夜が待ち遠しい

2020/02/04(火)08:30

年末恒例の仙台鈍行列車の旅 酒場篇 その4

東北地方(127)

 仙台という町は、パッと見には整然と区画整理された人工的な味気ない町並みに映るだろうと思うのです。青葉通りや広瀬通りなど駅を起点に東西を貫く大きな通りに加え、一番町や国分町といった主に人が歩行する事を想定し、買い物や飲食、歓楽といった目的に応じて南北に張り巡らされた通りが機械的に設けられているのだろうと。でも今ではすっかり知られる存在となったけれど、一番町のアーケード商店街に唐突に歌舞伎の緞帳のような奇妙な幕で飾られた店舗らしきものを見ることができます。通り過ぎてしまえばそれまでだけれど遠目にそれが案外大きなバラックである事を確認したら入らずにはおられぬのです。ぼくが子供の頃にここを発見した時には、そのいかがわしさに狂喜し、友達を引き連れては探検気分で偵察したものです。友達を引き連れては探検気分で偵察したものです。そんな冒険心をくすぐってくれる路地や裏通りが仙台にはそこここにありました。かつての仙台は、子供のみならず大人の冒険心をも掻き立てたはずです。しかし、それはほぼ失われてしまったようです。ここ壱弐参横丁は新しく健全な呑み屋ばかりだし、隣接する文化横丁もどこか歯抜け状態で心許ない。そんな衰退する呑み屋街にしかしちょっと気になる物件を見出したから立ち寄らぬわけにはいかぬだろう。  飾り気のない素っ気なさで、一瞥した限りではお店であるとは思えずつい見過ごしてしまいそうな「すみやき ホルモン だるま」であります。ぼくは注意深く生きたいと思っているし、実際に必要以上に周囲を嘗め回すように観察しているつもりだけれど、網を広く張りすぎるばかりに取りこぼしも多くなるのであります。店内は、カウンター席のみ7席ほどの狭小店舗でした。先客には夫婦、男友達―我々と一緒ですね―、女性1名ということで、我々はぎりぎり入店できたということになります。気さくな夫婦者は幸福オーラを放ちまくり、住居自慢の押し売り気味、男たちは近頃の若者らしくけたたましい高笑いを放ち煩わしい。女性はそんな男たちの相手を買って出てくれます。齢79になるという女将は時折相槌を挟みつつも黙々と七輪で肉を焼いてくれます。やがて男たちが帰り、夫婦者が引き上げると、常連度の相当高い女性と女将を交えて大いに語らせてもらいました。いや、ぼく以上に女性のトークが炸裂して、己をサブカル女子と称するに相応しい椎名林檎愛などを爆発させ、大いに盛り上がりました。というわけで、大変楽しいひと時を過ごすことができたのですが、帰宅後、エクセルにメモを残そうとしたら、なんたることか、すでにお邪魔しているではないか。やはりこういう渋い店を見過ごすなんてことはなかったようです。今後は注意の払い方よりも、己の記憶力の欠如ないしは衰弱について適切に理解して記憶を疑ってみるなり、メモをちゃんと確認するなりしようと思うのでした。

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