S・S・ヴァン・ダイン(日暮雅通訳)『僧正殺人事件』
S・S・ヴァン・ダイン(日暮雅通訳)『僧正殺人事件』~創元推理文庫、2010年~ (S. S. Van Dine, The Bishop Murder Case, 1929) マザー・グースの見立て殺人という、ヴァン・ダインの非常に有名な長編です。 それでは、簡単に内容紹介と感想を。 ――― 著名な物理数学者ディラードの邸宅脇のアーチェリー練習場で、矢が刺さった一人の男の死体が発見された。男の名はコクレーン・ロビン。同じ場にいた男は、スパーリング。ドイツ語で、スズメを意味する名だった。この状況は、「だあれが殺したコック・ロビン? 「それは私」とスズメが言った―「私の弓と矢でもって コック・ロビンを殺したの」」という、マザー・グースの童謡そっくりだった。 地方検事マーカムから事件の知らせを受けた素人探偵ファイロ・ヴァンスは、この事件に非常に興味を持ち、助言役として警察の捜査に協力する。 ディラード家には、多くの数学者が出入りしていた。ディラードの弟子のアーネッソンは、毒舌が過ぎる部分があるが、調査に協力したいと申し出る。近所のドラッカーは、幼少時の事故がきっかけで、母が通常ないほどに愛情を注いでいた。また、チェスの定石を発明したパーディーは、ドラッカーと反目しあっていた。 事件の後、コック・ロビンの童謡、そして僧正bishopの署名をもつ手紙がマスコミに届けられ、世間はこの事件に大きな関心を寄せる。 そしてロビン殺害の犯人と目された人物は逮捕されるが、その後も僧正による事件は繰り返されることになる。 ――― これは面白かったです。 解説の山口雅也さんによれば、本作はいわゆる見立て殺人の先駆的な作品とのことです。横溝正史さんの『悪魔の手毬歌』など、日本でも多くの作品に影響に与えている作品ということですが、さすがに、構成も見立ての意味も推理の過程も、どれも面白く、わくわくしながら読み進めました。 現在、創元推理文庫から「S・S・ヴァン・ダイン全集」として、新訳でヴァン・ダインの著作の刊行が進められているようです。本書刊行の後は、ファイロ・ヴァンスシリーズ第一作の『ベンスン殺人事件』が刊行されているだけのようですが、今後の出版が楽しみです。・海外の作家一覧へ