NOB’s PAGE(別宅)

2006/04/04(火)12:28

腹の探り合い、時には恫喝?

想像の小箱(「十二」?)(345)

「優雅な舞(その2)」 蘭邸の花庁では八国会議が行われていた。八国会議は遣士などの新規任用その他が行われる際に戴、芳、漣、舜の四極国を除く八国の遣士および通司、修司などで催される会議だが、今回は大司冦光月だけでなく、太宰の蘭桂も参加している。遣士の人事、人選については大司冦の専権だが、官全体の人事は太宰が冢宰に具申しないことには一歩も進まないのだ。秋官府内部のことなら大司冦の求めるように太宰も冢宰に具申するが、修部を除く秋官府以外に絡む場合はそうも行かない。太宰がこの場にいるというのはそういう意味である。とはいえ、あくまで決定権はなく、意見も求められなければ述べられない。これは大司冦も同様で、基本的に通部の中で決めることに黙って頷くだけと見做されている。無論、黙って頷くものしか大司冦のもとには届けられない。それくらい信用されている会議ではあるが、なぜかこの二人が花庁にいるのだ。一方、修司の玖嗄の方は人材の育成、供給などの面で欠かせないということで参加しているのであり、通佐や修佐も控えている。議長は通司の緋媛が務める。 「では八国会議を始める。今回は私の私情が入っているかどうかを見定めるために太宰と大司冦に列席していただいているが、原則として発言はこちらが求めない限りは認めない。少なくとも私は求めないので、何かある時は各自でお願いする。まず、戴の遣士、翔岳が客死し、現在は補佐の翠蘭が代行を務めているが、春の除目までは後任を決めなければならない。これについて、智照さんから」 「え?私から?まぁいいけど、私は代行を遣士にすればいいと思っている。他に適任がいれば別だが」 「他の適任については?」 「私は耳にしていないな。昨年の補充の時も耳にしていなかったし。趙駱はどうだ?」 「この場では反対意見は出ないと思いますよ。むしろ太宰の周辺じゃないですかね?私情だの若いだの…」 「私もそれは思うな。翠蘭は良くやっていると思う。何せ戴だ。敢えて行こうという奴はいないんじゃないか?うちの彩香だって多分二の足を踏むだろう。そっちの啓鷹もそうじゃないかの?」 「うちの場合は宗王が離さないだろうな。何れは奏の遣士にと思っているが、下手したら奏の冢宰になってるかもしれん。ざっと補佐の顔を見て翠蘭よりも頭抜けていいというのは遣士が離したがらないだろうし、それ以外は論外じゃないか?遣士が動くとかそうなるとごねるかもしれないからな。順番からすると、次は朱楓か?」 「戴については異存なしですね。というよりそこに割ける人材がいないでしょう。いるならこっちに廻して欲しいわ。これから忙しくなりそうだから。違う?桃香?」 「それは同意見ね。戴がきな臭いお蔭でこちらにも飛び火が来そうですからね。当面現状維持でやっていただきたいですわ」 「琉毅もそう思うだろう?」 「うちから抜かれるのは勘弁ですね。当人も勘弁して欲しそうでしたし」 「巧も別に異存はありません。問題はそこにいる二人なのですよね?例えば通佐の柴穏を出して…」 「春陽、いきなり名前を出すのはどうか?」 「ここに来た時点で覚悟はできていると思ったのですが?修佐の沙禮でも構いませんが?」 「つまり、翠蘭以外でというならこの二人がいる、と言いたいのか?」 「いえ、このうちのどちらかに戴に行って貰い、翠蘭をその空いた席に座らせると言うこともあるかと」 「母娘で通司、通佐をすると?」 「能力的なら啓鷹、彩香、翠蘭のいずれかが通佐、後々の通司になってもおかしくないと思います。玉蘭は修佐向きでしょう?」 「耀隼の名が出ていないが?」 「あれはまだまだです。博耀との競り合いから頭が抜けていない。まだ、夕香のほうがいいが、あれも修佐向きかな。残りのものについては噂でしか聞いていないので言及は避けますが」 「確かに博耀も啓鷹、彩香と比べると落ちますね。柴耀はケッコウいいと思いますけど、翠蘭の弟ですしね」 「玉蘭は確かに通佐よりも修佐向きだろうな。むしろ翠蘭をうちに貰いたいくらいだな」 「玉蘭と交換で?」 「そんなことは無理だろう。沙禮、翠蘭、玉蘭の三角ならありえるが?」 「朱楓、沙禮の顔が引きつっているぞ。沙禮はずっと修部だからいきなり遣士はなぁ… まだ、翠蘭のほうがいい」 「では、柴穏、彩香、翠蘭の三角ですか?」 「それも柴穏が首を縦に振るまい。通佐から遣士というと翠心の例があるくらいだろう?紫蘭は違うし」 「そもそも戴の遣士ですからね。火中の栗を拾いに行くのは辛いでしょう。これからだと樹養みたいになりかねない」 「と言ってもここにいる半分は樹養を知らないぞ」 「危うい場所にはもとからいたものが収拾するまでは持ったほうがいいでしょう?琉毅だって苦労しただろう?」 「中に入るまでが大変でしたね。この時期ですから弄らないほうがいいでしょう。落ち着いたら替えればいいことですし」 「芳や漣も確かそうだったよな?光月、喋ってもいいぞ」 「私の場合は玉突きで漣に行き、戻ってきましたので参考にはならないかと」 「おや、随分謙虚だね。とにかく、一連の騒ぎに目途がつくまでは人事は凍結してもらいたい。遣士に欠員が出たら補佐が埋める。補佐はそういうときのためにいるんだからな」 「では、戴の補佐は?」 「当面は陵崖に任せるしかないだろう。出来れば靖嵐か梅香を廻したいが今はそれも厳しい。何れどちらかを廻すということで」 「あるいは欠員が出たらそこの補佐に廻すと?」 「それはありえそうなことだな。補充要員では足りないからな。その辺りの人材はどうなんだ?玖嗄?」 「鋭意努力していますが…」 「当分出てきそうにないのか?」 「昨年の十八名でもやっとです。出色のものはそうはでませんからね。補佐連中が子を授からないと…」 「そのために順次呼び戻すのか?」 「遣士の皆さんが戻られるのでも」 「それはこの一件が終わってからだな。収束後に遣士の入れ替えもありえるかな?緋媛と玖嗄もでるか?」 「後任がおればすぐにでも」 「これがいますからすぐには…」 「え?それって役立たずって意味?」 「出るとなればあなたが補佐でしょ?意味わかるわね?」 「はい、すみません」 「とにかく、この一件が片付くまでは凍結の方向で。とりあえず雁国一声までとしますか?」 「他の国の状況にもよるだろう?範が逝ったらその辺りもキツイ」 「そうですね。連鎖的に厳しくなる国も出るでしょうし。範が傾けばうちも危ういわね」 「三百年も近いし?」 「出来るだけそれは意識しないようにはしてるんですが、こうなってくるとやはりね」 「当面は戴、そして範の動向に注意ですね。下手をすると芳や漣にも飛び火しかねない状況ですから」 「支えるのは慶と巧、奏がどうにかってところか?極国は側面支援くらいだからな」 「そこまで行かないように微力を尽くしましょう。他には何か?」 「いや、あの二人の意見も聞きたいな。ここでの意見ということでなくても」 「智照さんはこう仰ってますが、他の方は?」 「通部以外の思惑は知りたいですね。百年前みたいになったらどうするのかとか?」 「だそうです。すみませんが、お発言を」 「では天官府としての意見だが、ここの意見を尊重するつもりだ。五月蝿い連中も替わりに戴に行くかと言えば黙る。実際何か言ってきたらその連中を戴に飛ばすつもりでいるがね。他にも候補地が出来そうなので皆には面倒みてもらいたい。当面は仕方ないが諸君にも子を授かるよう努力してもらいたい。補佐が一日も速く遣士になれるように鍛えてもらいたい。くれぐれもうちの愚息のような真似にならないようお願いしたい」 「秋官府としては特に何もない。対外的な任務の重要性は理解してるつもりだ。だが、一段落したら国内にも注力したい。そのためにも補佐や補充の面々の底上げをしてもらいたい。一気には無理だが徐々に進めたいと思っている」 「当面は国内も?」 「厳しいがな。外に向いている間に足下を掬われたくない。不満の捌け口も何処かにないと困る」 「別に外で楽してるわけじゃないんですけどね。二三人で一つの国のあれこれを調べるのは並みじゃ無理なんですけどね。外の飯は上手そうに見えるんですかね?」 「一時期見習いに出てた連中は厭ってほどわかってると思うが、それでも不満は燻るものだ。一段落した頃に迷惑をかける」 「ということは速く逃げ出したもの勝ちってことですか?」 「別にそうは言ってない。忍耐強く、能力も抜きん出ている諸君のことだから問題ないと思っているが?」 「蘭桂、琉毅がびびってるぞ。余程酷いのをまわしたんじゃないのか?」 「さぁ?多分暁星の仕業でしょう。足手まといになりそうなのは征州にでも送りましょう」 「それって暁星が怒らないか?」 「一年前まで暁星がやっていたことです。自業自得ですね」 「…そんなに戴のことをあれこれ言われたのが厭だったのか?」 「…多少はあります。私の最初の任地でしたからね。とはいえ、名目だけで実質は翔岳に任せていたんですがね。当時は通部の三席というのがありませんでしたからね。今も三席というものはないようですが、上が抜けると困るでしょう?柴穏も緋媛が抜けたらどうなるか考えていると思うが、案外遠くはないと思っていて欲しい。遣士諸君もだ」 「玉突きですか?」 「趙駱、人事は秘をもってするものだ。その日に備えていないものなど金波宮には不要だというだけだな」 「肝に銘じておきます。ぬるま湯に安住するものは去れ、ですか」 「そういう気概がないものに眼を醒まさせるのが天官府の役割だ。劫火に飛び込むのは愚か者のすることだが、焚き火を怖がるようでは困る。その見極めができないものでは将来が不安になる。まぁ、今回のことは妥当な判断だと思うが」 「奏の補佐よりも戴の遣士を望むくらいでないといけないってことですね」 「どちらも重要だということだ。範もそうなるかも知れぬが、大国だった国を立て直すには相当に厳しい道のりが必要になる。戴がそうではないとはいわないが、規模的にはどうしても違ってくる。慶への影響も自ずと違う。そういうことだ」 「厳しいものですね。翠蘭はこれを乗り切れば啓鷹や彩香を凌ぐ存在にもなりえるわけですね」 「それについては私からは何もいえぬな。八国会議で検討すればよかろう」 「なるほど」 「では、他に?…ないようなら散会する。お疲れ様です」 「では、明日は別件かな?朱楓、どんなだ?」 「それについては明日にでも」 「そうだったな。では明日」 遣士たちは花庁から引き上げていく。残ったのは蘭桂と緋媛、玖嗄の三人である。 「反発は相当なもののようですね」 「大丈夫だ。替わりに行かせてやるが、と切り替えしてまともな答が来た試しがない。数日で沈黙したな」 「それでは不満がうちに篭りますでしょう?」 「春の除目ではそういう連中をあちこちに飛ばす。夕暉さんも了承済みだ。遣士たちの耳は相当に長いな」 「簡単に尻尾は出しませんよ。義父様の育てた方たちですから」 「智照さんだけは違うがな。殆んどが補佐で揉まれているだけに先読みが早い。そのうち金波宮に戻ってもらうがな」 「春陽さんなどは戻らないと思いますが?」 「それも仕方あるまい?金波宮よりも任地に長い人たちばかりだ。愛着も違う。だから良く働く」 「怖い意見ですね」 「楽俊さんほどじゃないさ」 蘭桂は薄い笑いを見せた。

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