健康コラム

2011/03/01(火)08:06

膏薬新時代

薬(37)

 紀元前2055年に書かれた中国の医学書に、「薬草を煎じた薬を松脂、乳脂、ニカワ、植物油などと混ぜて布に塗り、傷口や痛む部分に展着すべし」と書かれており、それが貼り薬に関する最古の記載とされています。  布などに粘着性のある物質と薬効成分を混ぜてた物を貼り付けて治療効果を上げる貼り薬は、「膏薬」として世界各地で古くから利用されてきました。  紀元前17世紀の古代エジプトでは、布に糊状のゴムを塗った包帯で傷口を密閉して傷の治療を行っていました。密閉性のある包帯で傷口を被う事で傷口からの水分の蒸発を防ぎ、潤いが保たれた状態にする事で早くきれいに傷を治せる事を経験的に知って利用していた事が伺えます。  現代でも同様の原理を用いた傷の治療が行われていますが、効果が確認されたのは1950年代の事で、遥か4千年近くも前から利用されていた事には驚かされてしまいます。  紀元前42年頃の古代ギリシアでも膏薬は使われていて、豚脂に鉛丹と呼ばれる酸化鉛、薬草の汁を混ぜた物を布や皮に塗った「ダイアキロン硬膏」と呼ばれる物が存在し、日本でも9世紀頃に編纂された法令集、「延喜式」に10種類もの膏薬の名前が上げられています。  それだけ古い歴史を持ちながら、肩凝りや打身の治療に特化されたためか、飲み薬と比べてあまり評価が高くはない貼り薬ですが、最近は禁煙用のニコチンパッチをはじめ、再評価の動きが高まってきています。  特に先日承認された「イクセロン」「リバスタッチ」といった7品目の薬剤の中には貼り薬も含まれ、アルツハイマー型の認知症の貼る治療薬の登場という事で、貼り薬の新たなジャンルが開かれる事となります。  これまで飲み薬の「アリセプト」だけが認知症の治療薬として使われてきていましたが、貼り薬のイクセロン、リバスタッチにレミニール、メマリーといった4品目が新たに治療に用いる事が可能となり、アリセプトがコリンエステラーゼという酵素の働きを阻害する機能によって治療効果を上げていた事に対し、NMDAと呼ばれる受容体の働きを阻害するという新たな作用を持つ薬剤も含まれる事から、治療への新たなアプローチに繋がる事も考える事ができます。  飲み薬に比べて貼り薬は飲み忘れや誤飲、過剰投与といった事故が防ぎやすく、表面に貼り付けた日時を記載する事で適切な管理が行え、より使いやすい投薬スタイルとも言えます。  日本では、方針や信念もなく、節操のない人の事を「内股膏薬」といったり、「膏薬と理屈はどこにでもつく」といった諺もあり、あまり評価されていない印象のある貼り薬の膏薬ですが、これを機に見方が大きく変わるのではとも思えて、少々微笑ましくもあります。

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