絶唱(2)
友が逝って四年になる今夏、クワウンナイ川を訪れた。
クワウンナイ川はトムラウシ山に源流を有し、天人峡で忠別川と合流後、更に旭川で石狩川と合流し、大河となって海に注ぐ。クワウンナイ川を遡行して、夏でも雪渓が残る源流一帯を抜け、大雪山から延々と連なる稜線に登り詰めると広大なお花畑になる。
天人峡温泉でバスを降り、来た道を少し戻るとクワウンナイ川の入口だった。そこには登山禁止の標識が立てられていた。友が遭難してからだと地元の人が教えてくれた。
友が流されたクワウンナイ川に手を差し入れた。冷たい水だった。大きいザックを背負い、この川を遡行する友の姿が浮かんできた。振り向いた友は、満面の笑顔だった。瞳は子供のようにキラキラと輝いていた。
《あなたの瞳には、この大雪山山系のたおやかな峰々と、海外青年協力隊に勤務するご子息の赴任地、ケニアに聳えるキリマンジェロが、いつも映っていたのですね。》
そうつぶやくのがやっとだった。
《文集を出そう、友の生きていた証しの文集を。さわやかに、そして、ひたむきに生きた友を深く心に刻み込むためにも。》
1998.09.19