RED STONE 増殖☆寄生日記

2009/08/21(金)21:37

ネタがないから小説第七弾~翼の行方編その九~

小説(47)

 朝早く旅館をチェックアウトしてテレポーターのあるアリアンへ走り、そこから港町ブリッジヘッドへ飛んだ。温暖な気候のこの町は人気狩場であるソルティケーブやトワイライト滝、海の神殿に近いため、アリアン、古都に続いて冒険者に人気の町だ。 「安いよ!安いよ!今朝あがったばっかりの新鮮な魚だよ!」  港町ブリッジヘッドは早朝から朝市に賑わっていた。薄茶色の石畳の上にゴザや木のテーブルを置き、色とりどりの魚を整然と並べて盛んに声を張り上げる物売りたちの声。停泊している船の周りでは、よく日に焼けたたくましい体躯の船乗りたちが荷運びに精を出している。  降り注ぐ陽光に目を細めて着ていたマントを脱いだ比翼は、とりあえず手近にいる町の人にコジという名の人間がいないか聞いてみる事にした。 「コジ?そんな名前の冒険者いたかなぁ。」 「元冒険者で今は別の仕事、古文書などの解読をしていると思うのですが・・・。」 「そういう名前の学者はこの町にはいないねぇ。見てのとおりほら、ここは漁業と商業で栄えている町だからね。近くに海の神殿があるけど研究の拠点はアウグスタの方だから、学者を探してるんならそっちに行って聞いてみたら?」  確かにここには冒険者を除くと漁師や船乗り、商人以外の人間はいなさそうだ。アウグスタへ移動したほうがいいのかもしれない。  テレポーターの近くまできたとき、ふと視界の端に見慣れた人影がよぎった。 『連理?』  慌てて周囲を見渡すと、町の南東の出入り口へ向かう人波の中に頭一つ分突き出た緑の髪を見つけた。 『なんだよ、あいつ。こんなところに来てたのか。』  追いかけようと足を踏み出したとき、背後から声をかけられた。 「あの・・・もし・・・ゴホッ・・・そこのエルフの旦那。」  振り返るとそこにはぼろぼろに綻びた鼠色のシャツに、膝頭に穴の開いたインディゴブルーのズボンの男がいた。のび放題の茶褐色の髪から痩せた顔がのぞいている。顔の下部分は無精髭で覆われているが、男の顔色の悪さは隠せない。 「あ・・・マスタークエストのときの・・・。」  マスタークエストに必要な称号を集めているときに出会った男だ。流れ者のようにみすぼらしい姿をしているが、古代ヴァンパイアの眼球とブラウンベアーの血から地図を読める特殊能力をつける不思議な薬を調合してくれた。 「ああ、やはりそうでしたか。近頃このあたりでエルフをお連れの方は珍しいので、ゴホッ・・・もしやと思い声をかけさせていただきました。あのお優しいご主人はお元気ですか?」  前に会ったときよりもさらに萎びた灰色の頬、ゼィゼィという咳鳴が彼の病状の悪化を物語っていた。プッチニアが渡した咳止めの薬は無くなってしまったのか、それとも効かなかったのか。 『しまった、連理!』  ふたたび先ほど見かけた場所に目を凝らしたが、もうそこに背の高い緑髪の男の姿はなかった。 『ち・・・、見失ったか。まあ仕方がない。だいたいあれが連理だったという確信はないしな。早く合流してあいつの頭脳を借りたいって俺の願望が見せた幻だったのかも。』  そう思い直してはみたものの、やはり落胆する気持ちは抑えられない。どれだけ自分が連理を頼りにしていたのか、否が応でも実感せざるを得なかった。 「ゴホッ、どうかしました?ひょっとして今、取り込み中でしたか?」 「いや・・・なんでもないよ。」 「お一人のようですが、ご主人はどちらです?前にいた・・・ゴホッ・・・前にいただいた塗り薬がたいへん良く効きましたので、もう一度ちゃんとお礼を言いたいのですが。」 「彼女はその、今、ちょっと病気で寝ているんだ。」 「ええっ!だ・・・だい・・ゴホッ・・・大丈夫なのですか?」 「ああ。ただちょっと面倒な事になってて、だから今こうやって俺が動いてるんだけど・・・。」 「そうですか・・・。もし・・・ゴホゴホッ・・・私に何か手伝える事があれば言ってください。」  どう見ても助けが必要なのはこいつの方なんだが・・・。そう思いながらも一応聞いてみることにした。 「コジって人を探してるんだ。知らないか?」  一瞬男は狐につままれたような表情で動きを止めた。 「・・・コジは私ですが、一体どういったご用件で?」 「へ?あの・・・俺が探しているコジは昔冒険者だった、古代文明の文字を読める奴なんだけど・・・。」 「確かに私は昔冒険者として・・・ゴホッ、各地の遺跡などを回っていました。アサス、コリンという仲間と一緒に。」  この男がコジ!最初会ったときに名前を聞いていたはずなのに、薬学の知識をもっているって知っていたのに、何故気付かなかったんだろう。連理が一緒だったらきっちり覚えていてすぐに見つけ出せたはず・・・。  自分の頭の悪さを不甲斐なく思いながらも、とりあえずこの偶然に感謝した。 「あのさ、この本の文字、読めるか?」  隠し部屋から持ち出した本のうちの一冊を鞄から取り出して渡すと、コジは頷いた。 「この言語は存じております。ここですぐ完璧に読む事は・・・ゴホッ、無理ですが、辞書さえあればなんとか。」 「コジ!俺の主人、プッチニアが今、大変なんだ。助けたい。力を貸してくれないか?」  比翼はこれまでのことを掻い摘んでコジに話した。コジは驚き、ところどころ信じられないという表情を浮かべながらも、なんとか事情を飲み込んだようだ。聞いているうちコジの丸めていた背中がすっと伸び、頬に赤みが差し始め、そして彼は再び力強く頷いた。  コジはブリッジヘッドの北東の端に立ち並ぶ倉庫街の一角、流木を組んで作ったねぐらに戻ると中から大事そうに一冊の本を抱えて出てきた。 「辞書です。これだけは売らずに持っていたんですよ。」  その文字は確かに隠し部屋の本と同じものだった。  辞書を片手の解読には時間がかかるはず。食料と水、ランプと燃料を購入してからビガプールの地下部屋に戻ることにした。  プッチニアの処分が決まるまで残り9日。 ⇒つづき  

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