11年がかりの超短編(その19)
「洋次郎は私の弟です。弟なのですが、生まれてすぐに別れ別れになっていて、行き来はありません」「洋次郎さんは、二年ほど前に、事故で他界しました。この子は父親の死を理解できないでいます」そうだったのか、だから、かおりが私を「お父さん」と呼ぶのか、浩一郎は母子の様子が分かってきた。「別れ別れになったのは・・・・・・・」浩一郎は養親から知らされていたことをさち子に話した。「私も洋次郎さんから聞いたことがありましたが、多くを話しませんでした。話したくなかったのかもしれません」「私も同じです。話したくても、何の記憶もありませんから、話しようがないのです」「ねえ、何のお話をしているの?」かおりが浩一郎の袖を引いた。「あ、ごめんなさい。お母さんとばかりお話をしていて」「さあ、ハンバーグを食べましょうね」「おとうさん、かおりのハンバーグ、小さく切って」「まあ、おとうさん、おとうさんって」浩一郎は、ハンバーグを口にしながら、『そうだったのか』と、何回も小さく頷いた。『そうだったのよ』さち子も、相づちをうつように、小さく頷いた。『そうだったのか』(この短編は、2008年12月31日から、大晦日と翌元日に書いています)