マンガの中の酒場と飲食店 九井諒子篇
すでに『ひきだしにテラリウム』で第17回文化庁メディア芸術祭マンガ部門優秀賞受賞を果たすなど短編マンガ家として評価の高かった九井諒子氏が『ダンジョン飯』で大ブレイクしたことはまだ記憶に新しいことです。素人マンガ読みのぼくは『ダンジョン飯』が様々なランキングで評価されて初めて同作やそれ以前の作品を遡及して知ることとなったのですが、まだ作品数も少なくてその作家性をどうこうと語るのは時期尚早な気もしていて、この先どう化けていくか楽しみにしているマンガ家さんなのです。 現時点での代表作は唯一の長編作品である『ダンジョン飯』ということになりますが、ダンジョン内での自給自足を実現するために魔物を料理して食べるという、失礼な言い方をするとワンアイディアから生み出された物語が今や10巻を越えるに至ったのだから、九井氏が単なる奇想の持ち主であると割り切れぬだけの自在な想像力を持ち合わせていることも証左ともなり得ていると思うのです。それは3冊の短篇集を読んでいれば自明でありまして、ワンアイデアで押し切る作品もあったりするのですが、そこには多様なアイデアを表現する筆致と豊富な教養、上品なユーモアが裏打ちされているのであります。いつまででも続いてほしいしこの先もずっと読み続けたいマンガ作品ではあるのです。『ダンジョン飯』にも酒場が頻繁に登場してきて楽しいのですが、それ以上にダンジョン内での野営で様々な魔物を手に入れて、解体・調理し料理となっている過程がリアリティがあって、例えば以下のサイトでマンガ飯として再現したものよりよほど見ていて楽しいし美味しそうに思えるのでした。https://mangashokudo.net/tag/%E3%83%80%E3%83%B3%E3%82%B8%E3%83%A7%E3%83%B3%E9%A3%AF 『ダンジョン飯』を面白いと思う一方でこれまでの作品には九井氏の才能の一端しか表現されていないのではないか、ぼくを含む多くの読者を魅了してくれる未だ描かれざる作品アイデアが山積しているんじゃないかという気もしているのです。『ひきだしにテラリウム』(イースト・プレス, 2013)『ダンジョン飯 第2巻』(KADOKAWA, 2015)『ダンジョン飯 第4巻』(KADOKAWA, 2017)『ダンジョン飯 第7巻』(KADOKAWA, 2019)『ダンジョン飯 第8巻』(KADOKAWA, 2019)『ダンジョン飯 第9巻』(KADOKAWA, 2020)『九井諒子作品集 竜のかわいい七つの子』(エンターブレイン, 2012)『九井諒子作品集 竜の学校は山の上』(イースト・プレス, 2011)