秋津に来たのにハシゴしなかった話
夏もそろそろそのなりを潜め始めた頃、秋津で呑むことになりました。これまでも何度かこのブログに登場してはいますが、コロナ禍以降になって訪れるのは初めてではなかろうか。実のところ以前頻繁に訪れていたこともあり、目ぼしい酒場はひと通り立ち寄ったつもりでいるからついつい足も遠のくのであります。そういう土地だから何かしら背中を押してくれるきっかけでもないとなかなか再訪してみようって気になれないのです。しかしある夜唐突にその機会が到来してしまったのであります。というのも日暮里だったか田端だったかでその親しい人と呑んでいたら相手がご機嫌になった勢いで我々を親しくさせるきっかけとなった共通の知人がまさにその秋津の住民でありましてたまには呑もうじゃないかと相成った次第なのです。そりゃまあわれわれを仲良くしてくれた人でもあるし、それぞれが知り合った当時にはそれこそ連夜の如くに酒を呑ましてくれた方だったので、すでに退職してしばらく経ったから小遣いも以前のように自由にはならないだろうから、たまにはお会いして礼の一つでも申し上げるとともにご馳走させていただこうなんて思った訳なのであります。ついでにコロナ禍以降の町の状況も確認しておきたい。店は本当であれば好みの酒場をぼくが決めたいところでありますが、ここは地元の名士(らしいのですね)顔を立ててお任せすることになりました。友人は先乗りして2人で始めるとのことなので、ぼくは列車に乗り込んで席に着くとすぐに向かう先を知らせてくれるようお願いの連絡を入れたのでした。 返事には写真が添付されていて,見覚えあるなあと思ったら以前お邪魔したことのある「ひじかた」が映っていました。酒場放浪記でも放映されています。ここなら文句のつけようがない。駅に到着するとまずは秋津の老舗パン屋さん「サントアン」でお土産を購入しました。Winkの相田翔子氏がアルバイトしていたり宮崎駿が通っていたりと何かと有名なお店ですが、そんなことよりここのお手頃でありながらちゃんとしたパンは秋津に来たらぜひ買い求めたい一品であります。主人も気がいいし(値引もしてくれたり)陽気で楽しい方です。洋菓子の「ロートンヌ」も気になりますが今回は遅くなることも危惧されるのでやめておきます。さて駅前からは喧噪に背を向けて大急ぎで会合の場に向かいます。せっかくだからとかついでだとかといったことをつねに考えているのがぼくのケチ臭さの証左であり、いまひとつ器の小っちゃさに繋がっている気がするのです。さて、駅からは歩いて1、2分程度だから息を整えるほどでもない。奥の座敷で2人はすでにご機嫌さんです。奥から懐かしいよく通るのに加えて大きな声でぼくの名が叫ばれます。相変わらず豪快だなあ、しかも元気だなあと嬉しくなるのです。久し振りに顔を合わしてみると記憶にある当時とちっとも変っていないからまた驚きです。2人はすでに気分良くなってるようなので、遠慮がちに瓶ビールと鰯餃子、〆鯖、それとお勧めのだだちゃ豆をお願いしました。これって別に支払いを気にしたって訳じゃないですからね。見ると焼酎のボトルには名前が書き込まれています。へえ、ここを贔屓にしていたのね。以前お邪魔した際に偶然遭遇するってこともあったかもしれないって訳だ。こちらが滑り出しで控えめにオーダーしたのに喋りが盛り上がってくるとちょっと草臥れたように見えた二人も息を吹き返して、酒も肴も進むこと。それにしてもここの料理は何を食べても美味しいなあ。身近にこういう良心的で高品質な料理を出してもらえる店があると重宝しますねえ。さて、先輩殿はかつては朝まで当たり前のように4、5軒とハシゴされたものですが、さすがに今ではこれで充分満足されたようです。支払いになっても絶対に金を受け取らないのも以前のまんまでした。ということで案外あっさりとお開きになって本当はぼくだけでももう一軒ハシゴしたいところですが、親しい人を取り敢えず池袋までは送り届けようと西武池袋線の乗客となったのでした。