尼僧の窓辺から

「遠い将来、地球上の人類が一つにまとまることは出来るだろうか。」
夕ご飯を終えた語らいの場で、和尚さんはこんなことを仰いました。

　里の食堂は真ん中に長いテーブルがあって、最大１４人が共に食事を頂きます。そして、ご飯の後は大概コーヒーにたばこにめいめいが寛ぎながら、いく時間も話しに花が咲くのです。老若男女、入り混じっているのが特徴です。

「地球人以外の、外に敵がいたら一つにまとまるんじゃない？」
そんな声もありました。

　地球上では、いつもどこかで、戦争が行われています。殺したり殺されたりの繰り返しです。それが、一方の責任を問うと言うこと自体がおかしい、それが和尚様のご意見です。
　日本という国も、大小の差があったとしても、攻めもしましたし攻められもしました。それを、一部だけ切り取って、国ごとに比較したりすることはおかしいのではないでしょうか。
　それよりも「戦争」そのものを論じるべきである、と。どちらが正しい正しくないということよりも、そのものの本質を問うべきである、と。
　地球全体を一つに考えて、戦争が起きてしまう、人間の欲、受け持つ愚かさについて目を向けるべきではないか、と。

　戦争一つとっても、見る視点やその立場によって見え方は様々です。
　里全体で戦争の映画を見たときでした。終わってから感想を述べ合います。
「戦争はおそろしい。」とか、
「集団自決は潔かったけれど、自分にできるかわからない。」
そんな意見もあります。しかし、中には
「日本の退くシーンばかりが多くて、胸くそ悪い。」
とこんな意見も出たのです。それには驚かされました。
　自分という視点から見ているものばかりでは、永遠に意見が一つにまとまることはないと思われます。
　目明きの人こそ冷静に、その渦中から離れてもっと本質的なことを言えるのではないでしょうか。

「安倍さんも相談する人がいなかったのだろう。」
ぽとり、と声が聞こえました。

　里談義は、今日も夜更けまで続きます。