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カテゴリ:東京都その他
大月に未練はあるけれど、このまま呑み続けては際限がなくなってしまうと、数多の誘惑を振り切って、中央本線に乗り込んだのでした。呑み歩きの旅は高尾まで来ると安心するのだから愚かしい話であります。まだ自宅までは1時間以上は掛かるのだけどねえ。仕事に追われる日常だと、つい翌日のことに思いが及んでしまいますが、明日もお休みだと気も大きくなるというものです。ならばと下車したのは豊田駅でした。豊田駅ではちょっと前に「ベアトリーチェ」なるちょっと素敵なゴージャス系喫茶にお邪魔していて、これから伺うお店はそこからさらに駅から離れなければならぬというそれなりの遠方にあるのでありますが、ずっと座りっぱなしであったから、案外足取りは軽いのでありました。しかし、夜になっても町を取り巻く熱気が晴れることはなく、暗い住宅街に踏み入った現地に到着した時には汗が噴き出していたのでした。
この「鳥はる」という酒場の存在を知ったのがどうした経緯からだったかは既に忘却の内に埋もれてしまっているけれど、それでもここの存在は豊田という名を目にし、耳にする度に想起されたのであります。豊田なる地名にも名字でもしばしば遭遇する凡庸な字面や音を聞く度に思い出していては、それそれで邪魔くさいものです。だから早目にその反芻される記憶のぶり返しから逃れるには早いところ片付けるに限るのであるけれど、ここでもまた遠くて近い町のセオリーが課題として浮上するのであります。それもこれも乗り越えてとうとう訪れる機会を得てようやく辿り着き、しかも店灯が付いているのを見た瞬間、安堵とか感慨とか愉悦といった様々な感情が吹き出したのは気のせいではないと思う。しかしその感情の発露は同時に大量の汗を伴うことになるのだった。なんとしても空調というものがこの店には存在せぬのであります。空調のない酒場は知らぬでもないけれど、扇風機すらないのはこの夏を乗り切るにやはり少なからずヤバくはなかろうか。この酒場がいつまで営業を続けられるかは知る由もないけれど、でき得ることなら涼しくなる頃に訪れるが宜しかろうと思うのです。何にしろ暑いが何物にも先行するのであります。汗が吹き出すから滲み出るに変わった頃にようやくひと息付き冷静に店内を見渡すのです。店自体の造りは極めてオーソドックスで、何の変哲もないけれど、その年季の入りようはただ事ではないのです。オヤジさんは、こんな中でも平気で焼き場に立つのだから驚くべきタフネス振りであります。勝手を知ってさも弁えたかのように酒を呑んでみせる常連たちも平気な顔をしてみせても時に太い息を吐くのをぼくは聞き逃さぬのでありました。でもそれてもこの酒場には、それすら許容させるだけの吸引力があるのでした。試しにもつ焼を食べてみて頂きたい。絶賛するような品ではないかもしれぬけれど、しっかり旨いことはお認めいただけるであろうと思うのです。品書にはカレーのルーなんてのもあったと思うし、それは無防備に厨房のコンロの上に鎮座していて、いろんな意味で危険な気もするけれど食ってみたかったなあ。その後、結婚間近らしきアベックとその女性の母親が連れ立ってお越しになったが、彼氏の絶句した様が余りにも愉快でそれはそれで肴になるのであったのです。ちなみに基本的には5本縛りがあるらしいのでご注意を。 お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう
Last updated
2018/09/12 08:30:08 AM
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