17.何でもトライしてみるものだ!17.何でもトライしてみるものだ! 目が覚めて、カーテンを開けると、真っ青い透き通った空がビルの上に四角く広がっていた。日の光は眩しく、空気は爽やか。まだ覚めきっていなかった目も、パッチリと覚めた。昨日のあの蒸し暑さ、いかにも夏と言ったよどんだ空気と打って変わって、まるで秋を思わせる清々しさだった。 「ついてるなー。」 と思うと、うきうきした気分になり、鼻歌交じりに急いで身支度を整えた。旅行者然としないように、小さなショルダーバッグ一つにまとめ、その中に地図を忍ばせて颯爽と部屋を出た。 エレベータを降りると、 「さあ、どうぞお電話を!」 と言わんばかりに、目の前にズラリと公衆電話が並んでいた。それを見ると、何だかもう一回電話してみたくなった。別に期待もしていなかったが、 「急ぐ旅でもないし、こんなに沢山さん電話があるんだかたら・・・。」 と単純なな理由で、まず、Aさんという方の電話番号を回してみた。あの、夕べ聞き飽きた呼び出音がきこえる。 「どうせ、また、誰も出ないだろうな・・・。」 と思っていると、突然受話器が上がる音がした。 「ハロー。」 私はドキッとしたが、英語で話されたら困ると思いその人の次の言葉を待たず、 「もしもし、私は、日本のKさんという方からAさんのことをご紹介して頂きました、これこれこういうものですが・・・。」 と、とにかく自分の言いたいことを先に言ってしまった。 「ああ、Kさんの友達。どうですか、彼は元気ですか。」 と、日本語が返ってきて、私は、ほっとして答えた。 「はい、K先生もお元気で、Aさんと連絡が取れたらくれぐれも宜しくとおっしゃっていました。」 「そうですか、懐かしいなー。K君も、2~3年前に来ましてね・・・。ところで、あなたは、何時ニューヨークに来たんですか。」 「私は、昨日の夕方着いたばかりなんですけど・・・。」 「ああ、それじゃあ、こちらの様子も全然分からないんですね。ぼく、今夏で仕事も暇でゆっくりしてるんですよ。よろしかったらご案内しますよ。」 と言うことになり、私は、突然、このニューヨークで一人ぼっちではなくなったのだった。 「分からないものだなー。何でもトライしてみるものだなー。」 とすっかり感心して、言われたようにホテルのロビーで、行きかう人々を眺めながら待っていた。 20~30分もすると、一人の日本人男性がロビーに入って来て、私は、それがAさんだと言うことがすぐ分かった。向こうも、すぐに私に気が付いたようだった。 「Aさんですか。○○と申しますが、初めまして。」 私は、ぺこぺこお辞儀をしながら挨拶した。お互いに、自己紹介など終わって、それでは行きましょうかと言う段になって、Aさんが、私を見て、 「あんた、珍しい日本人ですね。」 と言うので、変なものでも付いているのかと、自分の服なんかを見回しながら聞き返した。 「えっ。どうしてですか?」 「日本人は、みんなカメラ持ってるんですが、持ってない人を見たのは初めてですよ。」 真面目な顔で言った。 「ああ、カメラねー。・・あのぉ、ニューヨークでカメラなんかぶら下げて、キョロキョロしていると危ないって、散々言われたものですから、置いて来たんですが・・・。」 「置いて来たって、フロントに預けて来たんでしょうね。」 「いいえ、ホテルの部屋のテーブルの上に置いて来たんです・・・。」 「冗談じゃないですよ。ニューヨークでは、ホテルの部屋なんて通りと同じですよ。せっかく来たんだから、写真ぐらい撮りなさい。大丈夫ですから、カメラ、持ってきなさい。」 と言って下さった。 どっちにしても、ニューヨークって怖いところなんだなーと思いながら、急いでカメラを取りに部屋に戻った。メイドさんは、もう綺麗に部屋のお掃除を済ませたようだった。カメラは元の所に置いてあった。 カメラを肩にかけて戻って来た私に、Aさんが言った。 「まず、上からニューヨークと言う街全体を見てみましょうか。普通は、皆、エンパイヤーに上りたがるんですが。でも、エンパイヤーに上ったら、NYのシンボルエンパイヤーが見えないでしょ。だから僕は、いつもロックフェラーセンターのRCAビルに案内してるんですよ。エンパイヤーほど高くは無いんですがね。」 そこまで、このホテルから余り遠くは無いというので、街をみながら歩いて行く事になった。 なんという周到な案内役に出会ったものか。あの電話の群れのおかげだ。すっかり安心しきって、きょろきょろしながら、Aさんの後について歩いている信じられない状況にいる自分・・・。 目指すビルについた。展望台行きのエレベーターに乗った。 |