東京は淋しかったんか!ここが君の育った故郷!
白 山 へ ( 24) 母衣崎健吾 第4章 (3)友よ!なぜ死に急いだ! 翌朝、バスで出発し、昨夜聞いた停留所で降りた。付近には一面田んぼが広がっていた。その尽きるところに数軒の家が見えた。一番近くの軒先で、家を尋ねようとしたら、中学生ぐらいの娘さんが出て来て、すぐに引っ込んだ。入れ替わりにその子の母親らしい人が出て来た。私から声を掛けようとすると、 「昨日電話してくれたお人か。よう遠いところに来てくれて」 恐縮するほど頭を下げた。《ここが友が育った家か》感情が高ぶってきて、玄関先で立ち竦んでいた。 「さあ、早う上がっておくれ」 友が高校を出るまで過ごした軒を潜り、友の遺影が安置された部屋に通された。東京でお別れした時の遺影が祭壇に立て掛けられていた。生きている時そのままの微笑んだ姿がそこにあった。祭壇には香が立ち昇り、佇まいはすっかり整えられていた 「君と話がしたくて、ね、…」 そう言うのがやっとだった。 いつのまにか父親と弟が傍に来て、一緒に手を合わせてくれた。 「こんなに大切にしてくれる両親や弟妹がいるのに、どうして…。」 笑っている友に新たな悲しみが募ってきた。涙を見せまいと席を外して縁側に出ると、ザボンがたわわに実っていた。 「お墓をお参りしたいのですが」 とお願いすると、先ほどの娘さんが道案内をしてくれた。 畦道を抜けて家の裏手の高台に着いた。 「ここです」 と言ってすぐに立ち去った。私に気を利かせてくれたのだろう。真新しい墓標が建っていたので,すぐそれだとわかった。 どれくらい時間が経っただろう。立ち上がって墓標の向いている方角を振り向いた。 「あっ」 田んぼの濃い緑の原が尽きたその先に悠然と流れる大河の淡い緑の水面がはっきり見て取れた。友が東京に上京するまで何時も見てきたであろう風景がそこに広がっていた。 「東京の生活は淋しかったんか。ここに帰りたかったんか」 救ってやれなかった後悔の念が私を責めた。 友の弟が、どうしても駅まで送らせて、というのでお願いした。特急列車に間に合った。列車が動き出すと、友の弟はホームに立って、私に向かって千切れるくらいにいつまでも手を振っていた。