人形
その光景を覚えているアパートの和室 手すりのついた腰高の窓そこに立てかけられた裸の人形どうすることもできず 呆然と座り込んでいるわたしおそらく留守番をしていたのだと思う 部屋にいたのは わたしと男の子が2人わたしは3歳くらいだろうか…幼稚園に入る前だったことは確かだ男の子たちは 2人ともわたしより年上だった彼らが幼稚園児だったのか小学生だったのかはわからない部屋には人形が2体あった幼いわたしには ひと抱えもあるような大きいのがチャコちゃんそれよりもひとまわり小さいのがマリーちゃんどちらも寝かせるとまぶたを閉じる昔ながらの人形チャコちゃんはふわふわとした金色の巻き髪で白いヨークとレースの襟のついた赤いワンピースを着ていたマリーちゃんの茶色の髪は肩よりも長いストレートで青い色のワンピースはつるつるした生地でできていた男の子たちは人形の洋服を脱がせるとチャコちゃんとマリーちゃんの体にラクガキをした左右の胸には◎臍には×その下に縦線そして お尻の割れ目の上にはYの字アパートの和室 手すりのついた腰高の窓男の子たちは 人形をそこへ立てかけて帰っていった裸のままのチャコちゃんとマリーちゃん…ラクガキされてしまった人形を前にわたしはどうしていいかわからなかった帰宅した母親はそれを見て怒った男の子たちは帰ってしまった後だったからわたしがラクガキをしたと思って怒っていたのか卑猥なラクガキを許してしまったわたしに腹を立てていたのかあるいは男の子たちへの憤懣を抑えきれなかっただけなのか実はその部分は記憶が定かではない覚えているのは 母親が怒っていた ということだけラクガキをされたこともすごく悲しかったうえにラクガキされたせいでお母さんを怒らせてしまった…二重の悲しさを感じたことを 40年経った今でも はっきりと覚えている