【毎日開催】
15記事にいいね!で1ポイント
10秒滞在
いいね! --/--
おめでとうございます!
ミッションを達成しました。
※「ポイントを獲得する」ボタンを押すと広告が表示されます。
x

フリーページ

お気に入りブログ

アトランタの風に吹… まみむ♪さん

コメント新着

 NOB1960@ Re[1]:無理矢理持ち上げた結果が…(^^ゞ(10/11) Dr. Sさんへ どもども(^^ゞ パフォーマン…

カテゴリ

2008年04月01日
XML
「御簾の内」

緋色の髪に翠玉の瞳をもつ少女が文机に向かって唸っている。即位式への招待客を春官長に提示した時に思いっきり難色を示されたからだ。少女が示した招待客は三名、もしも都合がよろしければという延王君や延台輔の名が二番、三番目に書かれているのは良いとして、筆頭にある張清・楽俊という名前に春官長は首を捻った。少女からどういう人物か聞かされた春官長は軽侮を隠さず、「そういう者ですと即位式の壮麗さに畏縮してしまうのではないですか?」などと暗に呼ぶなと奏上したのだが、少女の方は即位式の方を簡素化しないといけないのだと受け止めたようだ。少女の脇に控えるこの国で唯一金色の髪をした青年は思わず溜め息を漏らしそうになった。

「景麒」
「はい」
「この射儀とはどんなものだ?」
「……」

青年は少女に式次第に書かれた文字を指しながら問われ、その文字からあることを想起して答えに窮した。が、どうにか答えを口にできた。

「…即位式や郊祀の際に行われるものですが、必ずしも行わなくてもよいものです」
「そうか、ではこれは外すことにしよう」

もちろん嘘ではないが決して正しくもない青年の応えに、少女は何の疑問も持たずに文机の上にある即位式の式次第に書かれた射儀の文字を朱筆で消した。少女は依然としてあれこれ苦心しているようだが、青年の方は射儀についての思い出に浸っていた。

  * * * * *

六年ほど前、青年は別の少女と共にあった。商家の娘でどうしてこの人がそうなのか青年にも分からなかったが、少女の方も青年に選ばれたことに困惑しており、相談役として妹を連れてきていた。そして居並ぶ諸官に畏縮し、即位式も鬱々として迎えたが、唯一射儀を楽しみにしていた。悧王の時代を知っている春官長が「近年は地味に感じるものの、あの折りは壮麗な調べと彩りに満ち溢れていました」と奏上したからだ。内気な少女なだけにはしゃいだりはしなかったものの、期待に満ち満ちており、最初の陶鵲が空に打ち出された時はその美しさに感嘆したくらいだが、それが矢に射られ、無残に散った瞬間、その表情が凍ってしまった。居並ぶ官吏は少女のことよりも射儀の出来栄えに興味が向いており、唯一少女の異変を感じたのは青年だけだった。次々と射落される陶鵲に今にも泣き出しそうな表情で青年を見つめた少女。青年にできることは小さく首を振ってそのままその場にとどまるように示すだけだった。すべてが終わった後、少女は「なぜあんな残酷なものを見なくてはいけないの?二度と見たくはないわ」と泣きだす始末。少女の妹は姉の代わりに射儀の責任者を呼び出し、叱責した。青年もまた「主上はとても傷ついておられる」と言い渡した。もちろん表向きは少女直々に言葉がかけられたということで責任者には誉れになっただろうが、それ以後射儀が行われることはなかった。

  * * * * *

即位式の際に行われなかった射儀も郊祀の際には行われることになった。再びあのようなものを見せられると思うと青年の眉間の皺は深くなるばかりだった。そのようなことにも気付かぬ緋色の髪の少女は青年に声をかけた。

「景麒は前も見ているんだよな?」
「…はい」
「どういうものなんだ?」
「…惨いものです」
「惨い?」
「…ええ」

青年の応えに少女の方も眉間に皺を寄せている。が、いざ射儀が始まってみるとその皺は消え、驚きに翠玉のような眼が見開かれた。青年もまた怪訝な顔をしている。少女は声もなく見入っていた。射儀が終わり、余韻に浸っていた少女の前に夏官長がやってきてご機嫌伺いをした。射儀は夏官の管轄であるからだ。

「いかがでしたでしょうか」
「…ああ、奇麗なものだな」
「…では羅氏にお声を」
「羅氏?」
「あれを作ったものです。確か予王もお声をかけておられたとか」
「そうか。ではそうしよう」

この受け答えを青年は複雑な思いで聞いていた。何かを問いかけるような翠玉の瞳に青年の口は答えていた。

「その折りは余人を交えずにお言葉をかけておられました」
「そうか…ではそうしよう」
「もちろん使令は控えさせておりましたが」
「わかった」

もちろんこれも嘘ではない。妹が姉を振りをしていたのだから余人を置くわけにいかなかったのだ。使令もこの事実を隠すために配していたのだ。羅氏が呼び出され、御簾越しに言葉をかけることになった。身分の低いものとは言え夏官である。何か間違いがあっては拙いと班渠と驃騎を遁甲させ、少女には冗祐をつけてある。少女は躊躇いがちに言葉を紡ぐ。

「…申し訳ない。わざわざ来てもらったが、実を言うと、何をどう言えばいいのか分からない。ただ…胸が痛むほど美しかった。忘れがたいものを見せてもらった。…礼を言う」

御簾の向うでは羅氏が感極まったように礼を言っている。少女は言葉をつづけた。

「次の機会を楽しみにしている…できれば一人で見てみたかったな。鬱陶しい御簾などあげて」

この言葉に青年は目を剥いた。青年の心の揺れに班渠と驃騎は遁甲しつつも肩をすくめ溜め息をつきたくなった。冗祐は青年の思念を感じ、少女が言葉を続けている間にその顔を青年の方に向けた。

「もっと小規模でいいから、私だけが見ても構わないか?」

と少女は言うつもりだったが、冗祐は少女の身体を制御し、青年の顔を見せ、密かに少女の頭の中で囁いた。

(言葉に注意してください。下手をするとあの羅氏の命が)

この言葉に少女は焦った。そして言葉を変えた。

「もっと小規模でいいから、私と…あなただけで」

そしてにっこりと青年に向かって微笑みかけた。もちろん御簾の向うにいる羅氏にはこの言葉は自分に向かってかけられたものだと通じるだろう。しかし、御簾のこちら側では全く違った意味になっている。少女の微笑みに青年は表情を変えた風はない。が、その眉間に刻まれた皺の深さがやや浅くなったようだ。羅氏が下がった後も青年は特に何を言うでもなく少女の前から下がった。青年がいなくなってから班渠と驃騎は姿を現し、あからさまにホッとした素振りを見せ、冗祐に声をかけた。

「冗祐、よくやったな」
「ああ、いつあの羅氏を食い殺せと言われるかとひやひやしてたぞ」
「…そ、そうなのか?」
「ああ見えても嫉妬深いので」

少女の疑問に三人(?)の使令は声を揃えて応えた。少女は大きな溜め息を吐きだした。そして急に不安になった。

「羅氏は大丈夫なのか?」
「ええ、大丈夫です」
「欣喜雀躍してましたよ」
「…あれでか?」

少女は呆れかえっていた。





お気に入りの記事を「いいね!」で応援しよう

最終更新日  2008年04月01日 14時10分35秒
コメント(1) | コメントを書く
[想像の小箱(「十二」?)] カテゴリの最新記事


■コメント

お名前
タイトル
メッセージ
画像認証
別の画像を表示
上の画像で表示されている数字を入力して下さい。


利用規約に同意してコメントを
※コメントに関するよくある質問は、こちらをご確認ください。


 Re:特別企画※ネタバレ注意!!(04/01)   NOB1960 さん
いつもとテイストが違いますのでご注意を!
…ってここに書いても手遅れか?(^^ゞ (2008年04月01日 14時46分28秒)

PR


© Rakuten Group, Inc.