2012/02/01(水)02:46
二宮正治小説:広島市安芸区矢野の中学生の恋物語 第30回
雄太は最初は派手な恵美が嫌いだったが、話してみると大変に気が合った。雄太は以前恵美が住んでいた場所の近所の教室に通っているからである。
雄太がポツリと恵美にこう言った。ぼくが教室に通っていると、
「まあずいぶん遠くから通ってくるのねえ」
と言われたよ。腹に何かひとつある感じだ。
今度は恵美がこう言った。私も矢野に引越しした事を近所のおばさんに言ったら、
「まあずいぶん遠いところへ」
と言われた。
雄太はこの恵美の言葉を聞いて、
「うわあ、恵美ちゃんかわいそう」
と言葉をかけた。
「恐らくずっと長い間矢野の子供達はぼくらのような思いをして昔からの広島の人達とは溶け込めず、矢野の近所にある高校に進学してずっと矢野で暮らすパターンを繰り返してきたんだ。本当の広島市民にはなれないよなあ」
雄太は強い口調でこう言った。
恵美がこう言葉を添える。
「雄太君がそこまで言うから私も言うけど、大きな溝があるよ。広島市と矢野の間には。誰かが埋めないと村八分の状態がずっと続いてしまう」
二人は顔を見合わせてため息をついた。