あいうぉんちゅー(Iwishシリーズ番外)まあ、元は一人で暮らしていたのだが、そこにデュオが転がり込んできたわけで。 周りの人々と云えば、「あそこの奥さん可愛いわね(?)」とか、なんとか。 で、だ。 知っての通り、デュオの仕事もヒイロの仕事もあんまり世間的には普通とは云えない。…が、本人たちが普通にしているので、周りは気づかない。 ――左隣の部屋 黒ぶち眼鏡にちょっとざんばらな短髪は黒い。瞳は焦げ茶。彼の名はジロー・ヤマダ。工科大学に通う大学生である。 ある日中の昼下がり、彼がいつものように大学から帰ってくると、… 「ん?」 隣の部屋から、何か聞こえてきた。 おきまりのよーに聞こえてくる何かの軋む音。 ええっ、日中からアレですか!! ジローはこぶしを握り締め、男泣きした。 「畜生ぉおおお俺なんて、こないだ彼女と別れたばっかりだってのに!!なんで隣が新婚なんだ!なんでこげな部屋さ安いからってはいっちまっただ!」 ひとしきり愚痴った後、彼はふと呟いた。 「……エロビデオ借りてこよう」 ヌく気らしい。 彼がエロビデオを奮発して10本も借りようとしたら、そんなときに限って女性店員だった、しかも結構可愛い。 うわー、もうなんていうか今日、天中殺? 店員はなにくわぬ顔で清算していく。そして、渡す時にぼそりと一言。 「…赤玉出しちゃ、ダメですよ?」 なんか凄く疲れて帰ってくると、自分の棟の前に救急車が止まっていた。 (病人?怪我人?まあいいや…) しかし、ストレッチャーに乗せられたその人物は、 (お隣の奥さん?!) しかも、血まみれ。ちょっと吐き気がするくらい血のにおいが充満している。 旦那さんが駆けて来て、 「デュオ!」 デュオって普通男性名じゃないですか? そういえば血まみれだからよく見られなかったけど、胸、なかったような、あったような、 と思っているうちに救急車は病院へと走って行った。 『緊急車両が通りまーす ありがとうございまーす 緊急車両が通りまーす ありがとうございまーす』 選挙みたいなスピーチで。 部屋へ帰ったジローは、ベランダへ出て夕陽を眺めていた。 なんか、今日一日だけで十年くらい寿命を消費した気がする。 ふと、隣の洗濯物が風に揺れているのが目に入った。 …あれ? トランクスが二枚。タンクトップも二枚。 …あれ?? ジローは眼鏡を外し、トレーナーの裾で丹念に拭き、横と上と下から見て、レンズが綺麗になったことを確かめた。それから、もう一度洗濯物を見た。 トランクス二枚。タンクトップ二枚。 シーツが三枚に、ティーシャツが五枚。ジーパンが三本… えっと、お隣は新婚さんだよな? ええと、………ブラジャーは? ジローは無言でベランダを後ろ手に閉めた。 ――真下の部屋 茶髪のソバージュが似合う、拾人並みの美人、シャロン・アンガート。近くの会社に通うOLである。 昼夜問わず、真上の部屋からする物凄い物音にびっくりしたりもする。 その日、彼女が会社から帰ってくると、どこかから奇妙な音がしていた。 ざ―――――――――――――――――――… 「?何この音。」 少し考えて、上の階の住人がシャワーを浴びているのだろうと見当をつけた。 「あたしもシャワーあびよ。ったく、なんであの課長、尻触ってくんのよ、今度やったら茶に雑巾入れてやる。あ、このパンストもう伝染してる、んもうなによ、伝染しにくいって書いてあったのに!」 バスタオルを巻いて、バスルームのドアを開けた彼女は、あんぐりと口をあけたまま固まった。 ぴちゃん…ぴちゃん…ぴちゃん… バスルームが、真っ赤!! 上から真っ赤な水が垂れてくる!!ホラー映画さながら!シャロンはバスタオル一枚の姿で、隣の棟の一階にある管理人室へ駆け込んだ。 「お、おゆ、赤いっ」 既にその時彼女はポロリ状態だったのだが、そんなことは今の彼女にはどうでもいいことで、管理人のおじさんは役得、でもこのねーちゃん実はあんまなかったんだな、とか思いつつ上の階へと走った。 そして、ジローの遭遇する救急車へと話しがつながるのである。 ――右隣の部屋 老夫婦。 あれから二ヶ月が経って、奥さんが退院してきたらしい。 旦那さんが、何やらお菓子か何かを手渡していた、 「あの時は有難うございました」 「いえいえ、おとなりどうし、たすけあわないとねえ。ねえ、おじいさん」 「そうじゃあ。わかいんじゃからって、あんまりやりすぎちゃいかんぞお」 ここで旦那さん、赤くなる。 「いやねえおじいさん。はしたないですよ。わかいうちはわたしらもよく…ねえうふふ。」 「そうじゃなあ。なにしろ、10人も娘息子がいたもんじゃ。わっはっは。旦那さんも、がんばるんじゃぞう」 「あ、ともかく、ありがとうございました…」 年中こたつがある。おじいさんは壁側に座り、その向かいにおばあさんが座る。ベランダ側には年老いた三毛猫がでんと座っている。 「…またはじまりましたねえ」 「そうじゃなあ」 みかんをむきながら、おばあさん。 「今日はこれで五回目ですねえ」 猫をひざの上にのせておじいさん。 「若いっていうのは、いいもんじゃなあ」 みかんを食べながらおばあさん。 「わたしたちがさいごにしたのは、いつでしたかねえ」 ねこをなでながら、おじいさん。 「20年前くらいかのう…」 ――ジローの部屋 明日は絶対に落とせない試験。鉢巻、半纏、お馴染みの受験生スタイル。 血走った目で山のようなノートとプリントをにらみつけ、 「これで…ヤマはあってるはずだ…」 と。 隣から聞こえてくる… 『あっ…あん』 「俺は明日試験だってのに!今夜はねれねーっつうのに!ちいいくしょおおおおお」 ばきん!とシャーペンを折った。それから、ジローは何を思ったかラジカセを取り出してきて、壁側に向けて集音レベルを最大にした。 試験は結構イケたと思う。 部屋に帰ると、ふとラジカセが目に入った。 「あー…なんか馬鹿なことしたかなあ」 それでも、巻き戻してみた。 ヘッドフォンをして、聞いてみる。 「……」 これは、スゴい。 エロビデオなんかより、イケてる。 「やばい、キた」 と、情けなくもティッシュを箱ごとずりよせたのであった。 「あれえ。隣のおにーちゃん。元気ぃ?」 ひらひらと手を振って、包帯だらけの奥さんは… 今の声、男?ちょっと低めの女?! ジローに笑顔を振り撒いた。 か…可愛い! 「あ、元気…です。」 「ダイガクセー?親、いんのー?」 「え、ええ。」 「ふぅん…」 その時見せた、淋しそうな目に、一瞬クラッときたジロー。 人妻! … ……ヒトヅマ!なんて淫靡な響き!! よく考えればさっきまで、このひとのアノ声を俺は聞いてたわけで… 「?おにーちゃん、どしたの?なんか鼻血出てるけど。」 「あ、だ、大丈夫です。」 とは云うものの、止まらない。きょとんとして見ていた奥さんは、ジローの腕を引っ張った。 「手当てしたげる!うちおいで~」 ええっ!!!!!!!!! 「そ、そんなあの、」 鼻つっぺの上、椅子に括り付けられたんだが。 ジローは情けなくも幸せを感じていた。 「あの…えーと、」 「ん?オレはデュオ。デュオでいいよ」 「…デュオさんは、ご職業は…?」 「だからデュオでいいって。…色々。鼻血、止まった?」 ええと、どうして…果物ナイフを持っているのだろう? 「あの…その…ナイフ…」 「ん?たまにはね、ちがうものきってみよーかなって外でてみたら、おにーちゃんがいたから」 ひ――――――――――ッッ殺される!! ジロー・ヤマダ25歳(2浪)、彼女も出来ないまま、ここでこの美しいヒトヅマに切り刻まれてしまうのでしょうか!!? 「ねえねえおにーちゃん、どこきったらいたい?」 少し幼い口調が、なぜかアッチを刺激するぅう~ 「?なんでおにーちゃん硬くなってんの?もしかして、マゾ?」 「それはほっといてください!ともかく、何処切っても痛いですよ!その前に犯罪だからやめて~!」 つんつん。 デュオの興味はソレにいってしまったらしい。 「♪まーぞまーぞまーぞのおにーちゃ~ん♪どうせ解体しちゃうんだからいいよねえ、こっから切ろうか」 「やめて―――――ッッッ!!俺の宝物ー!」 「デュオ!!」 その時、部屋のドアが唐突に開いて、旦那さんが入ってきた。 「あ、ひーろぉ。このおにーちゃん、マゾだよー」 「いいから、ナイフを渡せ。それと、そのひとも。」 「デュオがすみませんでした…怪我はありませんか?」 「あ、いえ…」 無事、部屋に帰ってこられたのは旦那さん(ヒイロ・ユイと云うらしい)のおかげだ。 「とりあえず、何かの時のために銃くらいは持った方が…あ、デュオには向けないでくださいね」 「へ?」 危険の対象(それもごく、身近といえば)に向けるなとは如何云うことだろう? ヒイロは遠い目をした。 「逆に撃ち殺されます。確実に。」 その夜は特にアツかった。 RRRRRRRRRRRR なけなしの金でひいた電話が鳴った。 『ジロー・ヤマダさんですね?』 まだ若い声だった。 「…そうですが、あなたは?」 『カトル・R・ウィナーです。…あなたが録音しているブツについて、少しお話を、と思いまして☆』 天下のウィナー家御当主?!ていうか、なんで知ってんだ! 「ろ、録音なんて」 『してるでしょう?それ、裏ルートで流したいんですよ。…勿論、あなたにも相応の報酬がもたらされます。いい話しでしょう?』 既にテープはコレクション化している。これを…幾らで? 「幾ら…で?」 数日後。銀行口座に振りこまれた金額に、ジローは顎が外れるかと思った。 人生、豪遊して暮らせる。 「お、おらこんな金額、みたことねえだ!どうすっべ、どうすっべ、あああああああああああああ…」 とりあえず、 「仕送りするべ」 しかし、その夜。 RRRRRRRRRRRRRRRRR。 「ジロー!あんたぁ、なにしただぁ!こげな金、あんたが稼げるわきゃね!おっかあは、あんたをそげなこに育てた憶えはねえで!な、けーさつにはつきあってやるから、正直にいうだよ、」 泣き泣きの電話が郷里の母からかかってきた。 「あのね、何も悪いことしてないよ。お袋、ホントだって」 「何いってるだあ!じゃああ、この金はどうやって稼いだっていうだよ!」 「だぁから、手紙にもかいたろ、ウィナー家と取引したんだって!おっかあ、信じてくれよ」 「あんちゃん、わるいことしたんか!?っく、きみこは、あんちゃん、そんなことしてないって、っひっく、」 「きみこ、だからあんちゃんは何もしてないって。ホントだって。」 その後、3時間かけて家族を説得したジロー。 彼に安息の日が訪れる日はあるのか?! ていうか、お隣のデュオは女なのか、男なのか?! もういいや…。と諦めているジローであった。 毎日のお楽しみはラジカセであった。 ――502号室 ヒイロの部屋 デュオは壁を軽く叩いてみた。 こんこん。 「…2センチか」 周りを見ると、割り箸があった。ヒイロが一切刃のついたものをおいてくれないので、こんなものくらいしかない。 それで器用に壁に穴をあける。 開いた直径2センチくらいの穴から、隣を覗く。 「ダイガクセーかな?彼女…はいなそー。なあんだ、つまんない」 …2センチの厚さの壁? ベッドの位置。壁側に枕がある。 「…」 ソファもベッドから――壁から――そう遠くない。 デュオの頬に冷や汗が伝った。 「……ヤってる時、丸聞こえ?」 FIN! ―――――――――――――――――――――――――――――― 酔っ払ってる時に、一人芝居みたいにお隣はね、なんて話しをKとしてたわけですよ。いっそこれは自録ラジオ番組にしたいくらい(笑)で、かなり話しが固まって書くしかないね、てわけで書いてしまったわけで。 ☆ジロー・ヤマダ 東北から上京してきた大学生。彼女とは三ヶ月前に別れたばかり。心機一転で引越しをし、503号室に入居。しかしお隣は新婚さんだった!踏んだり蹴ったりである。 居酒屋でバイトをしていて、年下の同僚の女の子に片思いしていたが、既に彼氏持ちと判明、失恋するという話しも。 容姿は悪くない方である。気もいいし、経済観念もしっかりしているし、頭も結構いい。じゃ、何故フられるのか。 ……きっと、SEXが下手なんだね。という結論に達しました(爆笑) 今のところ、デュオに「きる対象」として狙われているので、危ない。しかし本人はその危機は既に去ったと思っており、更に危険が危ない。 ☆シャロン・アンガート OL。大会社に勤めるお茶汲み女子社員。バスルームはリフォームするには高すぎるということで、ピンクに塗られた。曰く、「…ラブホテルみたい」 彼氏いない歴21年。勿論ラブホテルには行った事はない。 ☆老夫婦アンドねこ 花子(シータ)と太郎(パズー)。夜叉孫までいる大家族だが、若い頃色々あったらしく、上記の通り偽名を使って501号室に住んでいる。 年中こたつがあり、みかんとねこがいる。 三毛猫は、太郎が拾ってきた。川にダンボールに入れられて捨てられて居た所を、太郎が助け、今に至る。愛の奇跡として、ニュースにもなった。名前は、ミケ。何のひねりもない。 ☆マンションの皆さん 元々この奥さんたちの井戸端会議の演技をしたのがこれを書く切っ掛け。 「あそこの奥さん、いつも包帯だらけよねぇ(手をふる)」 「そうねぇ(手をふる)旦那さんに不満はなさそうなのにねぇ(手を振る)」 「若い子の考えることってわからないわよねぇ(手をふる)」 月に5回ばかり救急車が呼ばれるので、「99マンション」と呼ばれているらしい。…「99ショップ」かい! |