連続小説 願い叶えます 沼南易者協会 その2
物件情報という古臭い紙が大量に貼られた、そのガラス扉を横に開くと中年の男が座っていた。短髪、眼鏡の中年おやじは文庫本を読んでいた。その男は驚いたように俺を見つめて本を置いた。男「あっ、どーも。沼南コーポの人でしたっけ?」と言われたが、俺は沼南コーポには住んでいない。中「いえ、『願い叶えます。』って書いてあったんで来たんですけど。いくらぐらい掛かるのかなあと思って。」男「あっ、そう。」と男は言って俺に名刺を差し出してきた。谷原三平 宅建主任士 TOEIC795と記載されている。坊主に近い短髪のせいか、あまり宅建とTOEICが結びつかない風貌だが、資格の勉強は得意なのかもしれない。占いの店に入るのは初めてなので、いくら掛かるのかが心配でしょうがない。中「料金表みたいのはありますか?」水原「ないよ。まあ、初回はせいぜい1,000円か2,000円だから。まあ、内容によって少し変動するんだけどね。」俺はその金額が高いのか安いのか分からなかったが、とりあえずは失業中の身、仕事のことでも相談してみようか。中「俺、実は最近失業して、次はまともな会社に入れるか心配で。いい会社、というかできれば長く続けられる会社がいいなあって思ってまして。」谷原「えっ、俺のところにそんなこと聞きにきたの?いやいや、ウチは職安じゃないんだからさ。じゃ、初回だし、短かったし、仕事もないんじゃ、1,000円といいたいけど、500円でいいや。」俺は驚いた。こんなので金を取ろうというのか。田舎の占い師は恐ろしいなあ。中「そんなのって。じゃあ、どんなのだったらいいの?」谷原「どんなのって、ウチのこと聞いてないの?」俺は「?」という顔になっていたと思う。実際に「?」だし。水原「もっとドロドロしたの持ってきてよ。ドロドロしたのを叶えるのが占い師の役目ってもんだろ。分かるだろ。」わかるだろと言われても、ちっとも分からない。中「ドロドロって何なんですか。」水原「えっ、そこから説明するの?これだからトーシロには来てもらいたくないんだよね。でもお兄さん、若いからねー。あるんじゃないの、ドロドロしたの。俺なんかお兄さんと同じ年ごろの時はもうそりゃ、ドロッドロのどろっどろ。そりゃもうどろどろ。見る女、見る女に嫉妬で狂いそうになっていたんだよ。目が合うだけど、何か笑われたみたいな気分になったもんだなあ。あったなあ、俺にもそんな日が。あんなきれいな娘をこうしてやりたい、ああしてやりたいでさあ。何かないの、そういうの。」俺は一瞬、頭の中にアーシャと卑猥な光景が浮かんだ。俺のその戸惑いに、水原という男は勘づいたようだ。谷原「うーん、あるんだな。そりゃ、あるよな。男なんだから。まあ、今日のところは1,000円で聞いてやるから、ゆっくり話してみなさい。」その3へ続く