ダイエット運動と生活習慣病

2012/06/19(火)16:47

「脂肪税」で肥満退治

食育(105)

肥満が新たな健康問題や社会問題として、各国で深刻化している。世界の肥満人口はついに飢餓人口を上回るまでになった。肥満が原因とみられる医療費は各国で増大し、その対策が重要な政治的課題になっている。肥満者を減らすために、デンマークやハンガリーのように、食品の脂肪や糖分の含有量に応じて税金をかける国まで現れた。この動きは欧米各国に広がりはじめた。世界的な不況のなかで、これを税収の増加に結びつけようという下心も透けて見え、議論をよんでいる。 世界初の脂肪税  デンマーク政府は、世界ではじめての「脂肪税」を10月1日から実施した。課税の対象は、飽和脂肪酸が2.3%以上含まれる食品で、含まれる飽和脂肪1kgにつき16クローネ(1クローネ約14.4円)を課税する。たとえば、バター250gの値段は2.27クローネ値上げされた。  飽和脂肪酸は、多く摂取すると肥満だけでなく、動脈硬化などを引き起こす悪玉コレステロールが増加して心臓疾患などの原因になるとされる。政府は脂肪税の導入で飽和脂肪の摂取量を少しでも減らして、国民の健康を改善して平均寿命を10年で3年延ばすためと説明する。課税によって、バターなどの食品の消費量は約15%減少するが、約22億クローネの税収が見込まれる。  デンマーク食料経済研究院は「飽和脂肪酸の摂りすぎで国民の4%が早死にしている」と分析する。している。ただ、栄養学者の間からは増税だけで効果があるのかに疑問の声もでている。  実施直前には、バター、ピザ、肉、牛乳などを値上げ前に買い求める人々で、食品店はごった返した。スーパーの対象商品の棚はたちまち空になった。食品業界は「これで国民の健康が向上するとは思えない。政府の過剰介入だ」と非難の声明を発表した。食品輸出国と輸入国の対立に発展しかねず、欧州連合(EU)が調査に乗り出すという報道も流れている。 ハンガリーは「ポテトチップ税」  ハンガリーでも、9月1日からポテトチップなどの脂肪や糖分の多い食品に課税する法律が実施された。国民は「ポテトチップ税」と呼んでいる。脂肪や糖分の過剰摂取で健康を害する国民が増えていることから、課税によって消費を減らすことが狙いだ。  税額はポテトチップスが1?当たり200フォリント(約84円)、アイスクリームは同100フォリント(約42円)、砂糖の含有量の多いソフトドリンクは1Lあたり250フォリント(約105円)、スナック菓子1?あたり400フォリント(約170円)などだ。肥満防止のためスナック菓子や清涼飲料水など、塩分や糖分がとくに高い食品がターゲットだ。当初予定されていたファーストフードは、国民の反対で対象外になった。  3年前の金融危機以来、ハンガリーは経済の低迷がつづき、目的は健康増進よりも財政再建のための税収増あるという説もささやかれる。肥満が減ればそれだけ医療費も減り、社会保障支出も減る計算だ。世界保健機関(WHO)の統計によると、ハンガリー国民の肥満率は成人男性で26.2%、成人女性で20.4%とかなり高い。  こうした動きはフランスにも波及して、フィヨン首相は糖分の多いソフトドリンクへの「ソーダ税」の導入を議会で提案した。税率は3~6ユーロセント(約3~6円)。カロリーゼロのダイエット飲料には税金がかからない。さらに、学校給食のトマトケチャップとマヨネーズの規制も検討されている。  フランスはヨーロッパでは、肥満の問題が少ないとされてきたが、肥満と過体重を併せると2000万人を超え、過去14年間で倍増した。そのため、目の仇にされているのが、飲料の糖分だ。  この課税で年間約1億2000万ユーロ(約120億円)の財源になる、と期待している。その増収分は農業振興に回すという。首相は健康向上と食料増産の一石二鳥と自画自賛している。フランスはヨーロッパ3大肥満国のドイツ、フィンランド、アイルランドにも、同様の課税を呼びかけるという。アイルランドは早速、デンマーク方式の脂肪課税を近く実施する。  英国のキャメロン首相も、肥満は医療費を増大させ国民の寿命を削っているとして、デンマークにならって「脂肪税」の導入を検討していると発表した。ただ、そのまま実施すると低所得階層への影響が大きいので、なんらかの工夫が必要ともいう。  米国でもさまざまな取り組みがはじまっている。ニューヨークでは大手レストランチェーンに対して、メニューにカロリー表示を義務づけた。州議会では15%の脂肪税導入が議論されている。 子どもをジャンクフードから守れ  台湾では子どもの肥満対策として、ファーストフード店の「おまけつきお子さまセット」の販売を禁止する法案が、今年1月に法院(日本の国会)を通過した。ケンタッキーフライドチキンはおもちゃを中止して、その分、価格を下げて消費者に還元している。バーガーキングは正式に施行され次第、販売を中止する方針で、マクドナルドは反対の姿勢だ。  台湾では、おまけつきファーストフードが加熱気味で、以前からさまざまなおまけつきメニューを売り出して、店内でお絵かき教室やおはなし会、お誕生日会を開くなどの子ども戦略を展開してきた。親の間では、「おまけの多くは中国大陸製で安全が心配だった」と禁止には好意的だという。  同様の法律は昨年、米サンフランシスコ市議会でも決議され、おもちゃつきのセットを販売する場合は総カロリーを600キロカロリー以下に抑え、必ず野菜か果物を取り入れ、ドリンクも脂質と糖質を控えるよう勧告された。台湾はそれをさらに強化した。  WHOは世界の子ども人口のうち、約2割が肥満と推定している。欧州連合(EU)域内では、12歳以下で肥満児童は1400万人にのぼり、毎年50万人ずつ数が増えている。また、米国政府の調査でも、6歳から19歳の未成年者の間で、肥満の割合が80年以来3倍に増大した。  発展途上地域でも子どもの肥満は急増中だ。タイでは5歳から12歳の肥満児童は2年間で12.2%から15.6%に上昇した。砂糖や脂肪が多い食事や運動不足など、欧米諸国の生活習慣が途上地域に浸透してきたのが原因と考えられている。  世界各国で児童を肥満から守る運動が展開されている。子どもの肥満はそのまま成人肥満につながり、高血圧や糖尿病など成人病の発症率を高めることから深刻な社会問題だ。  米国では、子どもの肥満を防ぐために、小学校の自動販売機では水と果汁100%のジュース、中学校ではそれ以外にもカロリーや糖分が少ない飲料しか売らないことを飲料の業界団体が申し合わせた。数年来17の州で、学校からジャンクフードや甘いソフトドリンクの追放が進められている。 シンガポールでは、校内で揚げ物や炭酸飲料などの販売を制限する「Trim and Fit」プログラムを導入して以来、子どもの肥満が10年間で4%も減る成果を上げた。韓国も例外ではない。保健福祉家族部によると、2~18歳の肥満率が97年の5.8%から2005年には9.7%へと2倍近く増えた。ソウル市内の小中高生の肥満率は14%近い。成長期にインスタント食品をたくさん食べる食習慣の影響が大きい。  このため政府は2008年に「子ども食生活安全管理特別法」を制定して、校内の売店で「高カロリー低栄養」に分類された食品の販売を禁止した。そうした食品のテレビCMも、子ども対象の番組で禁止した。  文部科学省の調査によると、日本国内の12歳児のうち平均体重を2割以上上回る肥満児は70年代には6%代後半だったが、その後倍増した。子どもの肥満予防などの対策のために、2005年に「食育基本法」を施行した。様々な経験を通じて「食」を選択する力を習得し、健全な食生活を実践できる国民を育てることをうたっている。 飢餓人口を超えた肥満人口  世界保健機関(WHO)によると、世界の肥満成人数は2002年の14億5000万人から2010年には25%増加して、19億3400万人に跳ね上がった。つまり、全人類の3~4人に1人は肥満ということになる。ついに世界の飢餓人口の約10億人を抜いてしまった。  肥満人口比のランキングをみると、順位は(1)ナウル、(2)ミクロネシア、(3)クック諸島。(4)トンガ、(5)ニウエ(ポリネシア)と、トップ10の8カ国まで南太平洋諸国で、あとの2カ国が米国(9位)、クウェート(8位)である。南太平洋の島国は遺伝子的に肥満者が多いとされ、肥満人口は7~8割を占める。  日本は統計のある179カ国中163位で、北朝鮮(132位)韓国(123位)中国(148位)などよりも低い。脂肪税を導入した国々の肥満人口比は日本と比べて、デンマークは6倍、ハンガリーは7倍、米国は20倍にもなる。中国の肥満人口も6000万人を超えた。  世界中でファーストフード店や24時間営業のコンビニが増加し、ソフトドリンクの自動販売機の普及で、いつでも簡単に飲食できる。乗用車の普及などで交通手段が変化し、運動する頻度が減っていることも大きい。WHOは「肥満はもっともありふれた問題だが、もっとも放置されやすい世界的な健康問題だ」と警告している。 日経BPより

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