオーダーとか平気でするんですよ、どんなお店でも、メニューにないものを頼んだりするの、、、得意だし」
「て、いうかさ、、、ダイの忠告なんて聞いてないよね?だから、わざと自分の力を誇示したように聞こえるんだけど?」
「そうかもしれないですね。。。やっちゃったって言ってたし。。。」
呆然とするダイ、
「そんなことまで報告してくんのっ?!」
うーん、これはどうにか形を付けないと、どこまでも引きずられる気がして嫌気がさして来た。
しかし、ちょっとモテル系のボーイ達は、以外にも純粋に女の子が自分だけのものになると思い込んでいるとは。。。自分の中の自由恋愛がもっと希薄な関係をイメージしているのに少し反省してみたりした。

案の定、スタンリーは今日はもっとクリアになった、自分はもっとシリアスなパートナーを捜す、これで終わりだ、といいつつ、嫉妬の炎に焦がされて息も絶え絶えのカメレオンのようだった。
怪しい色彩の蝶が舞い降りて来るのを待ちきれない、おって行っては逃げられ、その度に自分の色を変えてはまわりに気づかれないようにと苦慮しているが、いくら着替えても肝心の頭が切り替わってない。
その証拠に、今夜は怪しくなった関係の経過を一部始終聞かされることになった。
たった一周間足らずの出来事だったのかと、うつろにプロセスを聞きながら、人はうまく行かなくなると何かしら人の所為にしたがるんだな、と実感した。
今の私は彼女が出て来さえしなければ、今でも平和な暮らしが続いていただろうに、と考えるに至る。しかし、私の人生のモットーはそこではない。人は皆、理由があって何かしらの行動を起こす、そこに犯罪性がなければそれは選択の自由だと思っている。それが私に取って嫌なことであれば遠ざければ良いし、関連の無いことで人の好き嫌いを決める程子供ではないのだ。
この大人になりきれないハウスメイトをどうにかこの問題から卒業させなくては、と、お節介にも思い直した。旧知の仲ではないので、やんわりと持って来ていたが、荒療治も必要だ、と思ったのは午前2時半を回っていた。

月曜日、相変わらず寝不足の状態で一日を過ごし、また英語クラスの宿題をキッチンの脇でやっているところに、ダイが帰って来た。
「リッチーはまだ僕が彼女のことを悪く言うと、お前はわかってないよ、なんていうんですよ」
「へえ?わかってないのはどっちだろう?」
「彼女はおれにぞっこんだから、って訳のわかんないこと言って。。。。」
「と、いうことはぞっこんなんだねぇ?プレイボーイもヤキが回ったかな?」
「でも、日本の彼女いるし、日本に帰る予定も変えてないみたいだし、、、何よりスタンリーのことは彼女からストーカーまがいのように聞いてました。うまくやってると言っても信用しないし」
「そっか、、、、どちらにもいい顔してる訳よね。うちのボーイを何とかしなきゃね。そろそろ疲れて来たし、荒療治に入ろうかと思うんだよね。私もあなたもつまらないことで自分の時間をつぶすのは辞めたいよね?もしリッチーが本気ならそれはそれでいいじゃん?」
「。。。。。。。。。良くないです」
「あ、そっか。彼が買うかもしれない新居のハウスメイトになるんだったよね。結婚はあり得ないでしょ?」
こういいつつ、人は何かの縁でつながるものだと思った。リッチーに関してはあったこともないけれど、ダイの関係で仕事の内容や持っているプロパティのことまで前から聞いていたし、こんなことで情報を生かすことになるとは思わなかった。
そこで、と切り出し、私がスタンリーのために根掘り葉掘り聞いたたということにして、いくつか現況を彼に伝えたいのだけど、と頼み、ダイの了解を得た。
その後、ホテルのバイトから帰ったスタンリーの話を12時を回ってから聞き始めた。
最近ロッキーは疲れていることもあるし、彼なりの配慮で夜は一人部屋に引き上げ、先に就寝している。
今夜もスタンリーは、いかに自分が後悔しているか、彼女の不信な行動を確認し始めた。あきらめきれない、と、端正な顔にありありと書いてある。
それで?とちょっと意地悪に切り出した。

You already gave up? or not? what do you want?
.........I want truth.

来たな?と思った。
真実ってなに?彼女とは関係ないんだったら放っておけばいいじゃない?真実を聞きたいなら、私が調べてあげるけど?とたどたどしく英単語を選びながらいうと、

Really? I ready to get truth, I just want truth.

だったら、私がダイに聞いてあげる。彼はリッチーと親しいからね。でも真実は時として残酷なんだよ、ホントにそれでいいんだね?OKとうなづいたのを確認して、じゃ、明日、と言ったのが午前1時。ああ、今日は1時間はやかった、と一人で苦笑しながらベッドに倒れ込んだ。

火曜日、英語クラスは半日。週が始まったばかりだと言うのに身体がずっしりと重い。
まっすぐに帰宅すると、夕方から仕事のスタンリーがあれ?という顔をした。
先週、火曜日は私が早く帰れるから、と3人でランチしたのも覚えてないらしい。ヤレヤレだ。

How are you doing?
............I miss.........her.

なんだと~~~~っ?と叫びたくなるのを必死でこらえて、あらそうなの?とうなづいた。
電話すれば?というと、あまりプレッシャーかけたくないから、という。本人に訊けば良いじゃない?と言ってみるが、なにをかためらっている。
見れば、1週間前よりげっそりした感じがして、腕も細くなったようだ。エクササイズもやってないし。

Can you call her? and ask ? because I send her message but she didn't reply...
Ok, it's very easy for me. what do you want?
Ask her that can we have a time to talk.
Ok, I'm sure.

バイトの時間が迫っていたらしく、スタンリーはあわてて出て行った。
私は即、マリアにメッセージを送った、彼女はすぐに返信して来たのそのまま電話をかけた。
他でもなくて、スタンリーのことなんだけど、、、かなり苦しんでるのでどうにかリリースしてほしいのよね。二人で話したいって言ってるけど、可能かな?
「ええ?友達でいたかったんですけど、切り捨てなきゃダメですかね?同じ職場だし、気マヅイのは嫌なんですけどね」
うーん、そうしてもらうと助かるけど、といいつつ、身勝手な会話だとつくづく思った。
電話口の彼女は悪びれた感じはなく、このままこの調子ですすむといつかやけどをするんじゃないかと少し心配になった。ダイと私、隠し事をしつつキープしているボーイは私たちのハウスメイトで、それは何も心配ないと思っているのなら、信頼されたと喜んでいいのか?大人だと踏んで安心しているのか?どちらにしても、信頼を欠くことには必要充分な事実だったし。
「あなた、リッチーとあってるでしょう?スタンリーは嫉妬に燃えてるから、そろそろ彼のことを勘ぐってるしね。一度デートしてるよね?」
わざと、ニックネームを使って彼のことを探ってみた。私にも情報が入ってるのだと言うことを伝えるため。それは私に出来る最低限のフェアーなやり方だと思ったからだ。
「それから何度も会ってますよ」
これは彼女から聞いた事実だ。スタンリーとは友人だけれど、その間に他の男性と何度も会っている、それで十分かな、と思った。
スタンリーから連絡を入れるように伝えるから、ということで、木か金あたりに、と言うあたりを付けて電話を切った。
それから友人宅にお小遣い稼ぎの出張マッサージにいき、帰宅後ふらふらと一休みした。

その夜は12時過ぎ手もスタンリーは戻らず、ダイは先に休んだ。
12時半までに帰らなければ、今日は寝ようと思っていたら12時25分に帰宅した。
彼はキッチンの横のテーブルに仕事着のママまっすぐに来て座った。彼女に連絡取れた?と。
もちろん、というと彼は嬉しそうに、それで?と聞いて来た。
木曜か金曜に話せるだろうと言っていたし、あなたから連絡をしてほしいと言っていた、と伝えてから、落ち着いて聞いてほしい、と一度話を切った。
ダイから聞いたことが二つ程ある、ただこれ以上彼を巻き込みたくないので彼にはタッチしないでほしい。ダイはリッチーの近しい友人だけど、あなたのこともマリアのことも心配しているから、と前置きし、
先週の水曜日、めろめろに荒れた夜、彼女はリッチーとあっていたこと、
彼女は今週彼の所にシェアで入るらしい、それも彼女から切り出したのだとリッチーがダイに言ったらしい、と。
スタンリーの顔は青ざめた。ホントに?あなたが私を信用するならば、ね。

I told you, I don't know truth but I can tell you the fact.

それから2度、スタンリーは同じことを聞き返した。空を見つめて時間の経過を確認し直していた。

I want to tell you that I still like her. I have no problem with her, OK?

でも、と間をおいて、真面目な人生のパートナーを捜すのであれば彼女は向いてないので、これ以上は追っかけない方がいい、私はこれ以上彼女のイメージを悪くしたくないから、と言ってみたが、うまく通じたのかどうか???
それじゃ彼女はずっと嘘をついていたのか?このときもあの時も?と確認しては、私の頭の上を見つめ、また現実に戻り、、、ということを繰り返した。
いい気分ではなかったけど、これで人の詮索と毎晩の残業を終わりにすることが出来るならば恩の字だと思うようにした。
こんなことが続くなら、僕はもうこれ以上彼女に親切にするのは辞めるよ、やっとクリアになった、ありがとう、と言って、またもとの生活に戻ろう、と言って部屋に引き上げたのは午前2時だった。

火曜日、朝7時に起きると、ダイとスタンリーが既にキッチンにいた。
おはよう、というと二人で笑いながら、おはよう、と笑いかけて来た。
「全部、はなしました」
とダイが言った。
「、、、、、全部?全部って全部???」

I am clear now, thank you both.

と、スタンリーは夕べ3時くらいにマリアに電話をした、と、そして彼女は電話を取ったらしいのだ。
3時に?!そんな夜中に?それはそれで迷惑だろうと思いつつ、彼女に今本当のことをしりたいので会おう、と言ったが、彼女は断った(当たり前だ)それは彼女がシェアハウスにいなかったからだ、と、彼女はきっとリッチーといたんだよ、と早口で説明した。
朝一、まだ起きてない頭で彼の説明を聞きながら、それはそれで迷惑だろ?と思ったが、朝の通学のタイムリミットの方が気になってあまり頭に入らなかった。
7時45分、ロッキーが「間に合うのか?」と起きて来た。
「早く、用意しろ。間に合わなくなるぞ」
スタンリーは今まで打ち明けていなかった事実を、今度はロッキーに報告をしだしたようだった。
コーヒーは飲んだが、朝食はとる暇がなかった。が、気分的に楽だった、だまし討ちしたような気がしたが、これで出口の見えない妙な悩みから解放されるのだと思うとせいせいした。
英語クラスに行く途中で、ダイに携帯メールを送った。

Super thanks!

寝不足にめげず、この日は英語クラスのWritingのテストと、先週落ちたSpeakingの再テストをうけた。Speakingに関してはスタンリーとのやり取りで少しは自信がついていたのかもしれない。
夕方、帰宅したときはクタクタだったが、ロッキーが休みで先週からの変な厄を落とそう、とジョギングに出た。1時間程走って帰宅した。

これで終わりだと思っていた私だったが、ロッキーが先に部屋に引き上げた後、やっぱりスタンリーの思い出話を聞くはめになった。
よし、わかった、と切り上げたのは午前1時、ただこれが山場ではないことはまだしる由もなかった。


木曜日、午前中の英語クラス中にスタンリーから電話が入った。
何事かと思ったら、彼女がこんなことをしたのは間違ってるが、今は彼女を理解出来る、と。やっぱり彼女にあって話がしたい、それを伝えたかったので、という内容だった。
やっぱりまだ引きずってるな、と思った、会えばまた思いも引き戻されるだろうに。
クラスは3時半に終了し、バスに乗って帰宅途中、私もまた今までのプロセスを思い返していた。
スタンリーは星占いを信じていて、私とマリアのスターサインが同じだ、と言って彼女を始めに紹介してくれたのだった。
私も結婚が遅かったし、20代で結婚する気がさらさらなかった、なので彼女のやりたいことは容易に理解出来たし、だから彼にはすすめなかった。彼女に対しては何の思いもなく、出来れば早くこのことからうまく手を引いてほしいと思い始めていた。
今日はロッキーが休みで家にいる、たまにはゆっくり家で食事をしよう、と帰宅した。
午後4時くらい、再びスタンリーから電話が入った。
電話口で彼はかなり興奮した様子で、マリアにあった、彼女に全部話した、彼女はとてもsadだった、なぜなら僕が聞いた今までの話は全部嘘だったんだ。ダイの話は全部嘘なんだよ。
、、、、、さすがに、カチンときた。ダイがなぜあなたに嘘を言うのよ?
リッチーがダイに嘘をついて、僕たちに彼女が悪い子だと思い込ませて、僕たちを遠ざければ彼は簡単に彼女をモノに出来るんだ。リッチーは悪いやつだ。マリアは一度も彼の所に泊まったこともないし、セックスだってしてない!僕は彼女を信じる、彼女は悪くないんだよ、、、、
英語でいうと、やったのやってないのは生々しいものだと、変に一部冷静な所も残しつつ、頭にきていた。
もうダメだな。。。。すると急に気持ちがさめて来た。

Ok, ok, calm down please. You believe her, it's ok. Talk you later.

電話を切った跡、とても残念な気持ちになった、と同時にどっと疲れが出て来た。
ベッドに転がるとがっくり眠りの淵に落ちる程、疲れがみなぎって来た。鏡を見ると目の下にはクマがくっきり。もう終わりにしなくては!
以上に冷静に考えれば、マリアはもちろんスタンリーの前で自分の虚像を守り、彼はそれに屈した。それだけのことで、外野がどうこう言えることではない。
彼女はまだ、スタンリーのことをキープしておきたいと言うことだ。それはそれでいいではないか?結局人は自分の進む道を人の意見で飼えられるものではないのだ。若かりし頃同じようなことを何度も経験したことがあったな、と苦笑いが浮かんできた。
「あのさ。。。」
電話の一部始終をロッキーに説明した。相方は渋い顔をしたが、
「もうこれで終わりにしろ。すべてあいつがしっかりしないからだ」
ロッキーはオールドタイプだ、スタンリーは男のくせに女に引きずられて、鳶に油揚をさらわれたんだ、と言った。好きならさっさと「モノ」にしてしまえばきっと事態はかわってただろう、と。
うん、そうだね。別れるかどうかなんてその後のことだよね、と、不良中年は人生なんて教科書通りには、聖書の教えの通りにはいかないんだ、と悪ぶった。

年末を控えて残業して帰ってきたダイには、切り出すのも申し訳なかったが、ことの成り行きを説明した。
ダイは絶句した。
それはそうだろう、友人とハウスメイトの狭間で苦悩し、やっとよかれと思って告げた真実が全て否定されるとは。私は申し訳ない気持ちでいっぱいだった。
「魔性はまだ生きてるってことですよね。。。わかりました」
「もう終わりだから。これ以上この件に関してはなし!御免ね、変なことに巻き込んで。あんなにバカだとは思わなかったよ!」
と言った時にスタンリーが帰宅した。部屋の中が一瞬停まった。
「おかえり」
数秒間があいたが、精一杯普通に声をかけた。

What is happen?

とスタンリーは私につぶやいた。何でもないよ!と言ってリビングに座った。
ダイは食事が終わると部屋に引き上げた。ロッキーは始終、憮然とした顔で黙ってテレビを見ていた。


金曜日は久々に仕事の呼び出しもなく、朝から友人宅に出かけた。
英語クラスのクラスメート7人、全員中国人だったが、よく私を誘ってくれる。
会話は9割方中国語だが、わいわいと水餃子を作って、Wiiでゲームをして一日中笑い転げた。
帰宅すると、珍しくスタンリーとロッキーが早上がりで帰宅していた。
「ジョグしようって、奥さんを待ってたんだけど?」
クタクタだったけれど、せっかくなので準備をした。スタンリーも一緒に走るから、と。
家を出る前に洗濯物を干しているらしいスタンリー、うちの乾いた洗濯物を取り入れようとベランダに出ると、

Hey, she send me massage, but she still hide something.....see?

またか、と彼が見せてくれたメッセージをざっと読んでみた。
彼女は始めは前否定した内容を、私たちがしっている、と言うことを考慮したのか、嘘をついている、とスタンリーに告げたようだ。彼はすぐに返信したが、返事がこない、とそわそわしている。
私の中で、何かが変わっていた。この話にはこれ以上引きずられるつもりはない。

Ok, she couldn't reply because she is working, isn't she?
Listen, you don't want to push her anymore, right?

Yes.

You trust her, right?

Yes.

So, you don't rush and you must wait for her, OK?
If you still like her, love her, you MUST WAIT for her and keep going everything.
TO BE BRAVE, HAVE A CONFIDENT AND TO BE A MAN!!
Don't stop doing. Do something today, today's task make tomorrow, if you didn't do anything, you couldn't make anything tomorrow.

半ば言ってることが自分でもわからなくなりそうだったが、
女の子のことにのめり込むと周りが見えなくなる彼に、

あせるんじゃね!
彼女が好きなら、追いつめずにいつまでも彼女をまってみなさい。他のことも手を停めずに。
勇気を持って、自信をもって、男らしくしろ~!
停まっちゃダメじゃん。今日の結果がまた良い明日を作るんだから、待つったって、やることはやりなさい、

と言いたかったのだけど。
ああ、めちゃめちゃ英語があやしい、よくこれでこの3週間、意思疎通が出来ていたものだと我ながら感心した。彼の理解力がよかったのだろう。
それとも?始めから理解してなかったから、こうなったのか?それは定かではないけど。

それから1時間3人でジョグをし、夕食を一緒に取った。
私たちの食事が終わったあたりでダイが帰宅した。私は取りおいていた水餃子とロッキーが作ったトムヤムクンをすすめた。
4人で談笑していると、スタンリーが出て行った。
「お出かけですかね?」
ダイが訊いた。彼女を迎えに言ったんだよ、とさらりと答えた。
「まだ、続いてんですか?」
ネヴァーエンディングじゃない?と言った所にスタンリーから電話が入った。
彼女には会えなかった、リッチーが迎えにきていて、彼のうちに戻ったらしい。それは彼女の選択なので仕方ないから、帰っておいで、というと、彼女は私たちが怒っていて、もう会わせる顔がないと言っていたと言う。
またか。。。。。なんで問題をややこしくするのかな。
大丈夫だよ、彼女には私がメッセージしとくから、帰っておいで、といなした。
その夜もまた、彼女の潔白さを主張するスタンリーの話を2時間に渡って聞くことにはなったが、では、いつまでもまっていなさい、と説くに終始した。

恋は時に人を盲目にする。
自由とはなに?潔白って何?今回は私にとっても自分の人生のポリシーを再確認するいい機会(奇怪?)だったと思う。
私はさらにスタンリーに言った。

私は水瓶座、彼女と一緒だよね。私は人に水を与えて潤す星なんだよ。私は水。
でも私の水はピュアではないから。
もしあなたが純水を求めるなら、タオイズムの友人の所に行きなさい(彼もまた水瓶だと言った)
私の水には、ほんの少しの毒が混じっているからね。
私の所にいる限り、私は少しずつあなたに毒の水を分けてあげることにします。どう?
私の毒は死ぬにはいたらない程度、でもほんの少しの毒は人を少しずつ強くする、漢方薬がそうであるように。

私の毒女宣言である。
真実の愛とは、その人それぞれであって人の物差しでは計りきれないものではないかと。

これにて、打ち止め。


                    = 完 =










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