2023/11/07(火)06:00
李克強前国務院総理の死亡、中国経済のこれから
2023年10月27日、太子党出身の習金平国家主席の下で首相を務めた共青団出身の李克強前国務院総理(首相)が心臓発作により死亡。68歳。 李氏は経済学博士号を持つ理論家で、グローバルな経済ルールが通じる中国のリーダーとして知られていた。 習近平が消した中国「もう1つの道」李克強の無念 心臓発作で急死影が薄かった首相の10年間 2023年10月28日 東洋経済オンライン … (略) …博士号を持つ本格派のエコノミスト 北京大学の大学院では経済学に転じ、のちに博士号を取得している。中国の要人にありがちな、実力不明の「なんちゃって博士」ではない。李克強氏の博士論文は中国の経済学界で最も権威があるとされる賞を得ており、本格的なエコノミストだ。こうした素養があるうえ英語も堪能だったので、西側との「共通言語」は豊富だった。 ときに、その発言は波紋を広げることもあった。2010年には内部告発サイトのウィキリークスで「中国の統計は信頼できない。頼りにできるのは電力消費量、鉄道輸送量、銀行融資の増加率だけだ」という発言が暴露された。李克強氏が遼寧省のトップである党委員会書記だった2007年、アメリカの駐中国大使にそう語ったとされている。 すでに最高指導部入りが確実視されていた李克強氏の発言が伝わると、欧米ではこれら3つの指標を組み合わせた「李克強指数」が中国景気ウォッチのために使われるようになった。本人もそのことはよくわかっていたようだ。 首相就任後の2014年に、李克強氏は天津で開かれた夏季ダボス会議で自ら「7、8月の電力消費量、貨物運送量などの変化が国際的な注目を集めているが、まだ合理的な範囲にあると見ている」とコメントするしゃれっ気を見せた。こうしたセンスも西側受けする要素といえるだろう。 中国経済については、一貫して民営企業の振興と市場化、国際化を呼びかけてきた。首相就任の前年、2012年の2月に世界銀行は中国の政府系シンクタンクである国務院発展研究センターとの連名で「2030年の中国」と題する報告書を公表している。 当時、李克強氏の指示でまとめられたと報じられた報告書には、現在にいたるまで必要とされる中国経済の改革メニューがそろっていた。(1)市場経済への移行完了、(2)開かれた技術革新の加速、(3)環境に配慮した投資を開発の推進力とする「グリーン成長」への転換、(4)保健、教育サービス、雇用などをすべての人が享受できる体制づくり、(5)国内財政制度の近代化と強化、(6)中国の構造改革と変化を続ける国際経済とを結びつけることによる相互利益の追求――といったものだ。 その内容は、当時の温家宝首相が翌月に全人代で行った政府活動報告にも色濃く反映された。この時点で、経済改革について中国の指導者と西側は同じ方向を向いていたわけだ。米中対立が顕在化する前、中国は豊かになれば開放的になると多くの人が信じていた最後の時期である。 ー 引用終わり ー その後「リコノミクス」と呼ばれる経済政策として改革開放の推進を掲げたが、改革の継続に否定的な姿勢の習近平が共産党への権力集中を強める中で経済政策の決定権をも握ることとなり、国務院(内閣)の政策の重みの低下とともに、李氏の存在感も低下していった。 2022年3月11日、李克強は記者会見の中で2023年の任期末をもって総理職を退任すると明言した。 2022年10月に開催された中国共産党第二十回全国代表大会では慣例である定年の68歳に満たないにも関わらず中央政治局委員から外れ引退が確定した。 習国家主席の一極体制のもと、20222年に人口減少に転換した中国は国有企業の育成を重視する社会主義的な色彩の強い経済運営をすすめている。 巨大な市場であるにもかかわらず、外資は合弁の解消、生産拠点の中国からの移転がすすめられている。 焦点:縮小深刻な香港株式市場不透明な中国経済と規制が直撃2023年10月28日 ロイター 香港当局は縮小する株式市場を再生させるための対策を打ち出しているが、一時しのぎにしかならないだろう。中国経済の見通しが大きく改善しない限り、金融センターとしての香港の復活は不可能だとアナリストは指摘している。 香港政府は数カ月前から、低迷している株式市場の出来高を増やそうと努力してきた。足元では李家超行政長官が25日、投資と移住を結びつける計画に加え、株式取引にかかる印紙税率の引き下げを発表した。 しかし、香港はアジアの主要な金融センター、そして世界第2位の経済大国・中国への玄関口というかつての面影を失いつつある。外国人投資家は中国について、不透明な政策、不動産市場の低迷、民間企業への取り締まり強化などによって孤立感を強めていると見なし、投資を減らしている。 香港株式市場の時価総額は約4兆3000億ドルで、米国、日本、中国、欧州に次ぐ世界有数の市場だ。 だが、出来高を見ると、1─6月の1日平均は113億ドルと、米ナスダック市場の2610億ドル、日本の279億ドル、中国深セン証券取引所の779億ドルに遠く及ばない。新規の株式発行も減っている。 キングストン・セキュリティーズの調査執行ディレクター、ディッキー・ウォン氏は、印紙税率引き下げは予想通りだと話す。これを機に香港株式市場は「短期的に反発」するかもしれないが、外国人投資家の撤退や米中間の緊張といった長期的課題は、重くのしかかり続けるという。 香港の主要株価指数であるハンセン指数とハンセン中国株指数は、いずれも年初から11%余り下げた。 ハンセン指数は1月末の2万2700.85をピークに下落し、現在は1万7000前後で取引されている。 第2・四半期以降、1日の出来高が800億香港ドルを下回る日が何日もあり、2021の1日平均1600億香港ドルの半分程度となっている。 米資産運用会社オーブリー・キャピタル・マネジメントのロブ・ブルーイス氏は「外国人投資家が中国投資を減らしていることで、流動性は確実に減少している。当社を含め、多くの投資家は香港経由で中国株にアクセスしているからだ」と語る。 同氏は、この理由について「中国経済の見通し悪化と政治リスクの高まり」が意識されているためだとし「唯一の解決策は、これらの基調を反転させることしかない。つまり経済と対外関係の好転だ。簡単ではない」と述べた。 セントラル・アセット・インベストメンツ(香港)のエディー・タム最高投資責任者(CIO)は、外国人投資家による「香港株の売りは終わりに近づいてはいない」と話した。 ー 引用終わり ー 中国経済は今年、ゼロコロナ政策の終了を受けて一時的に持ち直したものの、その後は落ち込んだままとなっている。 不動産バブルの崩壊で国内の投資余力・意欲も低下、外資は共産党の意向に左右される中国市場への投資を避けている。 不動産バブルの崩壊、人口減少、高齢化社会そして「一帯一路」政策による対外債権の焦げ付きがのしかかる中国経済が浮上する見通しは皆無。 習政権は経済活性化のため、高速鉄道網の建設、EV市場の活性化を続け、内政の不満を逸らすための軍備増強、台湾統合キャンペーン、治安維持のための共産党への権力集中を続けるのだろう。
中国では李克強前首相の追悼、ネットへの書き込みが制限されているという。
「李克強前首相の急死」報道に警戒態勢が敷かれる理由
中国政府が恐れることとは?ふるまいよしこ:フリーランスライター2023.11.1 DIAMOND online10月27日、中国の李克強前総理(以下、敬称略)が亡くなった。今年の3月まで中国政治のトップで活躍していた大物の突然の死に、中国国内もザワついている。自宅から遠い上海のプールで倒れたこともあり、まことしやかに毒殺説がささやかれているほどだ。政治のトップにいた10年間、李克強は何をしたのか。そして彼の死は中国の人たちにどのような意味をもたらしたのか?(フリーランスライター ふるまいよしこ) … (略) …
中国政府が今恐れているのは、李の訃報によってかつてのその前例のない発言や行動が切り取られ、称賛され、持ち上げられることだ。そして庶民が現状への不満から、それを持ち上げることで現政権、現政府に当てつけるムードが拡散していくことなのである。 李克強の突然の死が今の中国政治に与える影響はそれほどないだろう。だが、我々はこの事件を通じて、コロナゼロ対策以降の庶民の不満は決して収まっていないことを目の当たりにした。 ー 引用終わり ー