NOB’s PAGE(別宅)

2006/05/09(火)12:44

捜査会議ってことになるのかな?

想像の小箱(「十二」?)(345)

「幕間狂言(その1)」 恭の遣士補佐・博耀は供王らと朱旌の小説『花朗陰陽』を観たが、『花朗陰陽』は卓郎君利広が宗麟を弑した逆賊で、数々の民を煽動する小説の作者の『閭黄』であることを暴露するものだった。供王は直ちに『花朗陰陽』の上演を禁止し、博耀に『花朗陰陽』の作者である『大兄』の探索を命じた。博耀は慶の官で供王の命に従う義務はないが、供王の命である方が都合が良く、『大兄』探索に必要な『花朗陰陽』の脚本や書簡などを押収するのに、朱旌たちは素直に従った。そもそも『大兄』とは長兄のことだが、大と言う字を持つ年長者という意味にも取れる。匪賊などでは首領格を大兄と呼ぶこともあり、仇名や通り名として極めてありふれたものだ。博耀は頭を抱えていたが、遣士の桃香は一人の人物を思い描いていた。それは宗王・秀絡の兄で交州の『櫨家飯店』の家公・大河である。大河は本来の意味での『大兄』である上、『櫨家飯店』は宗王秀絡にも屈しない謎を秘めている。かつて宗王が空位だった時期に孤児を集めて教育を施していた舎館で、その名の通り、前の宗王になにやら所縁がありそうだが、その辺りについては秀絡にすら大河は黙して語らない。秀絡からの教育機関としての協力要請もやんわりとだが拒絶している。宗王の実家でありながら、あるいは実家ゆえに独立不羈を貫いている。宗王も践祚してまだ五年で暗中模索の段階といえ、再三の協力要請を拒絶する交州の『櫨家飯店』と比べ、国都隆洽にある『櫨家飯店』の支店が遣士補佐の啓鷹を家公代理としてるせいもあり、秀絡に従順なので、交州にはいつしかあまり気を配らなくなっていた。桃香は博耀が押収した『花朗陰陽』の脚本を読むにつれて顔が強張り、博耀に尋ねた。 「博耀、朱旌はこの通りに演じていたの?」 「いえ、かなり端折っていました。私が観たのは最後のほうだけで、しかも台詞も半分くらいでした」 「…これを全部演じたなら供王も平静ではいられなかったでしょうね。やり取りが生々しいわ。しかも字で呼び合っている。供王からはわざと誤魔化している感じだったと聞いたけど」 「そうですね。楽俊さんは流石に出てきませんでしたが、他は一目で誰かわかる風貌でした。だから、字は呼んでいません。それだけでわかるようにしている感じでした」 「…玉蘭は大丈夫だった?」 「握り締めた拳が震えていました。おそらく何も知らなかったと思います」 「でしょうね。槙羅さんは口が堅かったから。私も白溪さんからの引継ぎまでは教えてもらえなかったし… 博耀は運がいいのかしら?」 「どうでしょう?『閭黄』については呉渡で習いましたが、その正体を知るのはこっちに来てからでよかったと思います。玉蘭や眞凌には言えませんから」 「誤魔化し方も身についてきたようね。私はこの『大兄』は宗王の兄の大河だと思うけど、どう思う?」 「…可能性は高いと思います。このことは芝草には?」 「そうね。先に金波宮に知らせて金波宮から流してもら貰うわ。この脚本を見て貰わないといけないし。康弼を芝草には遣るけど、『花朗陰陽』が『閭黄』伝らしいので注意されたし、詳報は後日、くらいね」 「智照さんが怒りませんかね?」 「重要度の問題よ。芝草を飛ばせば一日速く金波宮に行けるでしょ?早速行って頂戴」 「わかりました」 桃香は博耀を金波宮に向かわせるとともに康弼を芝草に遣った。麦玉蘭はまだ秦玉蘭とともに霜風宮にいるが明日にも紫陽に帰るだろう。そこから先については朱楓が考えるはずだ。おそらくは金波宮の詳報を待つのではないか?中途半端な情報はないほうがマシだ。少なくとも、『花朗陰陽』『閭黄』『大兄』という言葉への警戒はすぐに伝わるだろうが。実際、翌日芝草についた康弼が智照に会うと、あまりにも短い第一報をしばし熟考し、傍らの梅香に言った。 「急ぎだとは思うが、どう対処すべきだと思う?」 「範から向うは玉蘭さんから伝わると思いますので、芳に康弼から伝えて貰えばよろしいかと。関弓には寄って行きますので」 「博耀は関弓も寄らずに行ったみたいだからか?」 「はい。朱旌が小屋をかけるにしても今の時期なら堯天か傲霜か隆洽でしょう。この三つは博耀さんが行ったので大丈夫。関弓については玄英宮に注意喚起するくらいかと。芝草では少し警戒が必要かもしれませんが」 「大将の件か?」 「詳細はわかりませんが、『閭黄』伝ともなれば『小姐昇山』の件も関ってくるでしょう。となれば揺さぶりもあるやも」 「『花朗陰陽』は揺さぶりだと?」 「私は観ていませんが、『巧氏革命』や『憎半獣』などに似たような感じがします。『閭黄』は死んでいますが、その後継者がいたのでしょうか?」 「『大兄』というのもふざけた名前だな。朱旌の元締めを気取っているのか、単なる字なのか、どっちとも取れる。『櫨家飯店』の家公というのはありえそうか?」 「私は会ったことがありませんので。でも、噂ではありえそうにも思います」 「靖嵐からは何か聞いていないのか?」 「最近は隆洽は交州とは疎遠になっているようです。とはいえ、様子を窺うにも網が張り難いそうです」 「向うの方が一枚上手ってことか。こちらの知らない奴の方が多いらしいからな」 「隆洽の『櫨家飯店』からも筒抜けになりそうだとも言っていました」 「それは怖いな。向うが敵に廻ったら厄介なことになる。一応は宗王の実家だしな。何もなければいいが」 「そうですね。では、累燦さんには何か?」 「いや、私からは特にない。今から行くと金波宮は一日遅れか?けど、結論が出るのには間に合うだろうな」 「それほど難しいと?」 「あるいは傲霜に誰かを飛ばしてからにするかもしれない。それくらい微妙だな」 「では、関弓に寄らずに傲霜に行きましょうか?」 「それはちょっと僭越だろう。それに金波宮を素通りするのは良くないしな。関弓経由でいい」 「わかりました」 梅香は関弓を経て金波宮に向かったが、関弓を素通りして金波宮に向かった博耀は梅香よりも丸一日速く金波宮についていた。大司冦の光月は宗麟斬殺が起きた時、清漢宮にいて、その時のことはよく憶えているが、口にすることはない。博耀が押収した『花朗陰陽』の脚本は原本が一冊に上演用に簡易に書き換えられたもの十数冊で、金波宮についてすぐ状況について説明をしたが、『花朗陰陽』の脚本の原本の写しがないと話が進まない。そこで通部修部総出で夜を徹して写本を作らせた。同時に傲霜に簡易版の脚本一冊を持った連絡員が出された。準備が整うまで景王は簡易版を読んでいた。そこに書いてあったのは紛れもない事実だが、描かれ方はかなり歪曲されている。あたかも花朗、すなわち卓郎君利広が悲劇の主人公であるかのようだが、それは全く不当なものだといえよう。簡易版でもかなりの分量があり、原本はどうなのかと思いつつ、景王は蘭邸の花庁にやってきた。同じように簡易版を読んだ夕暉と蘭桂、光月の表情も硬い。緋媛や玖嗄は書写を指揮しながら原本を読んだようだ。それぞれの前におかれた原本に溜め息をついた時、花庁に滑り込んできたのは梅香であった。梅香は静かに末席に着いた。その隣には兄の靖嵐の姿もある。おそらくこの後、傲霜や隆洽に向かうのであろう。景王が眼で促したので博耀が口を開いた。 「三日ほど前連檣で『花朗陰陽』という小説が演じられました。たまたま初日に供王君と範の冢宰府侍郎、遣士補佐の玉蘭、および私が観に行ってました。これをご覧になった供王君は直ちに『花朗陰陽』の上演禁止と作者である『大兄』の探索を命じられました。なお、演じた朱旌たちは連檣に留められています。表向きは路銀ができるまで供王君の厚情で他の小説を演じることを許可されましたが、王師が彼らを監視しています。作者の『大兄』ですが、小屋主は面識がなく、脚本が送られてきたそうです。以前から何度か脚本が送られてきており、それを簡易版に直して演じていたそうです。今回も花になりそうなところを見繕ってまとめたものを上演していますが、その中には供王君の昇山の様子、泰台輔の探索の様子、宗台輔の弑逆の様子などが含まれています。なお、供王君の昇山の様子については『小姐昇山』と言う小説が有名ですが、それには出てこない犬狼真君も出てきます。供王君は犬狼真君と会ったことを卓郎君には話していないので、あるいは劉王君の遭難の時の剛氏が口を滑らしたのかと」 「その剛氏は黄海に行ったきりなのだな」 「はい。昨年の春分に黄海に入ったきり出てきていません。どうやら行方知れずになったようです」 「簡易版でもケッコウなものだったけど、原本の方は…」 「卓郎君の幼い頃から書かれています。前の宗王君が宗台輔に見出された時のことやら、他国の興亡の有様など、本音と建前を使い分けてかなり辛辣な意見も合わせて書かれています。その基底にあるのは常にどこかの国が斃れていること、それはいずれ斃れる国の民が黄海で苦労しないですむためのものであり、他国が斃れることに感謝せよというものです。他国の民が苦しみのあまり割旌し、黄朱の民となっているのは何れ自分たちの王が斃れた時のためなのだ、と謳っています。これはかつて『閭黄』の最後の時に主張したことと合致します」 「合致してるということはあの場にいた誰かの口から洩れたということか?」 「それはありえません。あの場にいたのは宗王君を始めとする櫨家の人々、すなわち蓬山で王位返上後身罷った人たちと槙羅さん、趙駱さん、そして私の三人だけです。私たち三人は主上と当時の冢宰・浩瀚さん、大司冦・蘭桂さん、通司の髪按さん、そして准司冦の楽俊さんにしかあの時のことは語っていません。その時の記録も楽俊さんが封印したと聞いています。『閭黄』の正体でさえそうですし、その時『閭黄』が語ったことをあれほど詳しく語ってはいません」 「槙羅さんはその娘である玉蘭にも話していなかったようです。観ていた時に握った拳が震えていました。自分が父親からも聞かされていないことをなぜ朱旌が演じているのだと思っていたようでした」 「私は麦州侯の引継ぎの時に槙羅と話をしたんだが、『閭黄』のことは誰にも話していないと言っていましたね。細君の翠心も通佐だから知っていたようですが、槙羅からは何も聞かされていないし、その子にも何も言っていないようでした」 「もちろん趙駱も何も言わないだろうし… では、どこから洩れたんだ?櫨家の方か?」 「はい。疑わしいのはそちらの方です。交州の『櫨家飯店』はかつては前の宗王君が舎館を営んでいたところです。そこに居ついた趙某は謎の人物ですし、その趙某が育てた二代目、三代目も謎に包まれています。その四代目の大河ですが、桃香さんも私も『大兄』ではないかと見ています。今の宗王君の兄に当たる人物ですが、清漢宮への協力を頑なに拒んでいるようです。確たる証拠もない時点でこのようなことを言うのもおかしなものですが」 「緋媛、その辺りはどうだ?」 「宗台輔が宗王君を探している時に大河の祖母の臨終に啓鷹が立ち会っていますが、大河が玉にならぬように育てたと言っています。このことも含めてなにやら秘術を行っていたのやもしれません。が、確証は何も」 「調べようがないのか?」 「調べようにもこちらの素性がすべて筒抜けでどうしようもないようです」 「隆洽の『櫨家飯店』か?」 「可能性は否定できません。が、協力関係を破棄することもできませんので」 「宗王君の機嫌も損ねかねないか。とすると隆洽に別の拠点が必要か?」 「それもまた難しいかと。とりあえずは向うの手の上で踊るしかないようです」 「ではどうするつもりだ?」 「傲霜から交州に向かわせるのも一つの手ですが…」 「…楽俊に考えさせるのか?」 「できましたら」 「靖嵐、厄介な役目のようだぞ。しっかり楽俊を働かせろ。緋媛、持たせてやる原本の写しの準備はできているのだろう?」 「はい」 「智照も首を長くしているだろう。緋媛、梅香にも渡してやれ」 「はい」 靖嵐と梅香はそれぞれ数部ずつ脚本の原本の写しを持って金波宮から飛び出していった。

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