夜が待ち遠しい

2020/02/03(月)08:30

年末恒例の仙台鈍行列車の旅 酒場篇 その3

東北地方(127)

仙台には、忘れられない酒場があります。今でもその思い出は記憶の中で褪せることなくありありと思い浮かべることができるのであります。その一方で年末というタイミングにばかり訪れているからなのでしょうが、もしかするとやってるんじゃないかと店の前にやってくるもののいつだって固くシャッターを下ろしていて、もう二度と入店を許されることなどないのではないかとその度に物悲しい気分に陥ることとなる酒場なのです。  知る人ぞ知る「明眸」であります。1930年に創業の仙台随一の老舗酒場であるにも関わらず、最近までごく一部の贔屓客以外には知られることもなくひっそりと営業を続けてこられたと思うのです。というのもぼくが初めて訪れた際には情報も余りなく呑み屋街から孤立した孤高とも思えて非常に恐る恐る扉を開いたことを覚えています。今回もまたお預けをくらってしまいましたが、懲りずに訪れたいと決意を新たにするのでした。  孤立したと書いたばかりではありますが、そのすぐそばに「中国飯店 泰陽桜 東一支店」があります。サンモール一番町というアーケード商店街の端にあって、昔から、小学生の頃からずっと気になっていたのです。調べるとこちらは昭和24年に創業しているとのことで、東三店は綺麗に建て替えられてしまったようですが、後日立ち寄ろうと向かうことになる駅前店とはまた全然趣の異なる郷愁を誘う店構えなのです。まず商店街の外れの地下に店舗があるというのが溜まらない。商品ケースを眺めるのもほどほどに豪奢ではあるけれどいかにも古びて薄暗い階段を下っていくと、もう日本中を探してもそうは見つからぬであろうと思われる広く、そしてなんだかとても胸ぐるしくなるような懐かしさを感じるのであります。広い座敷の円卓は使われることがあるのだろうかと訝しんでしまうようなうらびれたムードが漂います。それでも店の方もお客もそんな余所者の感傷などどこ吹く風といった様子で呑み食いしているのですが、店の雰囲気がそうさせるのか騒がしくなる風もなく静寂が圧しているのでした。われわれはシューマイと五目焼きそばで呑むことにしました。味のことはよく覚えていないけれど普通以上には美味しかったような。でもそんな味などはもはや二の次となるほどにこの郷愁空間に囚われてしまいました。特異で緊張を孕んだ空間には先述したもつ焼酒場と似たものを感じました。暗くとも明朗さを失わぬ「源氏」はやはり大好きだけれど、今のぼくには、この2軒こそがしっくりと感じられるのです。

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