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職の精神史

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2008.04.26
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※この文章は、2003~2006年に大学生・若手社会人向けに配信されたメルマガ『内定への一言』のバックナンバーです。


226.「そうたやすく口を出すな。人間は何かしゃべり出した途端、もう自分で迷い始めているものだ」(ゲーテ)



ハイエクは母国オーストリアが崩壊し、移住したドイツがナチスに支配される過程を眺め、イギリスに移住して国籍を取った経済学者です。移住先のイギリスが、20年前のドイツと全く同じであることに懸念を抱き、専門の計量経済学の研究に支障を来たすリスクを背負ってまで、壮大な法哲学・歴史書である「隷属への道」を書きました。

もう、何年前に読んだか分かりませんが、そして何度読んだか分かりませんが、本書は「雄気堂々」(城山三郎・新潮文庫)と並び、海外勤務から帰国して以降の僕の読書遍歴のスタート地点を形成した本です。一言で言えば、「人間が持つ嫉妬と誇りの、究極の本質を描いた著作」と評するのが、僕の感想です。本書を読んで始まった20代、おかげさまで、色々なことが見えるようになりました。

読者の皆さんがどう思うかは分かりませんが、僕は「金持ちから税金をたくさん取って、貧しい人に配分しろ」という発想が嫌いでした。もっともらしく聞こえるけど、人間性に照らして間違っている、という感想を持ち続けていました。しかし、大学を中退して、20歳で外国に赴任し、貿易会社で忙しく働き、しばらく経済学の勉強から離れていたためか、有効な反論の根拠を得ることもなく、いつしかその問題意識も消えていきました。それから帰国後、ヤンマーディーゼルの福岡支店長をされていた方と、ある勉強会でお会いし、「これを読んでみたらいい」と、ハイエクの本の解説書を頂いたのです。

N支店長は、農機メーカーで日本の農家と接する傍ら、博多港から外国に農機を輸出した経験を同時期に持ったことから、「外国の農業と日本の農業に見られる、根本的な経済思想の違い」に興味を持った、とのことでした。面白い興味の持ち方だなぁと、その紹介の仕方に興味を持ったことから、すぐに本を読み終えたのですが、「なるほど!」と納得する箇所がほぼ、全ページにわたっていました。と同時に、それまで興味を持っていた戦後処理・教育問題について、「なぜ、東京裁判や教育制度、軍事的側面ばかりから論じようとするのか」という疑問が氷解したのです。

例えば…以下はFUNで、何度か紹介してきた「例え話」です。

あなたは、第一志望の大学に入るべく、それほど良くなかった成績を上げようと思って、一念発起して猛勉強を始めました。苦手教科に何度も泣かされ、得意教科すらスランプに陥り、苦心に苦心を重ねて1年、目標としていた期限の「期末テスト」を受けました。結果は…500点満点中の、「460点」でした。クラス平均は「300点」。あなたは一挙に、トップレベルに躍り出たのです。

「やった、平均92点なんて、目標より10点高いぞ!」と、あなたは苦学した1年を振り返り、自分が成し遂げた達成に、改めて「やればできる」という自信を再確認し、今後の勉強も頑張っていくと誓いました。ところが…。

クラスの中で、「平均点より低い点数」だったある生徒が、思いもかけないことを言い始めたのです。「先生!○○君は、どう考えても点数を取りすぎていると思います!」。…何だと?「これは、平和と平等というわがクラスの理念に照らして、納得できません。ということで、○○君の点数のうち、平均点を超過した160点を、平均点以下の人たちに再配分するのが良いと思います!」。

…おまえら、オレの努力を分かって言っているのか?

「そうだそうだ、○○は点数取りすぎだ!」
「○○は160点減らしたって、まだ300点もあるじゃないか!」
「点数は、平均以下の恵まれない生徒にこそ、与えられるべきだ!」
…という声が続出し、あなたの点数は多数決によって、「合法的」に奪われてしまったのでした。

ある「嫉妬」が次々と新たな嫉妬、憎悪に火をつけ、煽動された者たちは、自分が努力することではなく、「優れた者」を集団になって中傷し、貶め、苦しむ姿を劇場化させて監視することに熱中したのでした。

…もしあなたが、一生懸命勉強して点数を取った生徒であれば、こういう状況に耐えられますか?素直に「分かった、じゃあ、平和と平等のために点数を捧げよう」と思い切ることができますか?決して自分からは勉強しようとせず、空き時間の全てを愚痴と怠慢に捧げ、感謝も誠意も知らないような連中に、あなたが全ての自由時間を投じて得た知識の成果を、無償で提供できますか?

西南と女子大のFUNゼミで、2回、学生さんに尋ねたところ、九大のM君も、西南のYさんも、いきなり自分に振られるとは思っていなかったこともあってか、「え…?それは、できません」と答えました。

それが自然な感情でしょう。神様のような心であれば、できるのかもしれませんが、僕は努力した人から成果を搾取し、意欲までも奪い去るのなら、それは貧乏神だと思います。僕だって、絶対に1点もあげません。勉強の仕方なら、相手に意欲さえあれば、いくらでも教える寛容さは持ち合わせているつもりですが、それと点数をあげるのは別。それを「ケチ」だと言われたなら、次は腕力で黙らせるでしょう。おかしいですよね、絶対に。魚ではなく、釣り方を教えるのが、正しい教育の仕方であるべきです。

…と、学生さんなら実感を持って想起しやすい「受験勉強」に例えてみれば、どの学生さんも「そうですね」と理解してくれるこの話が、こと大人の金の世界になると、醜い嫉妬と強烈な憎悪で粉飾され、聞くに堪えない俗論と堕してしまうのは、一体なぜなのでしょうか。

「あいつは儲けすぎだ!めいっぱい重税を課して、90%くらい奪い取り、貧しい者に分け与えるべきだ!」
「そうだそうだ、金持ちは悪人だ!」
「自分はお金のために生きたくはない。お金は必要なだけあればいい。強欲な奴からは、遠慮なく税金をぶんどるべきだ」

…といった意見を恥ずかしげもなく吐く人々は、一体どういう頭の構造をしているのだろうと、奇妙な観察意欲をそそられます。自分の言っている言葉の意味や、発言の論理的構成を、理解できているのでしょうか。

もしかして、まだ日本語がしゃべれないんじゃないでしょうか。でなければ、ただのアホかお人好し?

もはや、どうでもいいことです。貧乏神の教えを信奉し、忠実にその教義を実践してきた人間なら、20~30年も生きれば、だいたい、こういうマルクス主義思想に基づいた模範的な発言ができるようになるのでしょう。まさに、「継続は力なり」の見本です。ただし、継続するものを間違っていますが。

「隷属への道」は、面白いと呼ぶには不適切な本です。僕が読んでみた最初の感想は、「難しい」でした。とても、分かると言えるような所感ではありませんでした。また読んで、「怖い」と思いました。さらに読んで、「すごい」と思いました。またまた読んで、「日本社会の問題点が見えた」と思いました。

本書は人間の弱さと強さを、経済思想や税制、政治制度の描写を通じて、「ここまで本質を言葉にできるのか」と思うほど、力強い筆致で描いています。23歳までの僕を知っている人は、「小島くん」と言えば「外国語ペラペラ」とか、「大学中退・海外勤務」、「保守的言論が好き」といったイメージを持っているでしょう。しかし、あれから一転して経済誌記者の道に進み、さらには職業教育の分野で起業し、フリーターというグレーゾーンを相手に仕事を始めたのも、この本の影響が大きかったのだと、今になってよく回想します。

はっきり言って、23歳までの自分は「話す自分」でした。しゃべることが自己主張だと、疑いもなく思い込んでいました。しかし23歳以降の自分は、「聞く自分」です。

自分でも驚くほど、性格や人当たりが変わりました。それは、本書から得た感動が導いた多くの経営者との出会いに、全神経を集中して取材や営業を行い、得た実感や確信を、コツコツと言葉で表現する営みを続けてきたからでしょう。

「賢者は聞き、愚者は語る」(ソクラテス)
「愚者は自分を特別だと思いたがり、賢者は相手を特別にする」(ゼノン)

以前も本メルマガで紹介してきた、このような言葉に加え、最近になってよく思い出す言葉が、ゲーテの「そうたやすく口を出すな。人間は何かしゃべり出した途端、もう自分で迷い始めているものだ」という一言です。

「隷属への道」を書いたノーベル経済学章受賞者・ハイエク教授は、おそらくとても物静かで、話すよりよく聞き、沈思熟慮に堪える時間を費やせた方でしょう。軽々しく大衆と同じ言葉を発せず、一語一語を大事にする学問姿勢を保てたからこそ、あのような深い洞察に到る集中力が発揮されたのでしょう。

今日は僕が個人的に好きな分野について、書いてみました。皆さんも、国際交流や就職活動に興味があるなら、ただ楽しむだけの目的ではなく、深いところで人生を考えるきっかけになるような学術書を読んでみてはどうでしょう。中退の僕が言うのも何ですが、とにかく学生は、全く本を読んでないなぁ、と感じます。

「学生時代に読むなら、この1冊だと思う本はどれですか?」なんて、アホなことを聞いてはいけません。

1冊で済む本など、世界のどこを探してもないし、その気になれば数百冊を読める時間を持っている、社会でも人生でも一番有利な立場に置かれている学生が、「1冊」と口にしてその奇妙さに気付かないなんて、ゲーテの言った通りです。

本メルマガでも以前触れましたが、

「自分が幸せじゃないと、人を幸せになんてできない」
「人に迷惑をかけてはいけない」
「ナンバーワンよりオンリーワン」
「結果はともかく、まず楽しみたい」

なんて、全くもって意味不明の言葉です。なんでこんな言葉が市民権を得るのか、理解に苦しみます。

学生さんが定義を求めて苦しむ「自分の言葉」とは、大衆と一線を画し、考えに考え抜いてたどりついた、自分だけの思考や想像に土台を置く言葉を言うのです。変幻自在で融通無碍、シンプルで個性に溢れ、聞いていて飽きない言葉です。どこかで聞いた、誰もが口にするような安っぽい言葉ではなく、「あなたが言えばサマになる言葉」こそ、自分の言葉です。そのためには、多く読み、多く聞くことです。

女子大新2年のNさんは、僕が彼女と同じ時期に読んでいた本をスラスラと読み、非常に的を得た的確なコメントを返してくれます。本を貸すのが楽しい学生さんと出会えると、とても嬉しいもので、今日もまた、7冊ばかり貸してしまいました。感想、楽しみにしてますよ。

また明日は、久留米大のMさんと一緒に、博多のブックオフで経済、金融関連の本を一緒に探すことになりました。どういう本に出会えるか、今から楽しみです。「五月病」とか、「読書の秋」といった根拠不明の言葉に頼らず、読書の春を始めてみては、いかがでしょうか。学生はその生活全体が、「読書の季節」のはずですよ。







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Last updated  2008.05.09 00:10:34
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