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虹色のパレット

18.上からのニューヨーク

18.上からのニューヨーク

展望台に着いた。
風が強く、髪を押さえながら、私は思わず、
「ワーッ!!」
と感嘆の声を上げてしまった。そして、暫くただ呆然と眺めていた。抜けるような青空の下に広がる、ニューヨーク! 目の前に一際高く聳えるエンパイヤー・ステート・ビル。
 私は、展望台をぐるりと一回りし四方を舐める様に眺めた。
「これこそ、人間の作った最高の都会だ! 人工もここまで完璧なら、やはり自然なんだなー。」
とその美しい佇まいに我を忘れた。

 北を見ると、直線と、直角と、鋭角の作るビルの群れ。碁盤の目のように整然と東西南北に走る道路の作る無数の区画の真ん中に、これもまた、長方形にくっきりと区切られた大きな深い緑のセントラル・パーク。自然さえも完全に人工の中に組み込まれて、しかし、それでいて自然は自然の姿のまま生き生きとしている。実によく調和している。大自然のそれと同じ程のパワーとエネルギーを感じて、吸い込まれるように眺めていると、
「西洋の都市計画って凄いですね。
と、Aさん。

 私は、ここが私の第二の住処になるであろう事を予感した。
 このちっぽけな私が、この大都会にどんな風に根を下ろして行くのか、全く想像さえ出来なかったが、それは、なぜか確かなことだった。
「ここでも、人々が生活しているのだから。」
と。グレーの景色の中で、黄色いタクシーが一際鮮やかに、小さく、天道虫のように連なって、のろのろと動いている。これらのビルの一部屋一部屋で展開されている様々な生活、人生模様。その中の一点に私がなるのだと言う漠然とした思いは、夢のようであり、また、ひどく現実的だった。
 東を見てはまた南に回り、また、西に行き北に惹かれ、私は、何回も何回もこの美しい、私の心を完全に捉えてしまったニューヨークと言う街の佇まいを眺めて、飽きることを知らなかった。
「随分気に入ったようですね。」
と言うAさんの声に我に返った。
Aさんは、私の後を黙って付いて回って下さっていたようだった。
「エンパイヤーを入れて、一枚写真を撮って上げましょう。」
Aさんにカメラを渡した。黄色いノースリーブのサマーセーターに黄色いミニスカート、黄色いサンダル、茶色い皮の小さなショルダーバック。私のニューヨークでの感激の一こまは、エンパイヤーをバックに、パチリとカメラに納められた。それから、私は、Aさんに質問開始。Aさんは、一々詳しく説明して下さった。
「あれが、イースト・リバー。その向こうがクイーンズ。南に行くとブルックリン。マンハッタンのずっと下の方に建てかけの二本のビルがあるでしょう。あれは、ワールド・トレードセンター・ビルと言って、完成したら目の前のエンパイヤーを抜いて世界一の高さになると言うことです。-ああ、思えば、無残にも今は無きツインタワーのアンダー・コンストラクション・ビューを心に焼き付けた瞬間だった-その向こうに、ほら、小さく自由の女神も見えるでしょう。西の方は、ニュージャージー州、手前の広い河が、ハドソン・リバー・・・・・。」
 私は、説明を聞きながら手持ちの地図に書き入れ、沢山の写真を撮った。カメラをホテルに置いて来なくて良かったと思いながら。そして、一人だったら、こんなにいろいろなことが分からなかったと、急の電話に快く案内役をひきうけてくださったAさんに感謝しながら。



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