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のぽねこミステリ館

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2021.10.27
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アローン・Ya・グレーヴィチ(中沢敦夫訳)『同時代人の見た中世ヨーロッパ―13世紀の例話―』
~平凡社、1995年~


 著者のグレーヴィチ(1924-2006。没年はWikipedia参照)は、中世の民衆文化などの研究で著名な歴史家です。
 本書は、「例話」という史料を中心に、中世ヨーロッパの文化、ものの考え方などを論じます。
 本書の構成は次のとおりです。

―――

第1章 例話―文学ジャンルと思考様式
第2章 生者の世界と死者の世界
第3章 「大きな」終末と「小さな終末」
第4章 オータンのサン・ラザール大聖堂の西側扉口と中世意識のパラドックス
第5章 「煉獄の誕生」
第6章 「罪の宗教」
第7章 魂と肉体
第8章 説教と社会批判
第9章 女性、家族、性、あるいは男性の文化
10章 敵―異端者と異教徒

11章 リアリズムか
12章 心理学的概説、あるいはむすびにかえて

訳者あとがき
原注
―――

 例話の定義は、ジャック・ル・ゴフによる次の定義がほぼ定説となっています。「実話としてあたえられ、聴衆を救済するための教訓を垂れることを目的として、説教などの際に話される短い物語」(本書30頁の引用による)。古代の伝記や聖人伝などを題材にした話、イソップ寓話などの寓話や、動物寓話集などから引かれた話など、読んでいて抜群に面白い史料類型で、私もかれこれ20年近く例話や説教について(細々と)勉強を続けています。とまれ、例話には、「作者」が実際に見たり聞いたりしたという話もあり、本書で引用される例話は主にこの類型となっています。
 例話には、様々な物語がありますが、グレーヴィチは特に、その中でも悪魔や天使が登場したり、死者が煉獄や地獄から帰ってきたりするような、この世と異なる世界との「ふたつの世界の対立」が繰り広げられる点を強調します。
 例話の中では、聖者やキリストも怒ったりしますし、逆に悪魔も両義的です。たとえば、ある悪霊が人間にとりついて、聖書の内容を語った、という例話があります。なぜかと問われた悪霊は、「聴衆を害するためにやっておるのだ。というのも、真理を耳にしても、これらをちゃんと実行しない者は、それ以前より悪しき者になるのだから」(53)

 面白い例話がありすぎて、挙げればきりがないので、あとは要点だけメモしておきます。
 第1章は、こうした様々な例話の紹介(農民の風習を描くものなど、とにかく面白い事例が豊富です)。
 第2章は、主に死者が登場する例話から、生者のとりなしの重要性などを示します。
 第3章・第4章では、最後の審判はずっと未来のはずなのに、死後すぐに人間が天国、地獄、あるいは煉獄に行ったりすることを取り上げ、いわば死後すぐに審判がなされているのではないか、という矛盾を分析します(これをグレーヴィチは「大きな終末」と「小さな終末」と呼びます)。当時の学者たちも、見解がやや混乱していたことが、具体的な例話の分析から示されます。
 第5章は12世紀頃に「誕生」したとされる煉獄にまつわる例話の分析。
 第6章は、告解の重要性を説く物語などを分析します。
 第7章はとばして、第8章は様々な社会階層が登場する例話の分析。騎士、富者、農民、高利貸し、聖職者など、あらゆる社会階層が批判の的となっていたことを示します。
 第9章は標題通り女性や家族を扱う例話の分析を行います。
 第10章は、ムスリム、ユダヤ人、異端者が登場する例話の分析。彼らが悪とだけ描かれるわけではなく、時にだらしないキリスト教徒への批判を際立たせる存在としても描かれている点が、かねてより興味深く思っています。
 第11章は、例話には具体的な風習などが描かれていますが、どこまで「リアリズム」か、という問題を論じ、第12章は個性、信仰などの問題を論じたのち、全体の総括を行います。
 個人的には、卒論のテーマを決めるのに決定的な役割を果たした、思い入れの深い1冊です。
 上にも何度か書きましたが、とにかく例話がそれだけで抜群に面白い史料ですので、例話を豊富に引用しながら分析を進める本書もまた、とにかく読んでいて面白いです。
 また、注に掲載されている文献についても、(本書刊行当時)邦訳があるものについては当該邦訳書の情報も補足してくれていたり、ロシア語の研究については邦訳で意味を示してくれたりと、訳書として非常に丁寧なつくりですし、訳文もとても読みやすいです。
(あえてないものねだりをすれば、索引があればもっと助かります。)
 久々に全体を通読しましたが、あらためて勉強になりました。

(2021.08.07読了)

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Last updated  2021.10.27 23:01:23
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2021.10.24

坂口安吾『白痴・二流の人』
~角川文庫、1970年~


 坂口安吾さんのデビュー作「木枯の酒倉から」を含む短編集。8編の作品が収録されています。

「木枯の酒倉から」禁酒を誓った男の奇妙な電動を描きます。
「風博士」は、蛸博士に復讐を誓う風博士の話。結婚式の当日の博士の行動とは。
「紫大納言」好色の紫大納言が、月の姫の侍女がうっかり落とした小笛を拾います。侍女の美しさに、彼女を引き留めるためあれこれ理由をつけますが、そんな折、その頃有名になっていた盗賊団に襲われて…。
「真珠」真珠湾に向かった9人に呼び掛ける体裁の私小説。
「二流の人」秀吉、家康の時代に生きた、優れた戦略に長けた黒田如水が主人公の歴史小説。
「白痴」主人公の伊沢の隣家に、変わった家族が住んでいました。主人の妻は白痴のようで、コミュニケーションもとりにくい女性でしたが、ある日、伊沢の家に潜んでいて…。戦時中のある一コマを描きます。
「風と光と二十の私と」小学校の代用教員をしていた頃を描く私小説。
「青鬼の褌を洗う女」オメカケ気質の「私」が主人公の物語。(読了から時間が経ってしまい、ろくに紹介が書けないのが残念です。)

 と、バラエティ豊かな作品集となっています。

表題作のうち、「二流の人」はあまりぴんときませんでしたが、「白痴」は割と好みの物語でした。その他、「紫大納言」「風と光と二十の私と」の2作も面白かったです。「風博士」はかなりパンチの効いた作品で、こちらも好みでした。
 坂口安吾さんの作品を読むのは初めてですが、「坂口安吾―人と作品」(奥野建男)や詳細な年譜も付されていて、興味深く読みました。

(2021.07.31読了)

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Last updated  2021.10.24 12:03:18
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2021.10.20


後藤里菜『〈叫び〉の中世―キリスト教世界における救い・罪・霊性―』
~名古屋大学出版会、2021年~


 著者の後藤先生は立教大学などで非常勤講師をつとめていらっしゃいます。
 2012年開催の西洋中世学会でのポスターセッションで後藤先生のご発表を拝聴する機会があったのですが、敬虔な生活を送る女性たちと〈叫び〉の関係を論じるという興味深いテーマで、印象に残っていました。その後も、『思想』1111号(2016年)に「中世キリスト教世界の〈叫び〉―都市に生きる女性宗教家を中心に―」(42-64頁)という論考を興味深く読んでいました。
 本書は、そんな後藤先生の博士論文をもとに、いくつかの書下ろしも含めて加筆修正がなされた一冊です。
 本書の構成は次のとおりです。

―――
はじめに
第1章 救いの叫び、罪の叫び
 A 日常的信心業、聖なる世界との繋がりにおける〈叫び〉
 B 悪魔と罪人の〈叫び〉
 結び
補論1 中世の音楽と〈叫び〉
第2章 「敬虔な女性たち」の叫び―新たな聖なる〈叫び〉」の展開
 A 盛期中世以降の〈霊性〉の展開と「敬虔な女性たち」の台頭
 B 新たな〈霊性〉と「聖なる〈叫び〉」の変容
 結び
補論2 感情の〈叫び〉を追って
第3章 集団的宗教運動と〈叫び〉
 A 十字軍運動の中の一般信徒―神の〈叫び〉、神への〈叫び〉
 B アレルヤ運動、鞭打ち苦行運動―〈身体〉の宗教運動と〈叫び〉のゆくえ:13世紀から14世紀
 C ジェズアーティ会の運動とビアンキ運動―〈救い〉への「過程」となる〈叫び〉の展開:14世紀後半
 結び
補論3 絵画から見る世俗の〈叫び〉
おわりに

あとがき

参考文献
索引
―――

 第1章が一般的な人々の叫び、第2章が敬虔な女性たちの叫び、第3章が集団的宗教運動の中での叫びを扱い、それぞれの中にも様々な種類があることや、そして社会の中で叫びが持つ意味を明らかにする、非常に興味深い1冊です。
 第1章では、修道士の心の中での祈りも「叫び」と称されたが、修道士が実際に大きな声で叫ぶことは否定的にみられていた一方、俗人は救いを求めて実際に大きな声で叫ぶことも許容されたという対比が説得的に示されたり、エクセンプラ(例話集)、異界探訪譚などの史料から地獄での叫びや聖人への叫びなどを抽出しその意味が論じられたりと、興味深く読みました。
 第2章は、私も関心を持っているジャック・ド・ヴィトリ(本書ではヴィトリーのヤコブスと表記。1260頃~1240年)が著した『ワニ―の聖マリ伝』などの聖女伝を主な史料として、敬虔な女性たちの叫びを分析します。ここでは、マルガレータ・エーブナーという人物に見られるように、聖性の欠如や過多に反応して日常的に泣き叫ぶことが、最終的な天国の喜びに満たされた沈黙に至るまでの「過程」として描かれているという指摘が興味深かったです。その他、神を求めての叫び、自分の罪を悔いての叫び、神から与えられた叫びなど、様々な種類の叫びについて論じられます。
 第3章は、十字軍運動などの宗教運動の中に見られる叫びを扱います。ここでは、いくつかの文献で目にしていた「アレルヤ運動」についての概観が得られたのが嬉しかったです。邦語ではほとんど紹介がないのでは、と思われます(少なくとも該当部分の註に邦語文献は挙げられていません)。1233年、ベネデットという俗人の呼びかけで展開した平和運動で、集団での行列とそれを受け(あるいは利用して)展開された巡歴説教師による平和運動をあわせて、こう呼ばれるとのこと。また、池上俊一『ヨーロッパ中世の宗教運動』でも詳細に論じられている少年十字軍や鞭打ち苦行運動について、「叫び」の観点から論じられているのも興味深いです。
 また、書籍化にあたり書き下ろされたという補論も面白いです。特に補論3では、以前から気になっていた泣き女について、(私が読んできた中では)やや詳しい説明がなされていて、今後の勉強の手掛かりになります。ありがたいです。補論2では、近年紹介が進んでいる感情史と本研究の連結もなされていて、こちらも勉強になります。
 以上、自身の関心に引き寄せた簡単な紹介となってしまいましたが、たいへん興味深く読みました。

(2021.10.12読了)

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Last updated  2021.10.20 22:41:57
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2021.10.16

川端康成『千羽鶴』
~新潮文庫、1967年~


 川端康成さんによる長編小説です。

それでは、簡単に内容紹介と感想を。

―――
 亡き父の情人だったちか子主催の茶会に誘われ、その場を訪れた菊治は、二人の令嬢と出会う。桃色のちりめんに白の千羽鶴の風呂敷を持った令嬢を、特に美しく思ったが、その令嬢―稲村令嬢を、ちか子は菊治に紹介しようとしていた。
 茶会には、同じく父の情人だった太田夫人とその娘も参加していた。ちか子は太田夫人を毛嫌いしており、露骨に稲村令嬢が菊治にお茶をたてるようにするなど、菊治にはいたたまれないような時間となった。
 お茶会を終えた後、菊治は太田夫人と話をする。そのまま二人は、宿で一夜を明かすことになってしまい…。 
―――

 図々しく屋敷に入ってきて茶室を整えるちか子さんへの反発や、稲村令嬢への思い、太田夫人への独特の思いやその娘への罪悪感など、菊治さんの様々な感情が描かれていきます。
 前回読んだ​『みずうみ』​よりは読みやすかったです。

(2021.07.23読了)

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Last updated  2021.10.16 13:32:55
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2021.10.14


川端康成『みずうみ』
~新潮文庫、1991年(改版)~


 川端康成さんによる長編小説です。

 主人公の桃井銀平は、気になった女性のあとをつけてしまいます。
 ある日、つけていた女性にハンドバックをぶつけられ、返そうとするも女性は逃げてしまいます。銀平は、ハンドバックに大金が入っているのを確認し、その大金を持って逃亡します。
 そしてトルコ風呂で、声の美しい女性のマッサージを受けながら、過去の様々なこと―母の里のみずうみ、いとこの女性との関係、教師時代に教え子と持った関係など―を思い出していきます。
 犬の散歩をしていた女性にも惹かれ、そのあとをつけていくのですが…。

 中村真一郎さんによる解説がわかりやすいのですが、本作は、銀平さんの一人称で物語が進行するというより、なにかのきっかけで思い出す過去のエピソードや空想が、つまり銀平さんの「意識の流れ」が描かれます。なんとも不思議な物語です。
 発表当時はなかなか衝撃的で、解説によれば、「それまでの川端文学の追随者たち、理解者たちの何人もが、この新作に接して困惑し、嫌悪を表明した」(150)とのことです。

(2021.07.19読了)

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Last updated  2021.10.14 23:13:52
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2021.10.09


図師宣忠『エーコ『薔薇の名前』―迷宮をめぐる<はてしない物語―』
~慶応義塾大学出版会、2021年~


 著者の図師先生は近畿大学文芸学部准教授。中世の、主に南仏の歴史を専門とされています。
 私の手元には次の論文があります。
・「中世南フランスにおける誓約の場―トゥールーズ伯領のフランス王領への編入から―」『都市文化研究』42004年、73-86
・「マニュスクリプトの「旅」―大英図書館に眠る中世南フランスの異端審問記録―」『都市文化研究』52005年、84-87
・「中世盛期トゥールーズにおけるカルチュレールの編纂と都市の法文化」『史林』90-22007年、30-62
・「13世紀都市トゥールーズにおける「異端」の抑圧と文書利用―王権・都市・異端審問の対立と交渉の諸相―」『史林』95-12012年、74-109
・「西欧中世におけるキリスト教の異端」『歴史と地理 世界史の研究』2472016年、43-46
 以上のように、異端などのテーマについて、特に文書利用といった観点からの興味深い研究を進めていらっしゃいます。
 また、​ジャイルズ・コンスタブル(高山博監訳/小澤実ほか訳)『十二世紀宗教改革―修道制の刷新と西洋中世社会―』慶応大学出版会、2014​の訳者の一人でもいらっしゃいます。
 さて、本書は、記号学者ウンベルト・エーコの小説のデビュー作『薔薇の名前』(​​・​​)を取り上げ、そこから見えてくる中世世界を描くとともに、エーコの試みの意義などを指摘する興味深い一冊です。
 本書の構成は次のとおりです。

―――

I 『薔薇の名前』の舞台
II
 『薔薇の名前』の構造
III
『薔薇の名前』の世界への鍵

参考文献
あとがき
図版出典一覧
―――

 第I章は、『薔薇の名前』のストーリーを追いながら、関連する歴史的背景(異端、托鉢修道会、『聖ベネディクトの戒律』など)を描きます。ストーリーの理解に深みを与えてくれます。
 第II章は、『薔薇の名前』をさらに深く読み解きます。各登場人物や舞台の背景を論じます。
 第III章は、写本、眼鏡、読書の歴史、異端問題、中世の文書利用など、『薔薇の名前』を読み解くうえで鍵となる中世ヨーロッパをいくつかの角度から照らします(139頁)。
 ごく簡単なメモになってしまいましたが、以上のように、西洋中世学の知見から、『薔薇の名前』を読み解く(あるいは逆に、『薔薇の名前』を中心に西洋ヨーロッパの諸相を描く)興味深い一冊です。

(2021.07.18読了)

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Last updated  2021.10.09 12:41:27
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2021.10.06

黒田研二『ウェディング・ドレス』
~講談社ノベルス、2000年~


 第16回メフィスト賞受賞作。黒田研二さんのデビュー作の長編です。
 それでは、簡単に内容紹介と感想を。

―――
 ユウ君から結婚を申し込まれた私だが、結婚式の日、事件は起こる。
 指輪を忘れてしまったと取りに帰ったユウ君がいつまで経っても教会に戻ってこない。心配になった私に連絡が入り、ユウ君が電車に轢かれてしまったという。彼の会社の同僚を名乗る人物に病院に送ってもらおうとするが、彼らは病院には行かず、私を粗末な小屋に連れていき乱暴する。
 私は、ユウ君への復讐を決意する。私を尾行する男たちの目的は。彼の関係会社にある「特別事業部」の秘密とは。友人たちの協力を得ながら、真相に近づこうとするが…。
―――

 という「私」パートと、ユウ君が一人称のパートの2つが交互に語られ、物語は奇妙な違和感を見せながら進んでいきます。その違和感が解消され、真相が示される終盤のすごさが読みどころです。
 久々の再読で、大きな仕掛けは印象に残っていましたが、あらためて驚きを感じられる部分もあり、面白かったです。

(2021.07.15読了)

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Last updated  2021.10.06 22:40:45
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2021.10.03


滝浦真人『新しい言語学―心理と社会から見る人間の学―』
~放送大学教育振興会、2018年~


 放送大学教材です。以前読んだ、​高橋英光『言葉のしくみ―認知言語学のはなし―』北海道大学出版会、2010​が面白かったこともあり、あらためて言語学にとっつきやすそうな本書を手に取ってみました。
 本書の構成は次のとおりです。

―――
まえがき(滝浦真人)
1 なぜ「新しい言語学」か?―新旧の違い―(滝浦真人)
2 認知言語学(1)―事態の捉え方と言語表現―(森雄一)
3 認知言語学(2)―比喩―(森雄一)
4 認知言語学(3)―カテゴリー化、多義語と意味変化、文法化―(森雄一)
5 認知言語学(4)―認知言語学と命名論―(森雄一)
6 言語習得論(1)―母語の習得と臨界期―(松井智子)
7 言語習得論(2)―概念の獲得と語彙学習―(松井智子)
8 言語習得論(3)―多言語環境における言語習得―(松井智子)

9 語用論(1)―言外の意味とコミュニケーション―(滝浦真人)
10
 語用論(2)―意味論から語用論へ―(滝浦真人)
11
 語用論(3)―日本語の語用論―(滝浦真人)
12
 談話分析―話しことばの連なりから見えてくること―(熊谷智子)
13
 社会言語学(1)―社会におけることばのバリエーション―(熊谷智子)
14
 社会言語学(2)―ことばの変化、ことばへの意識―(熊谷智子)
15
 心理と社会から見る人間の学(滝浦真人)

索引
―――

 第1章は言語学の研究史。ソシュールとその影響による「構造主義」、ヤーコブソンの音韻論、チョムスキーの生成文法といった言語そのものに焦点を当てた研究を「旧言語学」と整理し、人間の心理、認知、社会との関係を重視する動向を「新しい言語学」とします。
 第2~5章は認知言語学の概説。第2章は「が」や「に・て」の使い方、受動態の使い方など、事態の捉え方から言語表現の在り方を見ます。第3章は比喩表現について(先述の『言葉のしくみ』の記事も参照)。面白いのは、「~のようだ」と比喩であることを示す標識を含む直喩(シミリー)の優位点を指摘する部分で、「君は豆腐だ」と言われても意味不明ですが、「君は豆腐のようだ」と言われると、なにかたとえようとしていることは分かる。というんで、標識に支えられて思い切った飛躍ができる、というのですね(42頁)。第4章で興味深かったのはカテゴリー化についての議論で、「ツバメも一応鳥だ」はおかしいですが、「ペンギンも一応鳥だ」はあまり違和感がない。このように、典型例の有無による認識について紹介されます。第5章の命名論では、「表示性」と「表現性」という概念が紹介されます。たとえば犬を「ポチ」と名付けるのは表示性(名前だけで犬とイメージしやすい)、「ゴーゴリ」と名付けるのは表現性が強い(名前だけでは何かイメージできないが印象に残る)、というのですね。
 第6~8章は主に子どもが言語を獲得する過程についての議論です。面白かったのは、確信的な話し方(これは〇〇だよ)と確信度が低い話し方(これは〇〇かな)を聞かせると、確信度の高い話し方の方を信じるようになる、という事例です。また、第8章では、外国語学習をあわてて行うことにはデメリットもあることが指摘されます。
 第9~11章の「語用論」は、「人が言葉を用いて何を為すか」を問う領域です。第9章では言外のコミュニケーションが扱われます。たとえば、「暑いですね」の言葉に「エアコンつけましょうか」と返すのは、意味というよりも発話者の「意図」を汲んでの返事です。また、グライスという研究者が提唱した4つの原則(必要なだけの情報量、真なることの発言、関連性をもって話す、簡潔に順序だてて話す)を紹介したうえで、実際にはこの原則からの逸脱で多くの会話が成り立つことを指摘します(「優しい嘘」など)。第10章はオースティンが提唱した「発話行為論」を取り上げ、批判も加えながら実際の在り方を論じます。第11章では「よろしかったでしょうか」のような対人配慮の「た」などの「た」の用法についての興味深い議論や、対人配慮、タメ語と敬語についてなどが紹介されます。本書の中で「語用論」は特に興味深かったテーマの1つです。
 第12章は会話の在り方の分析、第1314章の「社会言語学」では方言や若者言葉などの集団語や、流行語などについて論じます。
 第15章は本書全体の明快なまとめとなっています。
 と、各章について簡単にメモとなりましたが、全体として面白く読みました。

(2021.07.07読了)

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Last updated  2021.10.03 12:09:00
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2021.09.29

黒田研二『ペルソナ探偵』
~講談社ノベルス、2000年~

 黒田研二さんによるノンシリーズの長編。デビュー後第二作目の作品です。

 作家を志す6人の男女が参加する<星の海☆チャットルーム>には、主催者を除き、それぞれの本名、連絡先を一切知らないというルールがありました。星の名前をハンドルネームとして、彼らは率直に感想を言い合える、というわけです。
 そんなメンバーの何名かが、それぞれ事件(?)に巻き込まれます。スピカは、人気バンドのライブに行くためにお金がほしいと思っていると、ある探偵事務所のスイッチを押すだけで高額のバイト料を払う、という奇妙な依頼を受けます。友人ととともに引き受けるスピカですが、その後に思わぬ事件がまっていました。
 アンタレスは、演劇サークルのメンバーと山で「殺人ごっこ」を行います。自身が殺人者役となったアンタレスですが、他のメンバーは怪しい男を山で目撃していて…。
 カペラは、浮気の後、失踪していた夫が、浮気相手に殺されたことを確信し、辺鄙な駅におりたち、相手のもとを訪れます。しかし相手は、夫の遺した手記の矛盾点を指摘し、犯行を否定するのでした。
 彼らは事件に巻き込まれる中で、ときおりチャットルームのメンバーに意見をもとめながら、真相にたどり着くのでした。
 …が、ある日、メンバーの一人が殺されたということで、素性を伏せていたメンバーが一堂に会することとなります。そこで明らかにされる真相とは。

 と、いくつかの短編が入れ子構造になりながら、全体がつながっていく、という趣向の作品です。
 2000年刊行ですから、初読は20年以上前になります。例によってほとんど内容は忘れていましたが、楽しく読み進められました。

(2021.07.05読了)

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Last updated  2021.09.29 23:15:03
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2021.09.25

Marianne G. Briscoe and Barbara H. Jaye, Artes Praedicandi and Artes Orandi, Brepols, 1992, 120p.

マリアンヌ・G・ブリスコ、バーバラ・H・ジェイ『「説教術書」「祈祷術書」』(西欧中世史料類型第61分冊)
A-VI.B.4、A-VI.D.4
A.文献史料
VI.宗教・道徳生活の史料
B.説教活動|D.霊的史料
4.説教術書|4.信仰に関する概論、「祈りについて」
*   *   *

 久々にレオポール・ジェニコが創刊した叢書『西欧中世史料類型』からの紹介です。今回紹介する第61分冊は、「説教術書」と「祈祷術書」(後者は定訳がないと思われます)の2つの史料を扱います。
 本書の構成は次のとおりです。(拙訳)

―――
前書き

第1部 説教術書(マリアンヌ・G・ブリスコ)
 第1章 ジャンルの定義
 第2章 ジャンルの発展
 第3章 批判の規則
 第4章 影響
 第5章 校訂版
 第6章 歴史的価値
第2部 祈祷術書(バーバラ・H・ジェイ)
 第1章 ジャンルの定義
 第2章 ジャンルの発展
 第3章 「祈祷術書」の批判的評価
 第4章 校訂版と現代語訳
 第5章 歴史的価値
―――

 第1部第1章は、「説教術書」の定義を、『ヘレンニウス修辞学』の「術ars」の定義を援用しながら、「説教執筆と伝達を教えるもの」としたうえで、最初の包括的な説教手引きであるアラン・ド・リール『説教術大全』の概要をやや詳細に見た後、ドミニコ会士アンベール・ド・ロマン『説教師の教育について』を紹介します。
 第2章はアランから始まり、オーヴェルニュのギョーム、伝ボナヴェントゥラ、ウェールズのジョンなど、主要な説教術書を通史的に見ていきます。
 第3章はまず、主題、副主題、主題の区分といった当時(13世紀頃から)の説教の構造を概観した後、著者の同定が困難な場合が多いこと、写本には装飾が少ないこと、詞華集など他のジャンルとの関係などを論じ、最後に未解決の問題を提起します。
 第4章はアランなどの影響力を、第5章は校訂版などを紹介し、第6章は、「説教術書」が説教の実践を十全に研究するための重要な史料であることなどを指摘します。
 第2部はほとんど研究されていない「祈祷術書」(訳語は拙訳。私が読んできた邦語文献でこの訳語を見た覚えがなく…)について論じます。そもそもars orandiという言葉は中世になく、その他のarsとの類似から用いられる研究用語とのこと。定義として、祈り方を論じるだけでなく、祈りを自覚的な言語的戦略を必要とする体系的な活動として扱う書物とされます。
 第2章は通史的に「祈祷術書」と考えられる書物を紹介します。サン=ヴィクトルのフーゴーによる『祈りの方法について』は、邦語文献ではたとえば​ジャン=クロード・シュミット『中世の身ぶり』​でも紹介されています。
 第3章は、著者、言語、聴衆、他のジャンル(特に「説教術書」)との関係などについて触れます。
 第4章は校訂版の紹介、1ページのみの第5章は、「祈祷術書」が大学の興隆と密接な関係があること、民衆の信心の歴史と関係があることを指摘します。
 だいぶ前に目を通しておきながら、記事を書いていなかったことなどから、この度ざっと再読。私の研究関心からは第1部が重要ですが、未解決の論点をいろいろと提示している点が興味深かったです。

(2021.07.01読了)

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Last updated  2021.09.25 12:46:30
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