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なせばなる、かも。

なせばなる、かも。

E.St.2

            -2-
          乗っ取られた心

 静かな病室にぽつんと取り残されたような気分で、佐々木は窓の外を眺めていた。

コンコンとドアをノックする音がして、佐々木は慌てて頬をタオルで隠した。

「先生、お怪我の具合はいかがですか。」

秘書がノートパソコンを持ってやってきた。

「ああ、君か。マスコミには漏れてないだろうね。」

秘書がドアを閉めるのを確かめてから、佐々木は頬のタオルを外した。真っ赤に腫れた頬が、あらわになった。

「マスコミは大丈夫だと思いますが、締め切りが4日後に迫っています。お身体も心配ですが、締切りに遅れると、出版社の人達に感づかれてしまいます。なんとか、がんばって頂けないでしょうか。」

佐々木は深い溜息をつき「わかった。」とだけ言うと、パソコンを受け取って、秘書を帰した。
病院を出ると、秘書は堪えきれなくなったのか、お腹を押さえて笑い出した。

「フフフ、アーハハハ。何てひどい顔だったの。もう最低。生の人間は、これだからイヤなのよね。」

秘書は吐き捨てるようにそう言うと、また、いつもの顔に戻って、事務所へ向かった。

「俺は、今まで何を遣ってたんだろう。流行の恋愛小説書いて、恋愛ゲームの達人なんて言われて。結局、あの時と同じ事言われて振られるなんて。全く成長がないじゃないか。」

佐々木はそう言うと、手鏡で自分の顔を映してみた。

「何てみにくいんだ。」

佐々木は自分の腫れていない頬に向かって言った。


 秘書が事務所に着くと、すぐ電話が鳴り出した。

「もしもし、山本ですが、佐々木君います?」
「先生は只今外出中です。」
「怪我の具合はどうなの?」
「え、ご存知なんですか?」

秘書は焦ったように言った。

「ああ、佐々木を殴ったのは僕だからね。親友同士の揉め事だ、気にしないでくれ。」
「そうでしたか。」

秘書は山本に気づかれないように口の端だけで笑った。

「分かりました。先生の病室の専用電話の番号をお知らせします。」

山本は急いで番号をメモすると秘書に礼を言って電話を切った。

「入院するなんて、そんなにひどい怪我になってたのかな。」

山本は、早速佐々木の病室に電話した。

「もしもし、」沈んだ声が出たので、山本は済まなそうに言った。

「僕だよ。山本だ。怪我、大丈夫?入院したって聞いて驚いたよ。」
「ああ、山本か。大丈夫さ、たいした事じゃないよ。だけど、結構派手に腫れちゃってさ。周りに見られるとまずいから。この病院、知り合いが遣ってるところだから、無理言って入院させてもらったんだ。今日子ちゃん、怒ってただろうな。」

山本は遊園地で今日子が話していたことを佐々木にも教えてやった。

「佐々木、お前このまえ飲みに行った時、言ってたよな。その顔やスタイルが邪魔になるときがあるって。お前が本心で向き合いたかったのは、今日子ちゃんだったのか?もし、そうなら、どうして記者が来てるって分かった時、堂々としていてあげなかったんだよ。彼女、それからお前に疑問を感じ始めたって言ってたぞ。」

佐々木は苦笑して言った。

「痛いとこつかれたな。そうさ、チャットで気に入った子を見つけたって言ってたのは、彼女の事だ。だけど、あまりにもチャットモデルとイメージが違ったから、戸惑ったんだ。記者の姿が見えたとき、とっさに作家 佐々木時郎が頭をもたげてきて、こんな子と居るところを撮られたらまずいって、そう言うんだよ。
彼女の事、本当に良い子だと思うし、ずっとそばで話して居たいって思うのに、記者の存在を意識したとたん、プレイボーイな俺がダメ出しするんだ。だから、どうして良いか分からなくなって、とりあえず記者から逃れようと彼女を連れて走り出したんだ。」


「じゃあ、なんであんなところでいきなりキスしたりしたんだ。」

山本は怒りをかみ殺しながら言った。

「彼女、自分は俺には不釣合いだって言って帰ろうとしたから、どうしても引き止めたかったんだ。ここで離したら、2度と会えない気がして。」
「だからって、キスされたからついて行きますなんて子、居ないだろ。」  

山本は頭にきて言った。

「そうかな。今まで付き合った女の子は皆これでOKだったんだ。」
「そうかい。そりゃあ、お手軽で楽しかっただろうよ。でもそんな女の子達に疲れたんじゃなかったのか。」

山本はやけくそになって言った。

「そうか、そうだよな。今日子ちゃんにもあの時きっぱり言われたよ。そんな事されてもちっとも嬉しくないって。」

佐々木は寂しげに言った。

「これで2度目だな。お前に負けるの。」
「人の気持ちを物みたいに言うなよ。勝ち負けじゃないだろ。せっかく入院してるんだから、ゆっくり頭冷やせよ。だけど、元気そうで安心したよ。力任せに殴ったから、気になってたんだ。」

「へん。めいっぱい友情感じたぜ。それと、お前の今日子ちゃんへの思いもな。俺に欠けてて、お前が持っているものが少しだけ分かったような気がしたよ。退院したら、電話するよ。」
「うん、じゃあ、お大事に。」

山本は電話を切ると、切ない気分になっていた。

『あいつ、本当に今日子ちゃんの事好きだったんだ。だけど、アイツのプライドが邪魔をして素直になれなかったのか。』

山本は、佐々木の中に居る2つの人格に気づき始めていた。


 佐々木はモニターに向かったまま、動けなくなっていた。

「おかしい、何も頭に浮かんでこない。おしゃれな女の子も、かっこいい男の子も…。どうなってしまったんだ。」

佐々木は明らかにスランプに陥っていた。原稿の締切まで後3日。昨日の山本との電話で、随分気持ちは楽になったと思っていたのに、昨日の夜からまったく創造の世界が浮かんでこないのだ。

『もう、止めようと思っていたけど、やっぱりこれを使うしかないか。』

佐々木はベッドのカーテンを閉め、携帯電話をそっと取り出すと、パソコンに接続した。

「ここは角部屋だし、電波障害で病院側にばれる事もないだろう。」

佐々木は自分のモデルを呼び出し、適当に顔を変えるとチャットルームに入っていった。

tokio―こんばんは、誰か居ませんか。
shiho-こんばんは、どちらからですか?
tokio-昨日NYからやって来たところです。と言っても僕は日本人。今はNYを本拠地に活動しています。
shiho-すごいですね。あこがれちゃうなあ。
tokio-日本は久しぶりなんで、戸惑う事ばかりです。何処か東京近郊でおいしいレストランなど、紹介して欲しいな。
shiho-それなら、何軒か紹介できますよ。

佐々木はモニターの前でニタニタ笑っていた。

「引っかかってきたな。軽いね、女なんて。」

佐々木はうまくshihoをおびき出し、デートの約束を取り付けた。

「次は何処のチャットで釣ろうかな。」

モニターに映る佐々木の顔は、さっきまでとはまるで別人のそれになっていた。そして、何人かの女の子を引っ掛けると、満足げにチャットルームから退室した。

 佐々木は、今までのスランプがウソのように忙しげに指先を動かし、いくつかの短編を書き上げると、パソコンをサイドテーブルに置いて眠った。


 佐々木は靄のかかる荒野にいた。

「おかしいな、どうなってるんだ。」

辺りを見渡しても、ただ、靄の白い世界が広がっているだけで、自分がどこにいるのかさえ分からなかった。

「おーい。誰かいませんかー。」

声は空しくこだましていた。途方に暮れた佐々木は、その場に座り込んで考えた。

「あんまりにもおかしいじゃないか。俺は病院に入院してたはずなのに。」

何も想い浮かばないで時間だけが過ぎて行った。

「そうだ、山本ならどうするだろう。」

佐々木は学生時代良く一緒に行動していた頃を思い出していた。何か困難にぶつかった時、佐々木と山本の対処の仕方は対照的だった。すぐに諦めて、他の事に逃げて行ってしまう佐々木に対して、山本は、ただもくもくと、動き回って答を見つけ出すタイプだった。

「そうだ、山本ならきっと黙々と一つの方向に向かって歩き出すだろう。」

佐々木は立ち上がり、歩き出した。佐々木の歩く先に、薄っすらと黒い人影が見えた。

「誰かいる。」

佐々木は嬉しくなって走り出した。
 近づくとその影は、嘲るように佐々木を見て笑っていた。

「何を必死に歩いているんだ、お前らしくもない。お前はそんなキャラクターじゃないだろ。」

佐々木は目を凝らしてその影を見つめた。

「誰だ。俺のことを知っているのか。」

急いで駆け寄って、佐々木は自分の目を疑った。そこにいるのは紛れもなく自分の姿だった。

「お前は誰だ。」

佐々木は相手をグッと睨みつけて言った。

「見ての通りさ、俺は佐々木時郎だ。」
「ふざけるな。俺はここにいる。俺に成りすまして何をするつもりなんだ。」

佐々木は叫ぶように言った。相手は溜息をついて言った。

「何寝ぼけた事言ってるんだ。俺はお前に作り上げられたんだぜ。お前の小説の中に出てくる男達のようにな。
それに、ついこの間まで俺達は分裂する事無く普通に暮らしてたんだ。毎晩のようにチャットで女を引っ掛けてはつまみ食いして、それを小説の中で反芻する。そうすると、その小説が面白いように売れて行く。ここ数年続けてきた事じゃないか。
それを今頃になって、何が本心になって向き合いたいだ。笑わせるぜ。」

佐々木は草花さえ生えない荒れた土地にうずくまり、両手で耳をしっかりとふさいで怯えていた。

「暫くそうしていな。俺はまだまだいい思いさせてもらうぜ。じゃあな。」

相手の姿が消えても、佐々木は顔を上げようとしなかった。

 季節が変わって街が春めいてきても、山本のところに佐々木からの電話は掛からなかった。

「こんにちは。」

山本の店に今日子と芙美がやって来た。

「やあ、いらっしゃい。」
「いつものスリミックね。」

今日子が言うと、山本はレジの下からビンを取り出した。
「わあ、さすが山本さん、今日子の動きをバッチリ把握してるわね。」

芙美がちゃかすと、今日子は「もう、芙美のいじわる。」と言って顔を赤らめた。

「今度の休み、何処に行きたいか考えといてよ。」

レジを打ちながら、山本も照れくさそうだった。

「あーあ、春だわねえ。私も彼氏がほしいなあ。」

芙美は大げさに嘆いて見せた。

「じゃあ、明後日ね。」

今日子がこっそり手を振ると、山本も他のお客に気づかれないように小さく手を振った。



「芙美だったらいくらでも彼氏候補がいるんじゃないの。」

今日子は喫茶店でパフェを注文してから、さっきの話に戻った。

「そんなことないのよね。見た目の雰囲気と、私自身の好みがあまりにも食い違ってるでしょ?だから、たいていの男の子は私のモデル見ると飛びあがって逃げてっちゃうの。」
「ねえ、モデルを芙美のそのままの姿に変えられないの?」

今日子はふと尋ねてみたくなった。

「だめ。ここでこうして普通に女の子らしく暮らしてるのも私だけど、あのモデルも私の中の一部分で在る事は間違いないの。自分の一部を否定しながら付き合うなんて、私はいやだもん。」

芙美は滑らかな白い頬を紅潮させて小さな口元を尖らせた。今日子はそれを見て吹き出しそうになった。

「芙美って本当に面白いよね。見た目はお人形のように愛らしいのに、中身は勝気だもんね。でも、そのギャップが芙美らしいなって思うよ。」
「そうでしょ?そんな風に言ってくれる人を探してるのよね。」

芙美はテーブルにひじをついて、合わせた手にちょこんとあごを乗せて溜息をついた。

 テーブルにパフェが運ばれてきた。二人は嬉しそうに食べ始めたが、ふと思い出したように芙美が言った。

「ねえ、そう言えばうちのクラスの志穂ちゃん、3日間も行方不明になってたんだって。」

志穂は2人と同じクラスのごく普通の女の子だった。取り分けて目立つところもなく、素行も決して悪くはなかった。

「何処行ってたんだろう。」

今日子は手を止めて芙美の顔を見た。

「よくわからないんだって。でも、誰にも会いたくないって言って、自分の部屋から出てこないんだって。何か恐い目にあったんじゃないかしら、親にも言えないような。」

今日子はさくらんぼを口に運びながらつぶやいた。

「親にも言えないような恐い目って言ったら....」

言葉には出来なかったが、芙美と今日子は頷きあった。

 それは、何も志穂だけに限った事ではなかった。今日子の通う学校の生徒の中にも、何人か同じような被害に遭った少女達がいたのだ。しかし、被害に会った少女達は,事件について固く口を閉ざし、その全容は明らかにならなかった。

「そう言えば、今日子も恐い目にあったんだったわよね。」

芙美は何か関連があるかも知れないと感じていた。

「佐々木さんの事?でも、佐々木さんは入院してるって聞いたけど。退院したら、山本さんに電話するって佐々木さん本人が言ってたらしいんだけど、まだ連絡が来ないらしいのよ。山本さんに言わせると、頬の腫れよりも、心の整理がしたいみたいだったんだって。」
「ふーん。入院してるんなら、そんな事できないか。」

芙美はちょっと残念そうに頷いた。

「さーて、そろそろ帰りましょう。私本屋さんに寄りたいの。いいかしら。」
「芙美、またバイオレンスでしょう。」
「へへ、ばれたか。」

2人は店を出ると本屋に向かった。

 今日子が雑誌コーナーで時間を潰していると、芙美が慌てて遣ってきて今日子の腕を引っ張った。

「何よ。どうしたの。」
「今日子、ちょっと見て。ここのコーナー。」

青ざめた顔の芙美の指先を目で追うと、そこには佐々木時郎の本が数冊並んでいた。本の帯びには【恋愛小説の星が、バイオレンスに挑んだ話題作】と書かれていた。芙美は意を決したようにその一冊に手を伸ばした。

「私、確かめてみるわ。何だか、いやな予感がするのよ。」

芙美の決意に、今日子も動かされた。

「私も読んでみる。」

2人は頷きあってレジに向かった。

「それぞれ読み終わったら、意見交換しましょう。場合に寄ったら山本さんにも読んでもらって、事の真相を究明しましょう。」

芙美のお人形のようなつるんとした頬に、決意の色が滲んでいた。


 家に帰って早速本を開いた今日子は、10ページも読まないうちに恥ずかしさの余り本を閉じてしまった。あまりにも猥褻で、狂気に満ちていたのだ。

「信じられない。あの佐々木さんがこんな物を書くなんて。」

今日子は、汚らわしい物でも触るように、指先で本をつまむと、えいとばかりにゴミ箱目掛けて投げ捨てた。それでも本の中で、女の子がいたずらされ胸に刺青をされるシーンが頭をよぎる。

「信じられない。信じられない。信じられない。」

その言葉だけが、頭の中をぐるぐると廻っていた。

「佐々木さん。この本の作家さんは本当にあなたなんですか。」

そうつぶやいてから、今日子は本屋で見た芙美の並々ならぬ決意の横顔を思い出した。

「そうだ、芙美もこんな本をがんばって読んでるんだ。志穂ちゃんや他の友達の為にも、私もがんばらなきゃ。」

今日子は決意も新たに立ち上がると、さっき捨てた本を拾い上げて、再び机に向かった。

 本を読み終える頃には、今日子の感覚は完全に麻痺していた。

「それにしても、これがあの、佐々木時郎さんの作品なの?確かに美形に在りがちなナルシストだと思うけど、こんな風に女の子を獲物か何かのように考えているような人じゃなかったわ。1度、山本さんと相談した方が良さそうね。」

今日子は本の裏表紙にあった作者の写真を見つめながらそれでも信じられないと言った風につぶやいた。

「そうだ、芙美にも連絡してみよう。」

今日子は急いで居間に行くと、芙美に電話をかけた。しかし、回線はつながらず、留守番電話のテープが流れていた。

「そうか。芙美、何か調べてるのかも知れないわ。」

今日子は芙美に電話をかけるのを諦めた。芙美がネットサーフィンしはじめると、暫く連絡は取れないのだ。


 その頃、芙美はチャットルームでtokioの姿を探していた。元々バイオレンスの好きな芙美にとって今の佐々木の作品など、恐れるに足りない物だった。さっさと読破してしまうと、姉の持っている今までの佐々木の恋愛小説も2、3冊読み上げ、芙美は一つの仮説を立てた。

「作風が違い過ぎるわ。どんなに雰囲気が違う作品でも、何処かにその作家のクセや考え方、好みなどが現れたりするものなのに。
ひょっとして、この本の作者は、佐々木の替え玉?そうでなければ、何物かが彼の精神を乗っ取ってるとか...。
たしか、今日子がよく使っていたのはこのへやだったわね。不本意だけど、今日はこのスタイルで行くわ。」

芙美が使っているのは、実際の芙美に程近い姿のモデルだった。

「出てらっしゃい。貴方は元の佐々木時郎じゃないわね。私が化けの皮を剥いで上げるわ。」


 山本は、何度目かの電話を掛けた。

「恐れ入ります。先生は只今執筆中です。お電話頂いた事は申し伝えます。失礼します。」

何度掛けても同じ言葉が返ってきた。

「おい、どうしたんだよ。頭、バグっちゃったの?」

受話器に叫んでも、返ってくる言葉は同じだった。

「おかしい。留守番電話でもないのに、あの秘書がこんなに大人しく同じ言葉ばかり言ってるはずがない。」

山本は、すぐにでも佐々木の事務所を訪ねようかと考えたが、明日は今日子とのデートを控えている事を思いだし、思いとどまった。

「今度にしようか。今更、そんなに焦る事も在るまい。それにしても、どうしたんだろう。佐々木といい、この秘書といい。」

山本はただ首を傾げるしかなかった。


 翌日、山本は今日子が待ち合わせ場所に現れるとすぐ、佐々木の秘書の話しを聞かせた。今日子も、佐々木の出版したバイオレンス小説を差し出し、何かが起こっていることを伝えた。
今日子と山本はとりあえず佐々木の住むマンションに行ってみる事にした。マンションの脇にある公園の横に車を止めると、その車中で、最近の佐々木の様子がおかしいことを話しあった。

「僕が、今日子ちゃんと知り合うもっと前から、佐々木は少しずつ変わって行ったんだ。丁度アイツの小説が売れ始めたころだったから、随分調子に乗ってるなあって、悔しい気持ちで見てたんだ。
だけど、あの1件が起こる前に、1度だけ久しぶりに一緒にお酒を飲んだんだ。ほら、僕のモデルを勝手にアイツが使ってたときさ。」

今日子は、思い出したようにふんふんと頷いていた。

「その時、アイツ言ってたんだ、女の子と恋愛ごっこするのに疲れたって。本心で向き合いたいのに、自分の見た目の良さや、ステイタスが邪魔して、なかなかそう出来ないって。
それ聞いたとき、なんだかアイツにしては意外だったんだけど、ホッとしたんだ。僕の親友の佐々木時郎はまだここにいるなって。」

そこまで言うと、山本は佐々木がチャットで今日子と出会った事を初めて話していたのもこの時だった事を思い出した。

『あんなに嬉しそうな顔して話してくれたのに。やっぱり僕も正々堂々と言うべきだったのかな。』

山本はそっと今日子の横顔を見ていた。素直な瞳が、心配そうに佐々木の本を見つめていた。

『ダメだ。彼女だけは絶対に譲れない。』

うつむいて歯を食いしばっても、突きあがってくるような強い想いを、山本は止められなかった。

「山本さん、どうしたの?大丈夫?」

顔を上げると、今日子の心配そうな顔がすぐ目の前にあった。山本は、自分でも信じられないぐらい、ごく自然に今日子を抱き寄せた。

「今日子ちゃん、僕は絶対に君を傷つけたりしないからね!」

今日子は驚きと戸惑いを隠せない様子だったが、やがて山本の胸に頬をうずめた。


 しばらくして、二人が佐々木の部屋の前に着くと、山本は呼び鈴を鳴らした。

「留守かなあ。事務所の方に行ってみようか。」

今日子も頷いて、再び車に乗り込んだ。

「さっきの話しじゃ、佐々木さんの人格には問題無いように思うけど...。」

今日子に促されて、山本ははっとした。今日子の事ばかり考えていて、会話が途切れていたのだ。山本はちょっと照れながら続けた。

「いや、あの時はホッとしたんだが。後になってふと気づいたんだ。ひょっとしたら、あいつの中に2つの人格があるんじゃないかと。」
「2つの人格?」

今日子は首をかしげた。

「うん、僕の知ってる今までの佐々木が、最近出てきたもう一人の佐々木の遣り方について行けなくなって、苦しんでる。そんな気がするんだ。」

 佐々木の事務所は、ビジネス街を離れた静かな郊外の一角にあった。車を降りて、2人が入り口のドアを押すと、すんなりドアは開いた。

「あれ、いつもなら秘書の女の人が出てくるのに、どうしたんだろう。」

ゆったりと広い空間に、簡素だがしゃれた椅子とテーブルが置かれていた。ガラス張りの壁面からは、溢れんばかりの春の日差しが差し込んでいた。かすかに聞える音楽は、有線のものだった。

「こんにちは。」

山本が声をかけても、返事はなかった。

「おかしいなあ。」

つぶやきながら奥に進んで行った山本が、足を止めた。後からついてきた今日子は思わず息を呑んだ。奥の部屋の机に、パソコンに突っ伏したまま動かなくなった秘書がいたのだ。山本が近づくと、モニターにはまだ画像が残されていた。

「これは、...」

山本は何がどうなったのかわからなくなった。画像に残っていたのは、秘書本人が透明なバリアか何かで囚われたように、見えない壁面に両手を突いて、必死で叫んでいる姿だった。その状態でバグってしまったようだ。秘書が息をしていないのは誰の目にも明らかだった。


 警察の事情聴取を終えると、2人はやっとお腹が空いているのに気がついた。

「もう2時だわ。せっかく公園でお弁当食べようと思って作ってきたのに。」

今日子は丸い頬をより一層膨らませて言った。

「まさか、こんな事になるなってね。そうだ、家においでよ。おいしいハーブティーをご馳走してあげるよ。」

山本が膨らんだ今日子の頬を指で突付いて言うと、今日子は思わず吹き出して元気にうなずいた。 

 車の中で楽しげにお弁当の話をしていた今日子は、「あっ。」と言ったきり、通り過ぎた車の方をじっと見ていた。

「どうしたの?」

山本が尋ねると、今日子は小さな声で言った。

「今、芙美と佐々木さんが車に乗ってた。」
「ええ?」

山本は急いで車を路肩に止めて振り向いた。見覚えのある佐々木の銀色の車が少し先の交差点を曲がって行った。

「あっちは確か事務所のある方だね。」
「事務所はまだ警察の人達が調べてるはずよ。でも、どうして芙美が....」

思い巡らした末に、今日子は芙美の、あの本屋での意気込みを思い出した。

「まさか、おとりになって真相を調べるつもりじゃ...。」
「行ってみよう。」

山本は急いで車をUターンさせて事務所に戻った。事務所にはパトカーが派手なライトを点滅させているだけで、佐々木の車は見当たらなかった。

「何処に行ったんだろう。」
「見間違いかもしれない。とりあえず、芙美ちゃんの携帯に電話してみればいい。僕の携帯、使って!」

落ちこむ今日子に山本は自分の携帯電話を差し出した。


 山本と今日子が事情聴取を終えた頃、お気に入りのカマロにもたれて、佐々木はのんびりとタバコをふかしていた。

「お待たせしました。tokioさん、ですよね。」

駆け寄ってきたのは、清楚なワンピースが良く似合う髪の長い少女だった。お人形が動き出したようなその愛らしい姿に、佐々木はしばし見入って、満足げに車のドアを開けた。

「驚いたよ。モデルと余り変わらないんだね。」
「まだパソコンに慣れてないの。だから、モデルを変えるのもよく分からなくて。」

少女は、恥ずかしそうに微笑んだ。

「どうぞ、お嬢さん。君の知らない事を、いっぱい教えてあげるよ。」

佐々木は穏やかに微笑んでドアを閉めると、にやっと口角を上げて笑った。

「tokioさんの経営されているパソコン教室は、どちらにあるんですか。」
「ここからすぐのところだよ。」

そう言いながら佐々木は車を走らせた。暫くして、佐々木の事務所が見える通りまで出ると、佐々木は当惑した。自分の事務所の前にパトカーが止まっているのだ。

『しまった。アイツの始末をしていなかったんだ。もう見つかったのか。場所を変えたほうが良さそうだな。』

「あ。しまった。教室のカギを家において来ちゃったよ。ちょっと取りに戻ってもいいかい?」

少女は楽しそうに笑った。

「tokioさんみたいな大人の人でも、そんなことあるんですね。私、なんだか安心しました。」
「安心?僕が恐かったの?」

佐々木は驚いたように言った。

「ええ、だってtokioさんって、思ってたよりずっと大人の人だったんだもの。」

佐々木は優しげに笑った。


 マンションの駐車場に車を入れると、思いついたように佐々木が言った。

「そうだ、家にもパソコンは2台あるから、いっそのこと家で教えてあげるよ。あ、そうか。こんな可愛い子が男一人の家に行くのは危ないか。」

佐々木は聞こえよがしにそうつぶやいて、少女の方を盗み見た。

『おーおー、聞こえよがしなこといってくれるじゃない』。

「ううん。ご迷惑でなかったら、お邪魔します。」

少女は幼さの残る笑顔でそう言った。そして、持ってきた小さなピンク色のバッグをしっかりと握り締めた。

 部屋に通されると、少女は勧められた椅子にちょこんと座って、佐々木のしぐさを首を傾げてみていた。

「ちょっと待ってて、今ノートパソコンを持ってくるから。あっそれから、奥の部屋は覗いちゃダメだよ。」
「何があるの?」

少女は好奇心でいっぱいの瞳で尋ねた。

「それは秘密だよ。それより紅茶にはミルクを入れる?」
「ええ、ミルクとお砂糖を。」
「わかった。今入れてくるから、待ってて。」

部屋を出ると、佐々木はしばらく少女の様子を覗っていた。しかし、大人しく座っているだけで、動こうとしないのに痺れを切らせると、少女の横を通りぬけ、わざと、部屋の中が見えるぐらいにドアを開け、何かを取りに来たように見せかけて、そのままドアも閉めずに台所に入っていった。

『要するに、この部屋を覗いてくれって事ね。そしたら、それをネタに何かするわけね。』

お人形のような頬が緊張で赤らんでいた。バッグの中のレコーダーのスイッチを入れ、スタンガンと小型のカメラをスカートのポケットに入れなおすと、そおっと立ち上がり、奥の部屋の様子を覗った。

得体の知れない器具が色々置かれていたが、どれも、パソコン用品やスポーツ用品には程遠かった。

『志穂達もここに連れてこられたのかしら。』

少女はカメラを取り出すと、手当たり次第にシャッターを切った。少女が元の椅子に腰掛けた瞬間、佐々木が紅茶を持って遣ってきた。

「どうぞ。僕はちょっと紅茶にはうるさいんだよ。飲んでみて。」

佐々木はそう言って、自分もおいしそうに紅茶をすすった。少女は紅茶を手にすると、かすかな薬品の匂いを嗅ぎ取った。

『どうしよう。この紅茶には何かはいってるわ。』

焦りながらも息を吹きかけることで時間を稼いだ。

「あれ、熱過ぎたかい?」
「ごめんなさい。私、猫舌なの。」

少女は照れくさそうに笑った。すると、不意に少女のバッグから音楽が流れてきた。

『ラッキー!携帯だわ。』

少女は慌ててバッグの携帯電話を取り出した。

「もしもし、はい。ママ?ええ、分かったわ。すぐ帰ります。」

電話を切ると少女は申し訳なさそうに言った。

「ごめんなさい。もう帰らないといけないの。ピアノの先生が早くに見えたんですって。また、メールを送ってくださいね。」

少女はにこやかにそう言うと、滑らかな動きで玄関まで進んだ。

「送って行ってあげるよ。」

佐々木の声に、振り向きもしないで「大丈夫。タクシーを拾います。じゃあ。さよなら。」少女はドアを閉めるとすぐエレベータに向かい、やって来たエレベータのボタンを1階に押してすぐ降りると、隣の非常階段を上の階まで上がった。
そこで暫く耳を澄ませていると、たったっと走ってくる音がした。足音は、エレベータの動きを確認した後、脱兎のごとく非常階段を駆け下りて行った。少女はその足音を確認してからマンションの反対側の階段をゆっくりとおりて、表通りと反対の道を歩き出した。 
        
 暫く行くと、バッグの携帯を取り出して、さっき掛かってきた先にリダイヤルした。
「もしもし、今日子?助かったよ。いま佐々木さんのマンションの裏側を歩いてるの。うん、わかった。角の花屋さんの2階の喫茶店ね。そこで待ってるわ。」
電話を切ると、少女は急いで次の角の階段を駆け上がった。


 山本の車は、佐々木のマンションのすぐ近くまでやって来た。

「そこの信号を廻るとさっき言った喫茶店があるはずなんだ。」
「うん。」

今日子の手には握り締めて汗でじっとり濡れたハンカチがあった。

『芙美のばか。一人で飛びこんだりして、もしものことがあったらどうするつもりだったの。』

さっき電話では元気な声がきこえたけれど、ちゃんとこの目で確かめないと不安な気持ちは消えなかった。今日子の気持ちが分かったのか、山本は花屋の前で車を止め,先に店の中に入るように勧めた。

「僕は車を駐車場にいれてくる。」
「分かった。」

今日子は車を降りると、急いで花屋の脇の細い階段を駆け上がった。

 今日子が店に飛びこむと、清楚なワンピースの少女はさっきまでの不安げな表情をパッと吹き飛ばして明るく笑った。

「今日子、ありがとう。恐かったよ。」
「もう、芙美ったら。ダメだよ。一人で行ったりしたら。」
「ごめんね。危ないところだったの。」

2人がホッとしていると山本がやって来た。

「どうやら無事だったようだね。」

山本もほっとした表情で言った。

「それで、手がかりになりそうなものでもあった?」  

山本は身を乗り出して聞いた。芙美はちょっと首をかしげて、思い巡らせた。

「手がかりになるかどうか分からないんですけど、佐々木さん、奥の部屋だけは見ないでねって、無性にその部屋を誇張してたから、佐々木さんの目を盗んで、こっそりその部屋の写真を取ってきました。
残念だけど、佐々木さんはやっぱりチャットを使って女の子を誘っているのは確かです。それに、私にはパソコン教室を経営しているって言ってました。」

山本は芙美の言葉に少し考え込んでいた。すると、芙美が遠慮がちに言った。

「私、前に聞いた事があるの。日本よりずっと早くからインターネットが普及していたアメリカであった事件で、チャット用のモデルが本人が気づかないうちに本人とは別の意志を持つようになって、いつのまにか入れ替わって本人をモニターに閉じ込めて、自分は我が物顔で街を自由に行き来していたんですって。でも、モデルは元々パソコン上の存在だから、バグったり電源が切られたりすると本人もろとも死んでしまうんだって。」

今日子は、佐々木の事務所で死んでいた秘書を思い出していた。

「芙美ちゃん。それは何もアメリカだけの話しじゃないよ。日本でも似たような話は聞いた事がある。ただ、医学的に何も証明できないので、オカルティックな話しとして噂されているだけに過ぎないけどね。それに...」

山本はチラッと今日子の方を見た。

「実は、今日佐々木の事務所で、パソコンに突っ伏して死んでいるアイツの秘書を発見したんだ。そのパソコンのモニターにその秘書の姿が映っていたんだ。」

芙美はギョッとして今日子を見た。今日子も芙美の方を向いて頷いていた。

「何かに囚われているような感じで中から叫んでる姿のまま画像が止まっていたんだ。多分そこでバグってしまったんだろう。」
「じゃあ、もし佐々木さんのパソコンが何かの弾みで電源を切ったりバグったりしたら、佐々木さんもあの人のように亡くなってしまうって事なの?」

今日子は心配そうに山本を見た。

「たぶん。何か、いい解決方法でもあればいいが。」

山本は想いを巡らせていた。

 山本が背後に気配を感じたのはその時だった。

「やあ、こんな所にいたのかい。心配したよ。ピアノのレッスンに遅れちゃうよ。」

芙美も今日子も凍りついたように怯え、返事も出来なかった。


「佐々木。」

山本は一瞬言葉を忘れて、見入ってしまった。それほどに佐々木の表情はおかしかったのだ。そんな周囲には目もくれないで、佐々木はまっすぐ芙美の方を見つめて笑っていた。

「ママが心配するよ。お家まで送ってあげよう。」

佐々木が1歩踏み出すと、芙美が小さな声を振り絞った

「イヤ。」

今日子が間に入った。

「佐々木さん。私が分かりますか?今日子です。」

佐々木は無表情な一瞥を今日子にくれただけで、芙美に向き直ると、また1歩踏み出した。

「佐々木、佐々木しっかりしてくれよ。どうなっちまったんだ。」

山本が佐々木の肩をしっかり掴んで叫んでも、もう耳に入っていないようだった。芙美はポケットの中をまさぐって、警察に電話をしていた。

『時間を稼がなきゃ。』

芙美の目配せで今日子も山本も、気がついたようだった。

「とにかく、座れよ。何がどうなったかわからないだろ。」

山本が佐々木を自分の隣に座らせた。

「お前、何処かで見た...そうか。ネットのモデルで使ってたな。」

佐々木は小さな声でそう言うと、「芙美ちゃん、僕がお家まで送ってあげるから帰ろう。」そう言って、芙美の腕をつかんだ。

「離して!」

芙美が叫んだ時、店に数人の男達が入ってきた。警察だった。芙美はすぐさまあいている手を上げると「おまわりさん。ここです。私が電話しました。」と声を上げた。

「どうしました。」

警官が走りよると、佐々木は芙美の腕を離し、「僕は関係ないですよ。」と言って立ちあがった。

「おまわりさん。その男を逮捕してください。佐々木時郎の秘書を殺したのはこいつです。」

山本は心を鬼にして叫んだ。警官は一気に佐々木を捕らえ、連行していった。残った警官が山本達を促した。

「君達も来て下さい。捜査に協力してもらえますか。」

3人は促されるまま店を出た。

 パトカーに続いて、山本の車に乗り込んだ3人は警察署に向かった。

「山本さん。幼馴染の佐々木さんを逮捕してしまって、良かったの?」

今日子は心配そうに聞いた。

「しょうがないさ。このまま手をこまねいて見ていても、アイツの犯罪は止められないだろ。それなら、いっそのこと警察で保護してもらった方が、あいつのために成ると思ったんだ。」


重い沈黙が続く中、警察署に到着した。一人ずつ部屋に呼ばれて、事細かに話しを聞かれた。

 人形のような色白なその少女をチラッと見ると、その刑事はごつごつした指でペンを走らせていた。

「お名前と住所と年齢をこの用紙に書いてください。」

そう言って用紙とボールペンを芙美に渡した。

「それじゃあ、何があったのか詳しく聞かせてくれるか。」

芙美は用紙に名前を書きながら考えをまとめると、ぽつぽつ話し出した。


「実は、先日3日間行方不明になっていた前田志穂さんは、私のいとこなんです。小さい頃から仲良しで、今もクラスが同じだからよく連絡を取り合ってたんです。
それが、インターネットのチャットで感じのいい人と友達になれたって連絡をもらったきり、いなくなっちゃって。家に帰って来たって連絡貰った時は本当にうれしかったんです。でも、彼女からの連絡が来ないからおかしいなと思って、叔母さんに聞いてみたんです。そしたら、帰っては来たけれど、彼女、部屋から1歩も出ようとしないそうです。何があったのかわからないまま、叔母さんも警察に言うほどではないからと、そのままにしているそうです。
でも、同じような事が志穂だけじゃなくて、他のクラスの子にも起こっているって聞いたから。どうしても、真相を確かめたくなったんです。」

芙美は、今日子が佐々木に襲われそうに成った事を話した。そして、チャットルームでtokioを見つけ出し、自分が囮になって佐々木の家まで行った事などを話した。

「ばっかもーん!」

刑事が突然大きな声を張り上げたので、芙美は飛びあがって驚いた。

「どうして警察に言わんのだ。君一人で行っても、奴に何されるかわからんのだぞ。」

その言葉に今度は芙美が怒り出した。

「だからって警察が何してくれるって言うのよ!チャットのモデルが、突然個別の人格を持って本人に取りこみ、挙句の果てに本人の人格をモニターに閉じ込めて、モデル自身が元の人間のように思うように行動していたなんて言っても、貴方達警察は決して動こうとはしないわ!」

気がつくと芙美は興奮して立ち上がり、机によじ登って向かい側にいるその刑事の胸倉を掴んでいた。

「あ、ごめんなさい。」

芙美は真っ赤になって大人しく椅子に座りなおした。刑事は、薄くなりかけた額の汗をハンカチでぬぐうと、くすっと笑った。

「見かけに寄らず、結構気合の入ったお嬢さんだな。わしゃ、最近のパソコンばっかりしている青っ白い若造はどうも気に食わんが、あんたは別もんだ。そこまで言うなら、わしの知り合いが、最新機器を使った犯罪を調べる組織にいるから、そいつに調べさせてやろう。」

芙美は目いっぱい頭を下げて礼を言った。芙美が出てくると、刑事が3人に言った。

「申し訳ないが、特捜の者が来るまでちょっと待ってもらえるかな。詳しい事はそいつに話してやってくれ。
         


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