定規断面しか考えられない技術屋では…
私の愛読している業界紙に載っていた話なのだが、各地の講演や大学の講義などで演習問題として直線だけで描かれた「定規断面」と呼ばれる流量などの諸条件を満たすように描かれた河川の断面図を出すというのだ。「定規断面」とは河川や道路等の工事である区間にわたって盛土や切土を行う時にその横断面の標準形をいうのだが、河川堤防の定規断面については「河川管理施設等構造令」に堤防頂部の平坦部である「天端」の幅や法面の勾配等が規定されており、これに基づき河川ごとまたは河川区間ごとに定規断面が定められているのだ。通常は法面の勾配は2割として河道は中央に固定されているのだが、この図を示して「多自然の川になるように、自由に手を加えてみてください」というのがお題なのだ
。
さてその結果はというと自治体などの技術職の人は思考が働かず、大半は手が動かないというのだが、なぜなら定規断面をほぼそのまま標準断面として使い実際に施工してしまうことが習慣化してきたからだというのだ。「定規断面」とは河川とはあくまで河川整備計画で定められた流量確保などをチェックするためのもので、河道計画では第一義的に計画高水流量を計画高水位以下の水位で安全に流下させる河積を確保することが重要であり、沿川及び現河道の有する自然現象や土地利用状況等を勘案しつつ河道断面の設定を行う必要があるとされているのだ。そこで確認した内容に従いつつその後の実施設計や詳細設計では自由に川をデザインして構わないのだがそれができないというのだ。
行政の技術職の多くはそんな発想をする人はまずいないというのだが、一定のノウハウさえあれば誰でも機械的に描ける標準断面は安心で楽な仕事だから、このような図面を示されても思考を停止してしまい、さらに知恵を絞って図面に手を加えてより良い川にしようという発想にならないというのだ。今までは治水に重点をおきできるだけ早くかつ経済的に洪水を流下させる機能を重視して河川を捉えてきた観があって、そのため画一的な河道形状で河道の改修を行い、沿川住民の意見や河川環境に配慮したものとは言い難いものもあったとされている。河川は特に都市部等では流域住民にとって親しみやすい身近な自然空間であり、自然豊かな水際や河岸を保全・再生することが望まれている。
河川環境への関心の高まりから今までと同じ意識のままでは、多自然川づくりにふさわしい図面を描けるようにはならないのだが、「定規断面」に手を加えるときは鉛筆でフリーハンドの線を描いていくことも考える時代になってきているのだ。基本的な考え方は治水上の安全を確保しつつ、もとの澪筋の大きさや形を大事にして、川に自由を与えようというもので、川にはそれぞれの個性があるためその川の特徴を考慮した河道計画を策定することが、自然に配慮した川づくりにもつながることとなるということなのだ。このようなことは学校等でも教えてはいるそうなのだが、ただし大半の方はこれができないようなのです。なぜなら計算を根拠とする標準断面の答えは一つだがフリーハンドで引く線には絶対
的な答えがないからなのだ。
フリーハンドということになると10人いれば十通りの線が描かれるはずで、そこには一人ひとりの構想力や技術力が映し出されるのだ。自治体の担当者などと話していて気付くのは「できない」と思い込んでいることだそうで、今でも標準断面でなければダメだと勘違いしている人もいるし、そもそも前例のないことはやりたがらない風潮が根強いというのだ。そうなれば設計者だって標準断面以外をわざわざ提案したりしないのだ。土木の世界ではよく言われることですが多自然川づくりにも「意識改革」という大きな壁があって、いったんそこを乗り越えて多自然川づくりに挑んだ人たちは、標準断面の河川改修では経験できなかった面白さに気付いてどんどん意識が高くなっていくというのだ。
--- On Wed, 2014/6/11, > wrote: