夜が待ち遠しい

2018/03/05(月)08:30

年末恒例仙台への旅 酒場篇 その2

東北地方(127)

次に石巻駅を訪れるのはいつのことになるだろう。椎名町の中華食堂―この言い方やはりどうもピンと来ないなあ、そのうち再検討します―の「松葉」やまだ書いていないけれどトキワ荘を離れた後に手塚治虫が移り住んだという鬼子母神そばのお店などどうもこの所のぼくの行動はトキワ荘に引き摺られているようです。石巻は言わずとしれた石森章太郎の出身地です。そういや昨年の夏、高岡―藤子不二雄誕生の町ですね―なんかを旅したのだから、ばくの『まんが道』は昨年から継続しているようです。特段に回顧的な気分に陥っているつもりはないのだけれどなあ。さて、石巻を出た列車に30分ばかり揺られると、そこは多賀城駅です。多賀城にも子供の頃に2年程住んだことがあって、ここの記憶はぼくをとても暖かい気持ちにしてくれるのです。しかし、こうして立派なオッサンになって訪れた多賀城は、ぼくには余りにもよそよそしい表情を晒したのでした。  変わりゆく町並みのことは知らなかった訳ではありません。震災後の大変な時期にもやって来て惨状を目の当たりにしました。その後、幾多の試練を乗り越えて復興を成し遂げたこの町のことを否定することなど出来るはずもありません。しかし、そこがぼくの記憶がそれなりの鮮明さで留めている多賀城とは少しも違う町だと断じる事にはさほどの躊躇もありません。「居酒屋 えん」は、多賀城では古参の酒場との事ですが、ぼくのとうに町を去ったあとの知らぬ時代に開店したようです。しかしこの寂しい長屋には薄っすらと覚えがあるような気もします。店内は、明らかに居酒屋という風ではないし、カウンターのスツールを見てもスナックっぽくは見えぬし、かと言って食堂のそれとも違っている、とにかくどうにも曖昧な雰囲気のお店なのです。通された座敷席に収まってみればそれはそれで地方の町の居酒屋であるなあという気にもなるのですが、今ひとつ気勢が上がらぬのは師走の物悲しさがもたらすものばかりではなさそうです。普通の酒に普通の肴、そして酒場放浪記のチラシと記念写真のしらじらしさがどうにもやり切れぬ気持ちに拍車を掛けるのです。とっくの昔に感性など磨耗しきったものと思っていましたが、それでも未だに思い出に流されるとは気恥ずかしいものです。酒を呑んで気勢が下がるというのもひとつの呑みのスタイルなんだよなあと、これ以上は町を眺める気分にもなれず仙台に向かうのでした。  仙台も来るたびに多少の変化を受け止めざるを得ないのですが、それでも概ねのところあまり変わらぬ気がします。その変化というのがぼくにとっては余り有り難くないことが多いのですが、幸いにも東一市場はその変化に晒されずに済んでいるようです。ここでも酒場放浪記の登場店を訪れるつもりでしたが満席で入れてはもらえませんでした。ならばと同じ通りで最も古参らしく見える「居酒屋 さくま」にお邪魔することにします。カウンター席のみの店内はびっしりすし詰め状態になっていますが、入口そばの席がまるでわれわれの到来を待っていたがごとくにポッカリと空きがあります。それにしても間もなく新年を迎えようとするとは思えぬ活気です。ぼくの考えが古臭いのかもしれませんが、できることなら年末というのは大掃除を終え、お節料理の準備も済ませてごろごろして迎えたいと思うのですが、そう思っていない人たちも少なからずいるようです。近所の方もおられるのでしょうが、大方のお客さんは電車やバスなどで案外遠くから訪れているに違いありません。そうまでして、なんてことを言ってる自分がそもそもわざわざ年末の忙しくてそして最もくつろげるはずの数日を旅先で過ごしているのだから、言ってることが無茶苦茶なのです。さて、女将とその娘さんらしきおきれいな方のお二人が注文が飛び交う中でも飄々とマイペースで切り回しておられます。このお二方に会いに来られる常連も少なくないのでは。松島の牡蠣を勧められたので出してもらうことにします。やはり旨いなあ。広島のものとか岩ガキなんかと違って小振りでプリッとしていて、ぼくにはこの程度の磯臭さがちょうどよいのです。さして長く住んだわけでもなし、そうしょっちゅう口にした記憶もないけれど、何番目かの故郷の味というものは否応なく忘れがたいものらしい。どちらが好きとか嫌いとか客観的に語るには東京とかまったく別の土地に生まれ育つか、広島と仙台など両方で幼少期を過ごすしかないのかもしれません。すっかり気分も良くなり、うっかり呑み過ぎてしまいました。  S氏は国分町のカプセルホテル、ぼくは知人宅にお世話になります。明日からは、別行動。大人の旅はこういう要所要所でのみ行動を共にするのが互いに満足するための秘訣かもしれません。

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