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虹色のパレット

19.ここはニューヨークの内臓だ

19.ここはニューヨークの内臓だ

 RCAビルをエレベーターで降りながら、Aさんは、
「それからニューヨークでは、地下鉄ですね。」
と言って、空から一気に地下鉄乗り場に案内して下さった。そこでも私は、
「ワーッ!」
と思わず叫ぶところだった。随分長いこと見たこともない裸電球なんかが侘しそうに光っていて、暗くてじめじめした感じで、とにかく汚かった。それに地下鉄通路と地下鉄構内の境にある鉄格子は、飾り気も無く何だか牢獄のような印象さえ受けた。
 落書きだらけの壁、新聞紙、タバコの吸殻、空き缶、空き瓶、染みだらけの剥き出しのコンクリートの床。あの、空からの眺めと余りに対照的だった。戸惑いを隠せないでいる私に、Aさんは一言。
「これがニューヨークですよ。」
と。

 あの、空からの人工と自然とが無機的に調和した、完璧ともいえる人工的風景の内臓なのだ、ここは!! 今、あのパワーとエネルギーを作り出している、汚さも美しさも、富も貧しさも、古いものも新しいものも、みんな一緒くたになって、取っ組み合い、絡まり合いしながら蠢いているニューヨークの内臓にいるのだ。私自身がなるのだ。なろうとしているのだ。

 空からの眺めにジャスパー・ジョーンズを感じ、今、この地下鉄でラウシェンバーグを感じ、そして、それらが一つの生きものであると言うこと、それこそ、ニューヨークの力なのだ。人間的ってこう言う事かも知れないなどと思っていると、これまた猛烈な音を立てて地下鉄がホームに入って来た。
「ワーッ!」
凄い落書き。これがあの有名なニューヨークの落書き。さすがニューヨーク、落書きまでも世界一。鮮やかな色彩と確実な構成。圧倒されそうなもの。めちゃくななものから美しいものまで一堂に会して自己主張している。
 この地球上にもこんな文化があったんだ!小っちゃい紙にこちょこちょと描いて、AですとかBです、Cじゃ駄目じゃないですか、何て言われて縮こまっている子供たちに、一度こんなでっかい落書きを自由自在にさせてあげたいものだ!!

 私がニューヨークに滞在した丸々三日間、青空と輝く太陽と清々しい空気の中で、私は、親切な人々のお陰で、心細い思いもせず、怖い目にも会うこともなく、一人では決して見られなかったような所も見物し、体験しこの街に負けないほど活動的に過ごすことが出来た。
 Aさんのソーホーのロフトも見せて頂いた。シーズン・オフで開いている画廊は少なかったが、幾つかのソーホーの画廊も回った。凄い絵が、まるで当たり前のように掛けてある美術館も、広々とした、自然の地形をそのまま巧く取り入れたセントラル・パークも、駆け足だったけれどニューヨーカー然と散歩した。
  
 そして、月曜日の夕方にはSさんともお会いでき、その日の夕食は、彼のガール・フレンドも交えてチャイナタウンでご馳走になった。その後地下鉄でブルックリンと言う所にも行き、Sさんの引っ越したばかりのロフトも見せて頂いた。帰りは、二人で車でマンハッタンまで送って下さり、次の日に乗るエアポート・バスターミナルにも行き、ラ・ガーディア行きのバス乗り場まで詳しく教えて下さった。そして、もう夜も遅いのにホテルの前まで送って頂いた。
 
 火曜日の朝、バファローに向かう飛行機の中から、ラウシェンバーグとジャスパー・ジョーンズから受けた印象と寸分違わぬ自由でエネルギッシュな、汚くて美しい、冷たくて温かいニューヨークの街に別れを告げた。

シー・ユー・アゲイン、ニューヨーク!!



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