大森町という駅があるなんてよっぽどマメに都内を散策している方か鉄道好きの方でもない限りご存知ないかもしれません。いや、もしかしてそう思ってるのはぼくくらいのもので、当然皆さん存じ上げているのかもしれませんが。ともかくぼくは何度も京急に乗っていますが、この駅のことは全く関心の外にあってあえて認知することがなかったのでした。京急を生活の足にしている方以外は、大抵はJRの大森駅を利用するのだと思います。大森町駅の東側に住んでいない限りわざわざ下津る必要もなさそうです。これまたぼくの知識が貧弱なだけで実は有名な神社仏閣でもあるのかもしれませんが。埒もなく長くなってしまったので急いで今晩の店に向かうことにします。
ぽつりぽつりと商店があるものの基本ひたすら暗いばかりの住宅街を歩き続けて、ようやくJRの線路が見えてきた頃に目指す酒場「鳥まさ」がありました。この立地の悪さは、酒場巡りを趣味とする者にとって鬼門とまでは言わぬものの、ざっと歩いてきた限りにおいては他にこれといった呑み屋も見当たらず、まさにここだけのために訪れたという満足感と達成感が得られることはまあ良しとすることにします。これが仮に休みだったりした時の徒労感たるや想像するだけでもゾッとします。戸を開けるともともとが狭いとはいえこの殆どの席が塞がっています。それでもカウンターに席を見つけて腰を下ろすと直ぐさま目に入るのは品書きの数々です。これがなかなか変わり種というか、オリジナリティあふれる肴が盛り沢山です。迷いに迷って注文したのは、これは特に変わったところのない焼豚とこれは珍しい、百合根のバター炒めです。しかしこれがどちらも素晴らしい。大の男がーってほど立派なもんではないですけどー肴ごときでうだうだ語るのは見苦しいと常々思っているぼくにとってさえここの肴は未知の味わいで驚かされます。焼豚は絶品だけれど、それにしても百合根をバターソテーとは思ってもみなかった。考えてみればお芋のような食感で、ホロリと苦味のあるところにバター醤油が合わない訳がない。百合根は何度も買って食べていますが、見てくれを重視して、処理が面倒なのですが、この食べ方ならおが屑を落として花弁?を剥がせば、多少傷んだところがあってもエイヤッと炒めてしまえばいいんだから手っ取り早いことこの上ない。しかもご主人がかほどにありとあらゆる品を調理するのにその合間合間ユーモラスな言葉をかけてくれるのだから、あゝ近くにあって欲しかった、と毎度のことながら嘆息するのでした。