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ご婦人は毎朝草むしりにやってくる。
誰も『何をやってるんですか?』ときかない。その場所に足を入れる人はご婦人以外いなかった。
ご婦人の起床は午前3時。
寝床を片付けると最初に井戸水で顔を洗う。
ギーコン ギーコン 昔の手漕ぎポンプが霜柱が立っている井戸石の周りに響く。
夏はあっという間に蚊に刺されてしまうが、この温度だと蚊は生きられない。ミミズは深い地中にもぐり混んでいるのか、石を返してもいない。
ご婦人はミミズを探しているようだった。
いた。
ボンブの付け根。水で湿ってこおりきっていないコンクリートの小石の横に張り付いている。
ご婦人は小さな楕円形の木の容器にミミズを入れた。昔お弁当のおかずに使っていた容器だった。
勝手口から家の中に入るとラジオのスイッチを入れた。八代亜紀の声が流れる。
『臨時ニュースをお伝えします。発達した低気圧は東北を中心に勢力を拡大しています。午前中からところどころ強風にご注意下さい。』
小さな土鍋の蓋がカタカタと音を出す。
後、10分弱でご飯が炊ける。
ご婦人はさっきとったミミズを玄関に持っていった。
ポチャン、、、ピンセットで金魚鉢に入れる。
縁日で父さんが買って来た時は病気で死にそうだった。
ミミズを食べ始めてから日に日に良くなりヒレのひび割れも完治している。
時々勢い余って金魚鉢を飛び出す。
慌ててご婦人は小さなタモで鉢に戻す。
玄関引戸に隙間風がヒューヒューと音を立て始めた。
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最終更新日
2020.05.19 06:39:44
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